聞き取り
いよいよ出立の日となった。
セイレーン号にはノックスたち含めた救出班が乗船し、マーメイド号はアステル島での拠点作り班が乗船した。
驚いたことに、拠点作りに際してウィンディアから何人も協力の申し出があった。
さすがに全員という訳にもいかず、ロンメアからの職人たちと協力して選出し、ウィンディアからは15名の職人を選出した。
マーメイド号には非戦闘員の魔族やロンメアからの職人、スケルトンの他にも資材がギッシリと積まれていたため、ウィンディアからも船を1隻出し、追加の資材とウィンディアの職人たちがそこへと乗り込む手筈となった。
出港に際してたくさんの人が見送りに来ており、国王はもちろんの事、ハーティ王子も列席していた。
ノックスは国王と挨拶のために壇上に上がる。
「国王陛下。色々とお世話になりました。」
「それはこちらの台詞だ。我が息子のハーティも貴殿のような男になると息巻いておる。」
ノックスがハーティを見やると、目を爛々とさせてノックスを見つめているハーティがいた。
誘拐事件以後、部隊長だけでなくガンベルですらも強さを認めるノックスの強さに憧れを持ったのだろう。
「それは光栄でございます。」
「父として、そしてこの国の王として、貴殿に改めて感謝する。ありがとう。」
国王は人目も憚ることなく深々と頭を下げて感謝した。
「お言葉、有難く頂戴致します。」
「では、そなたらの無事を祈っておる。貴殿の荷物になるであろうが、シリュウとメローネの2人も宜しく頼む。」
「着いてくるからにはこき使わせてもらいますよ。」
「ファッファッファッ!そうしてくれ!」
「ではまた、6ヶ月後にマイナたちを連れ帰って参ります。」
「うむ。改めて旅の無事を祈っておる。」
国王と握手を交わし、挨拶を済ませたノックスはセイレーン号へと乗り込み、さっそく船は各々の目的地へ向けて出港した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ムエルテ島へと向かう道中、ノックスはマイナを呼び止め、自室へと案内した。
「……さすが慕われてるだけはあるわね……この部屋だけこんなに立派……」
部屋に入るなりマイナはノックスの部屋の豪華さに見とれていた。
「そこに掛けてくれ。紅茶は飲めるか?」
「えぇ。ありがとう。」
ノックスは2つのカップに紅茶を煎れた。
どうぞと言わんばかりに紅茶を差し出されたマイナは、カップを口元に寄せて香りを嗅ぎ、その後ズズっと啜った。
ノックスも続いて紅茶を啜る。
「……良い香りね……」
「……ふむ………が、少しばかりウィンディアの茶葉が負けてしまっているな。」
「あら?ブレンド?」
「そうだ。ウィンディアで取れた紅茶葉とロンメアで購入した茶葉をブレンドしてみたんだがな。ロンメアの茶葉の香りを活かせれば…と思ったんだが。」
「紅茶を嗜んでるなんて意外ね。見た感じは私より若いのに。それに十分美味しいと思うけど。」
「先生が良いからな。茶菓子も良かったら食べていいぞ。」
ノックスは紅茶を啜り、茶菓子として用意していたクッキーを1口齧る。
続いてマイナも茶菓子を食べ、紅茶を啜った。
「……それで、私に何を聞きたいの?」
「…あぁすまないな。聞きたいのは俺じゃない。お前たちが俺たちに聞きたいことは?」
「……?……なぜ急に……?」
「今まで俺たちが質問攻めだったからな。お前たちの話を聞いている暇も無かった。」
「何でも聞いていいってことかしら?」
「答えられる範囲なら。」
「……なら……あなた達は教会から魔族の権利を勝ち取るって話だったけど、どうやってそれを認めさせるつもり?」
「…そうだな……まずはアズラエルという教皇に話をつけねばならん。」
「……知っているかと思うけど、アズラエル教皇はゴリゴリの強硬派よ。魔族の国なんて認める訳が無いと思うけど…」
「だろうな。」
「枢機卿、司教、12使徒。教皇はその全てを強硬派で固めてるのよ。」
「聞き入れられなければ、聞き入れるしかない状況を作るしかない。
頭をもがれた組織がその後どうなるかは見物だがな。」
「……歯向かう者、立ち塞がる者は抹殺していく、ってことかしら?」
「俺たちは安全に過ごせる場所があればそれでいいが、教会が今までにしてきたことを知れば、野放しにするとは到底思えん。」
「…それもそうよね。」
「……他には?」
「そうね……これはまだ先の話になるけど……ムエルテ島を解放し、ウィンディアで認めて貰えたら、の話よ。」
「……ほう?」
「……今回の件が終わったあと、私たちもあなたの作る国に住まわせてもらうことは出来るのかしら?」
「俺たちの国に?
…弟らを無事に救出できれば、お前たちにとってはもう教会との戦いは終わるだろう?」
「……あくまで選択肢の話よ。当然戦いから身を引きたい者もいるでしょうけどね。
ただ、私たちの目的が達成できたとしても、教会が裏切り者の私たちを野放しにするとは思えないけどね。」
「なるほど。お前たちが俺たちの作る国に住みたいというのならば別に構わん。教会から狙われる者同士仲良くできるかもしれんな。」
「ありがとう。今はその言葉だけで十分よ。
…そういえば、このお茶会は私だけなの?」
「いや、この後ハイゼルたちも代わる代わる聞いていくつもりだ。」
「……そう……」
マイナはカップに残った紅茶を煽り、スっと立ち上がった。
「ご馳走様。それと、ありがとう。私たちのためにわざわざこういう場を設けてくれて。」
「まだ礼には及ばん。」
「それじゃあ宜しくね。ノックス様。」
その後、マイナに続いてハイゼルたちと話し合いの場を設け、1人ずつ色々な話を聞いた。
セトとの話し合いが長引いたり、ヨハンナは終始恥ずかしそうにしていたり、などあったものの、全員との話し合いは滞りなく終了した。
話し合いをしてみて分かった事は、皆多少の不安を抱えているようであった。
ムエルテ島で待ち受ける戦いのこと。
家族のこと。
今後の自分たちのこと。
教国内に他にもいるであろう穏健派のこと。
ノックス自身、教会が保有している固有魔法や称号の効果について、すでにリームスに一杯食わせられた形である。
改めて気を引き締めなければならないなと自分に言い聞かせていた。