拠点作り計画
この日のノックスはローシュらとアステル島での拠点作りについて議論していた。
ローシュの他にも非戦闘員である魔族らもそこに集い、中央のテーブルに拠点の設計図を置いて囲んでいた。
拠点作りにあたって、ローシュらはノックスが不在の間にかなりの情報をかき集めてくれていた。
「拠点中央にはノックス様が構える居城を作ろうかと思っておる。そこから放射状に住居や様々な施設に…」
「…中央に居城、と言ったか?」
「うむ。我らが王たるノックス様の居城を据えさせてもらおうかと。」
「気持ちはありがたいが、中央に城でなくても構わん。それよりも仕込みたいものがある。………」
ノックスは自身の考えをローシュらに話した。
「……なるほど。それは面白い……」
「……それでしたら、ノックス様のご意向通り、その仕込みをした上で、居城作り、という方向に致しましょうか。」
「……他に、ノックス様が必要だと思う施設などあればお聞かせ頂ければ。」
「……いや、それ以外は特に……」
「それならば、ダンジョンを作ろうではないか!!」
外から聞いていたのか、部屋に突如としてベリアルが入ってきた。
「ダンジョン?」
「そう!ダンジョンじゃ!!」
「…そう簡単にダンジョンなど作れる物ではないだろう。」
「なんじゃ?ノックスでも知らんのか?ダンジョンなど、条件さえあれば簡単に作れるぞ!」
「…なに…?」
ベリアルの意外な一言に部屋中がザワついた。
「…どうやって作るんだ…?」
「まずは広い洞窟。ノックスの地魔術であれば簡単に作れるじゃろう!
あとはそこに魔素を流し込み、留めるだけじゃ!」
「……随分簡単そうに言うが、魔素を流し込んで留めるにはどうするんだ?」
「ジジイの魔石は取ってあるんじゃろう?それさえありゃあとんでもなくデカいダンジョンを作れるぞ!
ワシら龍族は子供の頃にそうやって魔石でダンジョンをよく作って遊んでおったんじゃ!」
「確かに魔石は取ってあるが……」
「……ベリアル殿……今回はワシらの拠点作りのためなのだ。すまんが、拠点内にダンジョンを作るというのはさすがに、な……」
「む?なら離れた所に作れば良いじゃろう。ノックスの魔力とワシの魔力を合わせれば、それはそれはとんでもないダンジョンに仕上がるぞ!!ガハハハハハハ!!」
「ベ、ベリアルさん、今はその…大事な打ち合わせですので…その…ダンジョン作りに関してはまた今度で……」
「……いや、待て。」
ノックスの脳裏にある様々なピースが形を成していく。
「…使えるかもしれんな。ダンジョンというのも。」
「ほ、、本気ですか!!?」
「すぐに、という訳では無いが。」
「ガハハハハハハ!!!!さすがはノックスじゃ!!どんなダンジョンにするか楽しみじゃのう!!」
ノックスはローシュらに自分の考えを説明した。
「……な、なるほど……!!確かにそれは……!!」
「ローシュ殿!それなら俺らも賛成です!」
「……うむ。さすがはノックス様だな。ならば、ノックス様の案を取り入れ、組み込んでゆこう。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その後、久々の議論に疲れたノックスはベリアルと共に気晴らしにギルドへと赴いた。
ボードに貼られているクエストを一通り目を通し、気晴らしとなるクエストを探していた。
「……ほう……薬草探しに荷物の配達ばっかりじゃのう。
……お!『ウィザードフォックスの討伐』、これなんか面白そうじゃのう!」
「討伐クエストか。Bランクのクエストだが、差し当たりそれくらいがいいかもな。他のクエストもついでに受けるぞ。」
「ふむ。しかし、これで金が貰えるとは楽でいいのう!これでまた『はにこむ』とやらをたくさん食える!!」
クエストを引き受けた2人は早速外出し、目撃されたポイントへと向かう。
そして感知スキルで補足し、討伐。
桁違いの強さを誇る両者により、あっという間にクエストを消化させた。
「うーむ。さすがにワシらでは相手にならん奴らばかりじゃったのう。」
「街の喧騒も良いが、たまにはこうして外でゆっくり時間を過ごす時間もまた一興だ。」
「…そういえば気になっておったんじゃが、お主が幼少期に過ごした『悪魔の口』とやらは、そこまで過酷な場所なのか?」
「………そうだな。毎日、生きるか死ぬか、それの繰り返しだったな。」
「よくもまあそんな所で生き抜けたものよのう……」
「ベリアルは地龍とはどんな関係だったんだ?」
「……あのジジイは、ワシが小さい頃によく稽古を付けられたんじゃ……いつも叩きのめされておったがのう……」
「…師弟関係だったのか?」
「まあ……なんというか、その……」
「なんだ?」
「……あのジジイはワシの祖父なんじゃ。」
「…なに?祖父だと?」
「……だからと言ってつまらん責任など感じるなよ。前にも言うたが、あのジジイが力を認め、自ら継承を行ったお主に、仇などというつまらん感情など持ち合わせておらん!」
「…わかった。」
「それにどうせお主の事じゃ!殺すつもりなど毛頭無かったんじゃろ?」
「……どうかな……ただ、ハッキリ言って、そこまで余裕も無かった。
ひとつの油断は死に繋がる。純粋な命のやり取り。
地表に出てまだ日は浅いが、未だにあの地龍より強い者と出会えたことはない。」
「当たり前じゃ!!あのジジイは龍族の間でも怪物と言われるほどじゃったんじゃ!!
晩年は自身の寿命を悟ったのか、力の継承に見合う者を探しておったんじゃ。そして、それがお主だったのじゃ。」
「……なるほどな………そういえば、龍族の谷、だったか?今もどこかにあるのか?」
「…あるじゃろうの。数は減っておるやもしれんがの。」
「…黒龍の影響か?」
「それもあるじゃろう。が、それ以上に、龍族というのは繁殖能力が低いんじゃ。」
「…なるほど。それで『同族を殺してはならない』という掟があるのか。」
「龍族は人間よりもはるかに寿命がある。それと引き換えに、繁殖能力が低いのじゃ。1人の龍族でも、100年か200年かけてようやっと1人出産できる。」
「……龍族の寿命は何年あるんだ…?」
「大体500年じゃ!」
「……そんなにあるのか。だが、それで掟の理由に少し納得だな。」
「人間は寿命が短いからのう。ま、ノックスにはあまり関係ないじゃろうがの。」
「……ここだけの話だが……ベリアル、お前は『転生』について何か知っているか?」
「ん?『転生』じゃと?」
「そうだ。死んだ者が別の生命体として生まれ変わる。」
「……うーーむ……聞いたことはないが……」
「……そうか。」
「……いや、待て、ある!あるぞ!」
「…ほう?」
「昔ジジイに聞かされたんじゃが、神龍がおった時代に、『転生』してきたと抜かしてきた奴がおったそうじゃ。」
「…その者のその後は?」
「……うーーむ……なんじゃったっけのう……幽閉されたとかで……その後についてはすまんが覚えておらぬ。ワシも幼かったんでのう。
ま、どちらにしても大昔の話じゃ。その者ももう死んでおるじゃろうて。」
「……まあ、それもそうだな。」
ノックスは何か引っ掛かりを覚えつつも保留にした。
「なんじゃ?龍族の谷に行きたいのか?まぁ、お主なら歓迎されるじゃろうのう。行きたいのなら連れてやってもよいが。」
「ならば、いつか伺わせてもらおう。」