ムエルテ島上陸作戦
ウィンディア港を出航し20日ばかりが経過した。
マーメイド号はアステル島へ向かうため途中で別れ、ノックスらの乗るセイレーン号はムエルテ島周辺までやってきていた。
船に乗り慣れていない者も、流石の長旅によりすっかり精神耐性を取得し、船酔いで倒れる者は居なくなっていた。
「もうじきムエルテ島が見えてくるかと思います。」
航海士のミューレンが地図を見ながらそう言い放つ。
「……いよいよ、か。皆、準備はいいな?」
ここに来るまでの間にノックスらは綿密な作戦会議を行い、来るべき決戦に向けて準備をしていた。
と言っても今回は真正面から乗り込むだけではあるが。
何よりもこの船の大きさから隠密は不可能であることと、自分たちの脅威を見せつけるためには真正面から戦闘すべきだと判断した。
「ワシが龍形態で派手に暴れたほうが早いじゃろう。」
そう発言したベリアルには、頭から生えていた2本の角が無くなっていた。
聞くところ、ベリアルは人形態時でも角を出していた理由は「かっこいいから」だそうだ。
とはいえ、人が増え、狭い船内では角が邪魔になるらしく、仕方なくしまい込んだらしい。
「建物内の構造が不明だ。お前が暴れたせいで救出すべき者たちが瓦礫の下敷きになっては本末転倒だろ。」
「むう……仕方ない……それまでは我慢するかのう。」
「ノックス様、鳥人族よりムエルテ島が見えてきたとの報告です!」
「よし。ならこのまま手筈通りに進める。」
ノックスの号令によりメローネが先導し鳥人族は空から、竜人族はシリュウを筆頭にして海からムエルテ島へと上陸する。
船上から見た限り、ムエルテ島はそこまで大きい島では無いが、断崖沿いギリギリに建物の高い壁がそり立っており、さながら監獄島のようである。
建物中央には一段と高い建物が建っており、外から見るとウェディングケーキのような外観となっている。
すでに相手もこちらを捉えており、防衛態勢を整えていた。
その時、突如として上空に爆発が起きた。
どうやら相手の火魔術でもって上空を飛んでいる鳥人族に向けて放たれていたようだ。
鳥人族はひらりと躱したものの、その後も続けて火魔術により迎撃が続行されている。
「最大船速で進め!」
ノックスの命によりエルフ族が詠唱を行い、帆に風魔術を当てた。
途端に船がグイと前へと押し出され、一気に加速する。
「ガハハハハハハ!!楽しみじゃのう!!」
「固有魔法に気をつけろよ。」
「分かっておるわ!!」
「ノエルたちも手筈通りに。リドルとホークもだ。ノアはノエルたちに着いてゆけ。」
「「「「「「はっ!!」」」」」」
「ミャウ!!」
急接近してくるセイレーン号に向けて守備隊から矢や魔術か続々と放たれる。
が、どれも全てアインとモズ両名が展開した魔障壁により防御した。
「私は左を!アインは右側を!」
「了解ッス!!」
その後も絶え間なく放たれる矢も魔術も、全て2人の魔障壁により完璧に防御していた。
「モズもなかなかやるッスね。」
「勿論!ノックス様の第1夫人になるためですから!」
「コチラからもお見舞いしてやれ。弓スケルトン。」
ノックスの指示を待ってましたと言わんばかりに、弓スケルトンが弓矢をギリギリと番え、矢を次々に放っていく。
普通であれば絶対に届く訳がなく、届いたとしても狙い通りに射れる距離でも無いはずだが、弓スケルトンは目測で風と距離を計算し、偏差撃ちを行う。
守備隊はその矢により次々と仲間の頭を見事に射抜かれていく様に驚愕した。
「…こ……これだけ距離が離れているにも関わらずここまで正確に……!?」
「……このスケルトンらが敵で無くて本当によかった……」
その衝撃にはノックス側の陣営も同じであった。
相手の攻撃を防御しつつ、船が断崖へと近づいた所で、ノックスが舳先へと歩き魔力を練り上げる。
「せり上がれ!!」
土魔術が放たれ、船と島との間に巨大な架け橋が大地からせり上がった。
「奴ら崖から来るぞ!!応戦しろ!!」
「…なんて奴らだ…!!無理やり大地を隆起させて…!!」
「早く来い!!奴らを中に入れさせるな!!」
突如として出来上がった巨大な架け橋に守備隊が駆けつけた。
やがて架け橋を駆け登ってゆくノエルらと会敵する。
「アイン!!」
「分かってるッスよ!」
アインが守備隊に向けて雷魔術を撃ち放つ。
何人かがそれに直撃し、断末魔を上げるまでもなく即死した。
「気をつけろ!!無詠唱魔術師がいるぞ!!固まるな!!」
「魔道部隊!!迎撃しろ!!」
「やるのうアイン。じゃが次はワシじゃ!!」
ベリアルが槍に火を纏わせ薙ぎ払うと、纏っていた火魔術が撃ち放たれ、守備隊が放った魔術を飲み込んでそのままの勢いで襲いかかる。
守備隊は急いで魔障壁を展開したものの、ベリアルの放つ火魔術の前には防御にすらならず、すぐさま融解し守備隊に直撃した。
「軟弱な奴らだのう!!」
「…さ、さすがは火龍…」
「お陰で道が開いた。今のうちに侵入するぞ!!」
「ミャウ!!」
ノックスが率いる魔族部隊と守備隊との戦闘の火蓋が切って落とされた。
その様子を船で見守っていたノックスは架け橋へと降り立ち、続いてマイナたちも降り立った。
「さて、俺達もそろそろ行くとするか。」
「了解よ。みんな、いいわね?」
「勿論だ。」
「…待ってろよシャイナ……もうすぐだ…!!」
マイナたちは自身の悲願を達成すべく、改めて気合いを入れた。