潜入調査2
6人がジェラート・ジェファーソンを探し始めて5日目。
ようやくジェラート本人と思しき人物にたどり着く事ができた。
探し出すのにここまで時間がかかったのには理由があった。
6人は物陰からジェラートと思しき人物を見やる。
「あれが本当にジェラート・ジェファーソンなのか……?」
と言うのも、本来、父シェイマス・ジェファーソンが死亡したならば、子であるジェラートが家督を継ぎ、枢機卿とまでいかないものの貴族として裕福に暮らしているはずである。
ここは、サンドアルバ教国の外れにあり、所謂『貧民街』である。
当のジェラートはボロ布の外套を羽織り、露天商のような仕事をしている。
しかも、外套から垣間見える腕や足はやせ細っていた。
「元、とは言え名門よね…?奴隷を9千万ダリル弱で購入した程の、大が付くほどの富豪のはずなのに…」
「とにかく聞いてみるしかない。皆、いいな?」
全員が無言で頷き、足並みを揃えてジェラートと思しき人物へと近づいた。
「…失礼。」
声の主をジロリと睨むも、すぐさま目線を下げた。
「……いらっしゃい……どれにしましょう…?」
「買い物に来たわけではない。少し尋ねたいことがある。」
「………………」
「…ジェラート・ジェファーソン、という名に聞き覚えはありますか?」
「………知らん………」
「私たちはその人に会いたくて。探すのに苦労したけど、情報によるとここにいるらしいんだけど。」
「………知らん………」
「父シェイマス・ジェファーソンが殺され、家督を継いだジェラート氏がなぜこんなところに?」
「知らんと言っているだろう!!」
男は急に声を荒らげた。
「落ち着いて頂戴。私たちは危害を加えるために来た訳じゃないの。あの日、何があったのかを聞かなくてはならないの。」
男は落ち着いた口調で話しかけたマイナをジロリと睨みつけたが、真っ直ぐ見つめ返すマイナの目を見て、やや態度を軟化させた。
「……そんなもん聞いて、どうするつもりだ…?」
「シェイマス氏が暗殺される前、『ルナ』という名のハーフデビルの奴隷を購入しているの。私たちはその……」
マイナの説明を聞いていた男は手で言葉を遮った。
「……ここじゃあ人目に着く……こっちに来い……」
男はトボトボと歩き出し、6人もそれに続いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「…こんなあばら家で悪いな……それで……『ルナ』だっけか?」
男に案内されてたどり着いたのは、廃屋と言っても過言では無い程、今にも崩れ落ちてしまいそうな家であった。
「…えぇ、そうよ。私たちはとある人の命令で、その『ルナ』って子を探し出さないといけないの。」
「……探し出して……どうする……?」
「そこまでは知らないわ。でも、間違っても殺すなんてことはしないかと。」
「……殺さない……だと……?…お前らに命令したのはどこのどいつだ…?」
「悪いけど、それは言えない。」
「…じゃあ最後の質問だ……お前らは……教会の敵か?味方か?」
この質問にだけは間違えられない、とマイナは直感した。
時間にして数秒、マイナはここに来るまでにジェラートの胸中を考察していたものを素早くまとめあげ、答えを出した。
「…今のところは敵でも味方でもないわ。でも、私たち本来の目的は教会にとって敵となり得るわね。」
「…………………」
両者の間に沈黙が訪れ、ピリピリとした空気が漂っていた。
「……分かった……いいだろう。」
男がそう言い、後ろ手に持っていたスクロールをそっと傍らに置いた。
「少し待て。」
さらに男は足元のボロ布を掻き分けたかと思うと、そこには地下へと続く扉が現れ、細い腕に力を込めて開け放った。
「……こっから先、お前らが知りたい事が知れるかもしれない……が、その為に命を落とす事もある……覚悟のあるやつは着いてこい。」
マイナはその男が冗談でそう言っているのではないと直感した。
それはほかの5人も同じようであった。
「……いいわ。元より、私はすでにこの国ではお尋ね者。覚悟なんてとっくに出来てるわ。みんなは?」
「俺も構わん。俺たちは互いに同じ目的で動く同志。」
「今更覚悟なんて。そんなのとっくの昔にできてるわ。」
他の3人も同調していた。
「ならみんなでいきましょう。」
男が先導して階段を降りて行き、6人も続いて降りて行った。