心配事
「ノックス様、少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
作戦会議が終わり、ひと段落していた所へノエルが現れた。
「ノエルか。どうした?」
「ルナ様の事で。」
「……聞こうか。」
ノエルによると、リームスの鑑定によりノックスのステータスが知られ、それがノースの耳に入れば人質として取られてしまうのではないか、との事であった。
「俺もそれについて考えた。ルナの救出は早いに越したことはない。」
「ムエルテ島での救出作戦、我々にお任せいただけるのであれば、ノックス様はルナ様の救出に行かれてはいかがかと存じまして。」
「あぁ。ヨハンナの『透明』に乗じてな。それも考えてはいるが、相手の戦力次第だな。」
「それで先程ヨハンナと話をされていたのですね。ならばこそ、我々がムエルテ島で騒ぎを起こせば、サントアルバ教会の注意を引き付けられます。」
「とはいえまずはマイナの弟らの救出作戦だ。ルナの救出よりもまず。」
「ですが…」
「救出作戦が上手くいけば、お前たちは先にムエルテ島を離脱しろ。妹は俺が必ず救い出す。」
「それならば私も…!!」
「ならん。敵陣のど真ん中に入る以上、人数が少ないほうが動きやすい。」
「………か……畏まりました……」
「とはいえ気を使ってくれたようだなノエル。ありがとう。」
「いえ!当然の事です!…では、失礼致します。」
あまり納得していない様子であったものの、ノエルは軽く礼をしてその場を去った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……ふぅーーー……やっぱなんか緊張したなあ。」
「セト、お前はあまり喋ってなかっただろうが。」
セイレーン号の一室にて、マイナたちは集まっていた。
と言うのも、ウィンディア王国内での風当たりが強いため、セイレーン号の一室で寝泊まりをしているためである。
「にしても、あのノックスさんが言ってた俺の固有魔法の話なんだけど…」
「『保存』によるエネルギーがなんとか、って話だったわね。」
「そういやそんな話してたな。俺には何のことかさっぱりだったけどよ。」
「俺もあれから考えてみたんだけどさ、なんとなーくは分からなくもないんだよ。
……こんな大ハズレの固有魔法だってのにさ。」
「…あの人は根が優しいのよ。その分『敵』には容赦はしないけどね。」
「…にしてもマイナの言ってた通りだったな。ジェラート氏の目論見通り、ノックスさんは魔王だったというわけか。」
やがてそこへヨハンナとホークが食材などの手荷物を抱えて合流した。
「2人とも、すまんな。色々と言われたんじゃないのか?」
「あたしらはマイナと違ってこの国では有名人じゃないから大丈夫だったわ。」
「…あまり嬉しくないけどね。」
「……そういやヨハンナ。ノックスさんと何か話してたけど、何だったんだい?」
「……た、単にお礼を言っただけよ!毒の治療のね。」
「そういうとこキッチリしてんなあ。」
「それと、ノックス様から申し入れもあったのよ。ムエルテ島に着いてからだけど、もしかするとあたしはノックス様と別行動を取るかもしれないって。」
「……例のルナの件で、か?」
「多分ね。」
「過剰戦力っしょ。ノックスさんにベリアルさんだけでも十分なのに、ノエルさんら。あと、スケルトン。
あのスケルトンたち、やばすぎっしょ。」
「…話には聞いていたが、あれ程強いスケルトンなんてな。噂に聞くリッチ並かもしれん。」
「……ってか気になったんだけどよ、ヨハンナってノックスさんに『様』付けなんだな。」
「……!!」
「そういえばそうね。私たちも気をつけないと。」
「……あれ?ヨハンナ、何か顔赤くね?」
「う、うるさい!!」
「……まぁ、死の淵にいた自分を治療してくれ、しかもそれがあんなイケメンなら惚れちゃうよなぁ。」
「ほ、惚れてないし!!これ以上言ったらぶちのめすよ!!」
「わ、悪ぃ…」
「……俺たち……これでいいんだよな……?」
セトが急に深刻な表情を浮かべた。
「教会を裏切ったことか?」
「いや、そうじゃなくて、ノックスさんを信じていいのかってこと。」
「良いに決まってるわ。まだ見知らぬあたしにだって治療してくれたのよ?
教会だったらとんでもない金額の治療だったはずなのにね。」
「いや、それに関しては感謝してるんだよ。ただ、ノックスさん、妹のほうを優先するんじゃないかってさ。」
セトの言いたい事は皆にもなんとなく伝わっていた。
ノックスの配下にある魔族やスケルトンたちは言わずもがなノックスの指示に従う。
裏を返せば、彼らはノックスの指示にしか従わない。
自分たちの家族とルナ。そのどちらにも危機が迫った時、間違いなくルナを優先するだろう。
だが、皆の心配をかき消すかのようにヨハンナが口を開く。
「………あたしはノックス様に従う。あの人はあたしらを絶対見放さないって信じてる。」
「……ヨハンナ……」
「決して惚れた腫れたの話じゃないわ。」
「俺たちの目的のためにここまで過剰な戦力を遣わせてくれたんだ。少し心配があるとすれば、リコリス司教の固有魔法だな。」
「あの本にはその辺書かれてなかったのか?」
「私も一読したけど、『リコリス・グランデ』が司教であること以外、何も書かれていなかったわ。」
「ま、12使徒じゃあるまいし、わざわざ称号やら固有魔法やら公表しないからなあ。」
「ともかく、私たちは私たちのやれることをやりましょう。彼が信用できるかどうかはまだ分からないけど、私たちはこれに賭けるしかない。」
「……それも………そうだな……
……うっし!!やるか!!」
セトは自身の頬を叩いて気合いを入れ、皆もノックスのことを一先ず信用し、戦うためにと気合いを入れ直した。