潜入調査6
ベスティロの邸宅から無事に脱出することが出来たマイナたちは、待機していたハイゼルらと合流した。
「マイナ!!あんなの予定に無いわよ!!もう少しで衛兵らに見つかる所だったじゃない!!」
「そうだぜマイナ……見つかったら元も子も無ぇってのに……」
「……ごめんなさい……どうしても……確認したくて………」
「大体、ルナに直接接触するのはマズいかもしれないって、みんなで話し合ったじゃない!!それなのに…!!」
「……ごめんなさい………」
憤るヨハンナとは反対に、マイナは意気消沈としていた。
「…ま、まあ、無事に脱出できたんだし、そんくらいでいいじゃねえか。」
「セト、あんたどっちの肩を持つつもりよ?」
「え、ええっと……」
「マイナのせいで、みんなを危険に晒したのよ。無事だったから良いってものじゃないわ!!」
「落ち着けヨハンナ。しかし、マイナ。説明してくれ。なぜルナに直接接触を計った?」
「………………」
マイナは項垂れていた。
自分でもなぜあんな事をしたのか。
ノックスの名を聞かせ、反応を見るだけだったのに。
ルナの姿を見た時、どうしようもなく心が締め付けられた。
死んだ魚の様な、光を失った目。
まるであれは、これから死にゆく者のような。
それだけならここまで心が締め付けられることなど無かっただろう。
では、なぜか?
似ていたからだ。
姿かたちではなく、その目が。
一縷の希望すら捨ててしまった、絶望に染まったあの目が。
項垂れていたマイナが、重い口を開く。
「……あたしにも……弟がいんの、知ってるでしょ?」
「……それが何よ?」
「あの子……あのルナって子……弟らと同じ目をしてた………希望を捨て去り、自らの死を受け入れた……絶望に染まった目を………」
「…だから、接触してノックスが助けに来るから、なんて言ったわけ?」
「…そうね…」
「……ハァ……いつも冷静なあんたが取り乱したから、大方そうじゃないかって思ったけどね。
でも言っとく。
あの子はあんたの弟じゃない。あたしらの妹でもない。ただの人と魔族のハーフなのよ。」
「…分かっている…つもりだったわ。ダメね。私。」
「分かっているなら結構。次は無いわよ。」
「…ありがとうヨハンナ…」
一同に張り詰めていた緊張感がようやく溶け、腰を落ち着けていた。
「これで、ようやくこの国ともおサラバか。」
「なんだ?名残惜しいのかセト?」
「まさか!!……いよいよって思っちまってさ。」
「マイナも、これで大丈夫だな。」
「…えぇ。これだけの情報があれば、取引ができるはずよ。
…ただ……ルナが言った最後の言葉……」
『絶対に……ここには来ないで』
その言葉が脳裏に蘇る。
「なぜそんなことを言ったんだ?」
「ノックスって人の実力を知らないだけじゃないの?」
「単純にそうなのかもしれないけど……」
「俺たちがここでとやかく言っても仕方あるまい。その後どうするかは、そのノックスとやらが決めることだ。」
「それも……そうね。それじゃあ、後は個々にこの国を出国。明日の10時に北の森に集合よ。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
次の日、6人はサントアルバ教国から忽然と姿を消した。
北の森にて集合した6人は、ノックスに会うべくウィンディア王国へと出発する。
皆が足早にゆく中、マイナは振り返り、改めて目に決意を宿らせ、サントアルバ教国を後にした。