ザリーナv.sベリアル
この日は久しぶりに合同訓練のためにロンメア王城へと来ていた。
どうやらスケルトンらもこれまで合同訓練に参加していたらしく、衛兵たちとは既に顔見知りの仲のようである。
ナタリア、モズ、リドルの3人の実力を図るべく、ノエル、アイン、ノアと模擬戦を行う。
剣術や魔術の使い方に関してはナタリアらに軍配が上がったものの、立ち回りや連携、誘い込みなどの実戦の部分でノエルらに軍配が上がった。
その様子にノックスは感心して見ていた。
「この短期間でここまで力を……ナタリアたちも努力したんだな…」
「それを言うならば、ノエルらの実戦に基づく立ち回り……恐らくはレベルも私らとは差を開けたようね…」
「へへっ…そりゃあノックス様の厳しい訓練の賜物ッスね!」
「むうぅ……あたしもノックス様と一緒に行きたかったのにぃ……」
「にしてもリドル、よくぞ2人をまとめたな。」
「……苦労した……」
訓練を見守っていたノックスが皆と合流し、それぞれの反省点について話す。
「まずはナタリア。薙刀スキルが格段に上がっているな。薙刀特有の広い間合いを活用しつつ、内側に入られたとて対処出来ている。
しかし、対魔術師とすると少々出遅れがちだな。無詠唱で魔法を撃ち込んでくるような相手をする場合、魔力感知で予測するだけでなく、如何にして距離を縮めるか。そこが課題だな。
続いてモズ。支援魔術に関して言う事はない。不得意な攻撃魔術も、要所要所に撃ち込んでくるタイミングの見極めも申し分はない。
あとは接近戦だ。ノエルは当然警戒していただろうが、気配を殺したノアが接近戦を仕掛けられて傷を負ったな。魔術師と言えど接近戦に対処出来るようにしておくことだ。」
「はっ!!ありがとうございます!!」
「頑張りますぅ!!」
「最後にリドル。お前は何と言うか…特殊だな。」
「…特殊…ですか?」
「ああ。攻め時や引き際の判断が素晴らしい。もしかすると戦いを俯瞰で捉えることが出来ているのか?」
「…何と言うか…何となくではありますが、誰がどこにいるのか、どこが手薄か。逆にどこが危険か。ぼんやりとではありますが、まるで上空から見下げたように分かるようになりました。」
「えぇ!?それって空間なんちゃらってやつッスか!?」
「それの応用だな。あとはその能力を最大限活かすよう心掛けろ。」
「了解致しました!ありがとうございます!」
その後、衛兵たちとの合同訓練が開始される。
「しかし…ヒマじゃのう……」
手持ち無沙汰のベリアルが呟く。
「何なら俺が相手しようか?」
「ぬっ!?そ、それだけは嫌じゃ!!強いヤツと戦うのは好きじゃが、お主とだけは絶対嫌じゃ!!」
「ならば、この私と手合わせを願えないか?」
声を掛けてきたのはザリーナだった。
「ぬ?お主、ワシと戦いたいのか?」
「火龍であるベリアル殿のお力がどれ程のものか。是非ともお手合わせ頂ければ、と。」
「ガハハハハハ!!よかろう!!ノックスでなければ誰でも相手にしようぞ!!」
「…分かっているなベリアル?」
「分かっておるわい!!人形態のままじゃろう!!」
「ありがとう。では、舞台上に来てくれ。」
そうして、ザリーナとベリアルの模擬戦が開始された。
観覧席には他の衛兵たちに加え、各部隊長。それに国王までもが列席している。
「ガハハハハハ!!よもやワシと手合わせを願うとはのう!!安心せい!!殺したりはせぬ!!」
「ベリアル殿。感謝する。では……」
国王が威勢のいい声で開始の合図を送り、模擬戦が開始された。
人形態のベリアルは火魔術を行使し、左の手のひらから槍を出現させた。
「ガハハハハハ!!この姿で戦うなど久しぶりじゃ!!ではゆくぞ!!」
ベリアルが地を蹴り、一瞬のうちにザリーナの間合いへと踏み込んだ。
それを見越していたのか、ザリーナも共に前へと踏み出し、すれ違いざまに剣戟を浴びせかけた。
瞬時にそれを判断したベリアルだったが、間合いはすでに槍の内側。反撃が間に合わないと判断し、柄でザリーナの剣戟を受け止める。
刹那、ベリアルの体内に雷が駆け巡る。
ザリーナは攻撃を仕掛ける前にすでに剣に雷魔術を纏わせていたのだ。
「ぬっ!?」
思わぬ形で雷を受けたベリアル。
痺れている間にザリーナはすかさず追撃する。
しかし、ベリアルが地魔術を行使し、足元の大地を割り、ザリーナの追撃を許さなかった。
バランスを崩したザリーナに、ベリアルが槍で薙ぎ払う。
なんとか剣で凌いだものの、ザリーナは後方へと大きく吹き飛ばされた。
「ガハハ!!剣に魔術を纏わせるとは、人間は面白い戦い方をするもんじゃのう!!」
「……やはり一筋縄ではいかない、か……」
「面白い!!ならばワシも少し本気になってやろう!!」
そう言い放つと、ベリアルは体に闘気を漲らせ、熱気により陽炎が揺らめく。
「ゆくぞ!!」
ベリアルはザリーナに向かって駆け出しながら、火魔術を撃ち放つ。
躱しつつ向かってくるベリアルを見やるザリーナ。
ザリーナを火魔術で誘導し、誘い込む。
そして、ベリアルが決め撃ちを決めるが如く猛加速し、刺突を浴びせた。
ギィィイイイイイン!!!!と激しく剣と槍がかち合う。
「まだまだじゃ!!」
刺突を受けられたものの、そのままベリアルは槍の先端から火魔術を浴びせた。
その火力は凄まじく、巨大な爆炎をもたらした。
「ガハハハハハ!!どんなもんじゃ!!……と、さすがにやり過ぎたかのう…?」
ベリアルが心配したその時。
ダメージを負いながらもザリーナが爆炎から現れ、ベリアルの腹に剣を刺し貫いていた。
「…んな!?なんじゃと!?」
「…油断……していたようだな……!」
「ふむぅ。手加減はしたものの、まさか正面から受けて消し炭にならぬかと心配したが、杞憂だったようじゃのう。」
腹を刺し貫かれていたベリアルだったが、痛がる様子もなくむしろ平然としていた。
「そこまでぇ!!!!」
国王が模擬戦の終了を声高にした。
ザリーナの元へノックスが駆け寄り、すぐさま治癒魔術を行使した。
「…まったく、無茶をするな、ザリーナ殿。」
「……すまない……」
見る見るうちにケガが治り、皆安堵の表情を浮かべた。
「ガハハハハハ!!ザリーナと言ったか?お主なかなかにやるようだのう!!」
「…それでも、結局敵わなかった……一矢報いたと言えば聞こえはいいが、この戦いは私の完敗だ。」
「当たり前じゃ!!じゃが、このワシに一太刀でも浴びせられたことは誇りに思うがよい!!」
「ふむ。ザリーナ殿は無茶をしたのは反省点だな。それと、ベリアル。」
「む?なんじゃ?」
「お前は油断しすぎだ。これからの課題だ。」
「…むぅ…それは…確かにそうじゃな…」
「たいちょーーー!!!!」
ノックスがお互いの反省点を話していた所へ、ザリーナの部下たちが現れ、アイシャは泣きながら抱きついていた。




