報告
アステル島から出航し、2週間。
遠目ながら目的地であるロンメア王国が見えてきた。
この2週間、決して順風満帆というわけには行かなかったものの、経験豊かなドレッドの指示、ミューレンの航海術のおかげにより難なく嵐を乗り切っていた。
スキルのレベルアップのせいか、ノエルやアインらの船酔いも、最初の頃より多少マシになっていた。
確認すると、2人ともこれまで所有していなかった『精神耐性』の項目が増え、スキルレベルが3となっていた。
ロンメア王国側から何隻か船が出航し、こちらに近づいてきていた。
おそらくは警戒してのことだろう。
鳥人族のラルスを呼び、こちらに敵意は無いのと、ノックスが帰ってきた旨を伝えるようにと伝言を預け、ロンメアの船へ向けて飛び立った。
やがて1隻の船がセイレーン号に近づき、甲板に整列している乗員が見て取れる。
「ノックス殿、お帰りなさいませ!!」
船長と思しきずんぐりとした男がノックスの顔を確認するなり声を張り上げて敬礼し、後ろの船員たちもそれに続いて敬礼した。
ロンメアの船に横付けし、ノックスが乗船して船長の男と握手する。
「私がこの船の船長、第3支部に所属しておりますノイマンです!よくぞご無事に帰還なされました!長旅、ご苦労様でした!!」
「約3ヶ月ぶりか。もし良かったら俺の船をロンメア王国に入国させて貰っても構わないか?」
「当然です!私らの船が先導致します!」
「分かった。ありがとう。」
ノイマンの船が先導し、それに続いてセイレーン号がロンメア王国へと入港した。
港では衛兵たちが整列しており、ノックスらの帰還を歓迎していた。
「ノックス殿、お帰りなさいませ。早速陛下にお会いになりますか?」
「そうだな。色々と報告もある。ベリアルは俺と共に来てくれ。ノエルとアインとノアはローシュたちに合流して報告してくれ。」
「畏まりました。」
「了解ッス!」
「ミャウ。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
王城へとやってきたノックスとベリアル。
巨人族の門番はノックスの顔を見るなり敬礼し、すぐさま王城へと通してくれた。
王城に入ると秘書官のフランクが待ち構えており、ノックスに労いの言葉をかける。
「ノックス殿、御足労頂き感謝いたします。」
「フランク殿、お久しぶりです。」
「…して、こちらの御仁は?」
「ワシか?ワシは火龍のベリアルじゃ!」
「………はて……?今なんと……?」
「火龍のベリアルじゃ!!」
「………………」
思わぬ答えにフランクは固まってしまっていた。
「フランク殿。決して冗談ではありません。彼は紛れもなく火龍ですが、今は俺たちの仲間です。」
「ガハハハハハハ!!人間の驚き方は皆面白いのう!!」
「…さ…左様ですか……ほっほっほっ…」
フランクは口では笑っていたものの、顔をやや引き攣らせながらハンカチで汗を拭っていた。
フランクに連れられ、2人は謁見室へと入る。
そこにはアルフレッド・バル・ロンマリア7世ことロンメア国王と妻のシンディ。その手前にはザリーナ、ワーグナー、ハルバートの各支部の統括も並んでいた。
「ノックス殿、よくぞ帰ってこられた!!」
「国王陛下、お久しぶりです。」
「よもやこんなに早く戻って来られるとは思わんでのう!その様子では、火龍を退け、アステル島を手中に収めたということか!」
「はい。」
「ガッハッハッ!!さすがノックス殿よのう!!…して、そちらの御仁は?」
「申し遅れました。こちらは火龍のベリアルです。」
「ベリアルじゃ!よろしくのう!!」
「……え?……ひ……火龍……?」
謁見室にいた皆に動揺が走った。
「ノックス殿、その話は本当か…?」
ザリーナがノックスに問いかけた。
「本当だ。今は人形態となってもらっているが、紛うことなき火龍だ。」
「なんじゃ?信じておらぬのならここで龍形態になってやろうか?」
「…ここでは止めろ。」
「ガハハハハハハ!冗談に決まっておろうが!」
国王への報告は火龍の紹介のせいで動揺させてしまったが、その後、今までの顛末を報告した。
特に、ウィンディアへと侵攻してきたサントアルバ教会の件には皆表情を険しくした。
「…といった具合です。」
ノックスが報告を終えたが、皆の表情は様々であった。
顎に手を翳して考え込むハルバート。教会の蛮行に怒りを募らせているのか、険しい顔のワーグナー。あまり表情を崩さないザリーナ。
国王は暫く目を閉じ、何かを考え込んでいる。
「…そうであったか……誠にご苦労であったのう。して、ノックス殿はこれからアステル島にて拠点を作るつもりなのか?」
「はい。当初の計画通り、アステル島に拠点を構え、教会との戦闘に備えるつもりです。」
「ならば、この国からも人材を派遣しよう。フランク!」
「はい。」
「直ちに人材をかき集めよ!」
「畏まりました。」
「ご配慮、有難く頂戴いたします。」
「それまではこの国でゆっくりと休まれよ。」
解散となり部屋を後にした時、ハルバートがノックスを呼び止めた。
「失礼ノックス殿。」
「ハルバート殿か。なんだ?」
「この国にご滞在の間、また衛兵などの訓練にご参加頂ければ、と。無理にとは言いませんが。」
「ほう?面白いじゃないか!」
「そうだな。」
「あれから我々も力を付けております故に。まだまだノックス殿の足元にすら及びませんでしょうが。」
「ハルバート!抜けがけは許さん!!俺が先だ!!」
「ワーグナー…いつからそこに。」
「ガッハッハッ!!これから教会とやり合おうって時だ!!俺もあんな無様な敗北から鍛え上げ直したんだ!!」
「無様では無かったぞ?ボロボロになりながらも立ち上がった気力を嘲笑うような輩は俺が許さない。」
「ガッハッハッ!!そう言ってくれて俄然やる気になったわ!!……と言っても、俺らよりもまず先に相手にせねばならん奴がおるじゃろう。」
「それも…そうだな。彼女の入れ混み具合は半端ではなかった…」
「貴様ら、何の話をしている!?」
「げっ!?ザ、ザリーナ…いつからそこに?」
「フン。貴様らのデカい声で全て聞こえていたわ。」
「ザリーナ殿。改めて久しぶりだな。」
ノックスはザリーナに改めて握手を求めた。
不機嫌そうな顔をしていたザリーナは顔を緩め、やや頬を赤らめながらそれに応じた。
「…こちらこそ、久しぶりだ…」
「気配から察するに、かなりの鍛練を詰んだようだな。」
「…当然だ。それより…その…ケガなどは……いや、貴殿ならそれくらい自力で治せるか……」
ザリーナの様子を見ていたハルバートとワーグナーはニヤけつつ見守っていた。
「心配は無用だ。暫く休養した後、また王城へやってくる。その時にまた、手合わせしよう。」
「あぁ。宜しく頼む。」
「なんじゃ女子?顔が赤いが、怒っておるのか?」
空気の読まないベリアルが至極真面目にザリーナの顔を覗き込みながら聞いた。
「……!!ち、ちがう!!怒ってなどいない!!」
「ん?そうなのか?それにしてもお主らは変わっておるのう。こんなバケモノと手合わせしたいなど…」
「バケモノ呼ばわりは心外だ。ベリアル、お前もやるか?」
「い、いやじゃ!!お主とだけは絶対に!!」
「手加減はするが?人形態での戦闘法も慣れておいたほうがいいかもしれん。」
「フンッ!そんなことをせんでも、ワシに集ってくる羽虫など龍形態で焼き殺してやればよかろう!」
「…前にも言ったが、ここでみだりに龍にはなるなよ?」
「わ、わかっておるわ!…うーむ、まあ、人間同士の戦いを見るのも一興じゃろうし、お主との手合わせはゴメンじゃが、ワシも付き合うとするかのう。」
「ふふっ。」
「む?女子よ、何がおかしいのじゃ!?」
「いや失礼。伝説に聞く八龍とはいえ、ノックス殿はそれを凌駕し、恐れさせるほどだったということに、改めて感心したのだ。」
「女子よ、それを言うなら少し間違いがあるぞ。」
「ん?」
「こやつは地龍を倒した際にその力を継承されておる。つまりは、このノックスも八龍なのじゃ。」
「「「……え?」」」