浜辺にて
「副船長、キャプテンら…大丈夫ですかね…」
「ノアちゃん…ちゃんとご飯食べてんのかなぁ……」
「アインっち、迷惑かけてねぇかなぁ。」
「俺らいつまでここにいるでやんすか?」
「さすがにこんなところ、飛びたくはないですぅ…」
「だぁーー!!てめぇらうるせぇぞ!!」
船を着けた浜辺にて、セイレーン号の乗組員たちは簡易的なキャンプを貼ってノックスらの帰りを待っていた。
とは言えここは火龍の住処ということもあり、3日もすれば皆不安を口にする。
「そこまで言うんなら、てめぇらが見に行きゃいいじゃねぇか!!」
「そんな殺生な……」
「こんなジャングルの中、俺らだけで行ったってモンスターの餌になるだけやんす……」
「んならドーンと構えておりゃええ!ここだって、いつモンスター共に襲撃されるかも分からねぇぞ!」
その時ジャングルの木々がガサガサと音が聞こえ、船員たちはビクついていた。
が、特に何かモンスターが出現したわけでもなくただ木が揺れただけであった事に皆安堵する。
「ちょ…あんましビビらせんでくれよ副船長〜。」
「…にしても、さすが副船長……ドーンと構えてるなぁ……」
「ガッハッハッ!!てめぇらとは経験が違うわい!!」
「……ん……なんスかあれ?」
船員の1人が上空を指し、ほかの皆もそれに倣う。
「……鳥か?……鳥型の…モンスターか……?」
「………なんか………こっちに向かって来てね……?」
「あぁん?全くてめぇらは……んなもんジャングルだったらいくらでもおるだろうがい。」
「……なんか……………デカくね……?」
シルエットが徐々に顕になるにつれ、船員たちの顔色がみるみる青ざめる。
その正体が確信へと変わると、足が震え、腰が抜け、声にもならない驚愕の表情を浮かべる。
「なんだってんだてめぇら!!あんまり冗談が過ぎるなら容赦しねぇぞ!!」
ジャングルを背にしたドレッドは、皆の態度を一喝した。
「…じょ、冗談じゃないでやんす!!後ろ!!後ろ!!」
「ひぇぇえええええ!!!!もう終わりだぁぁああああ!!!!」
「…あぁ……どうせ死ぬなら……せめて女の子ともっとイチャイチャしたかった………」
「全く……なんだってんだてめぇらは……」
冗談とは思えない皆の態度に、ドレッドは渋々後ろを振り返り、ジャングルの上空を飛んで来ている物体に目をやった。
そして、それを確認したドレッドはワナワナと震えだし、後退りしながら腰を抜かした。
「……ひ……ひ……………」
「…火龍だぁぁああああ!!!!」
火龍は高度を下げ、そのまま浜辺に着地した。
船員たちは皆、絶望の表情を掲げている。
「さすがに早いな。」
『ガハハハハ!!このワシにかかればこんなもんよ!!』
絶望している皆を他所に、見知った者が火龍の背から降りてきた。
ノックスだ。
ノックスに引き続き、ノエル、アイン、ノアも火龍の背から次々と降りてきた。
が、ノエルらはノックスとは違い顔を青ざめ、アインに至っては嘔吐していた。
『なんじゃ全く!!だらしがない奴じゃ!!』
「そう言ってやるな。それより、ドレッド、他の皆も。待たせたな。」
「……キ……キャプ………テン………?」
「もう俺の顔を忘れたのか?」
「…いや…そうじゃねぇが……こりゃ一体……?」
「火龍のベリアルだ。俺たちの仲間に加わった。」
ノックスに紹介されたベリアルが、人型へと変身した。
「ガハハハハ!!なんか此奴らに着いていけば面白そうだったんでのう!!」
「…は…?……え……?……な、なん……」
ドレッドはあまりの驚きの連続により口をパクパクさせていた。
「驚かせてすまないな。」
「しかしながら、ノエルもアインも!!それにノアも!!だらしないぞ!!ノックスだけが平然としておるではないか!!」
「……面目……ございま……ウップ……」
「…あ…あんにゃにも……飛ばすから……オェェ…」
「……グゥゥ……」
ノックスとベリアル以外の者が落ち着くまでしばらく時間が必要であった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「し…しかし……おったまげたのう……よもや、火龍さえも仲間に入れてしまうとは……」
「ガハハハハハハ!!お主らは大層にワシにビビっておるようじゃのう!!しかしじゃ!!本当のバケモンはワシではなく此奴じゃぞ!!」
「人を化け物扱いとは心外だな。」
「よく言うわ!!ワシのあれだけの攻撃、無傷で済ますとはのぅ…暫く戦闘してなかったもんじゃから衰えたのかのう。」
「それは俺自身が一番驚いている。もしかすると、『魔王』の称号のおかげなのかもしれんな。」
「…それでよう、キャプテン…これからどうするつもりだい?」
「このまま海路でロンメアに行く事は可能か?」
「そりゃモチロン。ただその前に、ウィンディアには寄らねぇのか?」
「補給が必要か?」
「今すぐに必要って訳じゃねえがよう。国王に報告やら何やらあるんじゃねえかってな。」
「当然それは予定しているが、まずはロンメアだ。あの国には1番に世話になったし、残して来たほかの仲間とも合流したい。」
「なるほどのう。了解だ!」
「それとベリアル。人前で龍形態にはなるなよ。あまり騒ぎにしたくはない。」
「構わんが、戦闘の時は変身するぞ?」
「基本戦闘はノエルやアイン、ノアがやる。会敵する度に龍にらなられても困る。」
「むむぅ……仕方あるまい……お主がそう言うなら従おう……」
「それと気配だ。もう少しその気配を抑えられるか?」
「ぬ?なぜワシがそんなめんどくさいことをせねばならんのじゃ?」
「他の者らのためだ。無抵抗な者にまで必要以上に怖がらせる必要など微塵もない。」
「むぅ……こ、こんな感じか…?」
「……隠密スキルのレベルがあまり高くないのか?」
「八龍ともあろう者が、コソコソする必要もないじゃろうが!!」
「それを言えば俺も八龍だろう。」
「ぐっ…!!た、確かにそうじゃが…!!」
「まあ今は仕方ないか。が、努力してくれ。」
「…仕方ないのう。人間は何かと面倒じゃ。」
「……あの火龍が………キャプテン……いや、ノックス様の言うことに従ってる……」
「…す……すげぇ………」
火龍を従えた事を目の当たりにした船員たちは、新たな崇拝者になっていた。