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【完結】理不尽に殺された子供に転生した  作者: かるぱりあん
第12章 リームス
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出立

 あれから幾日が過ぎ、ついに出立の日となった。



 先日進水式も執り行われ、式典には国王も出席し、衛兵の他にもたくさんの人が詰め寄っていた。



 進水式は船台進水という方法が取られ、船体を滑らせて進水させる方法であった。



 無事に進水式が終わると大歓声があがった。



 その後国王が乾杯の音頭を取り、国王がワインを煽る。


 続いてノックス、造船責任者のバーラント、作業員の順でワインを飲む。


 そうして最後に観衆含め全員が一斉にワインを煽った。



 この世界で、というより前世でも進水式など初めて見たノックスにとって新鮮であった。




 進水式が終わった後、船員の紹介が行われた。



 獣人族が4名、エルフ族2名、ドワーフ族2名、鳥人族2名、竜人族2名、巨人族2名の合計14名。


 エルフ族は魔道要員、弓による射撃を担当。

 ドワーフ族は船の整備・点検を担当。

 鳥人族は空偵察を担当。

 竜人族は海中での狩猟を担当。

 巨人族は甲板員として主に帆を動かす担当。

 獣人族は各族のサポートや、料理などを担当。


 という配置である。



 さらに航海士としてエルフ族のミューレンという航海士と、副船長としてドワーフ族のドレッドが紹介された。




 そして今日、いよいよ出立の日である。



 見送りに集まってきてくれた各部隊長たちと挨拶を交わし、他にも鍛冶屋のジェルゾやアクセサリー店のリモーネまでもが足を運んでいた。




「今日まで世話になった。ありがとうガンベル殿。陛下にも伝えておいてくれ。」


「世話になったのはこちらです。ノックス殿らがいなければこの国が果たしてどうなっていた事か。いつでもお戻りください。その時は歓迎致します。」


「分かった。それと、もしこの国にマイナという女が現れたら保護してくれ。教会員だが、俺の命令でスパイをさせている。」


「スパイ…ですか。」


「頼めるか?」


「かしこまりました。他の誰でもない、ノックス殿の頼みとあらば。」


「ありがとう。」


 ノックスとガンベルは固く握手を交わした。



 港には部隊長や衛兵、街の住人でごった返しになっており、口々にノックスらへの感謝の言葉、それに入り交じる形で船員たちへのエールも聞き取れる。



「いよいよッスね!」


「足を引っ張るなよ、アイン。」


「ミャウ!!」


「ここまで長かったが、ようやくアステル島だ。準備はいいな、お前たち。」


「「はい(ッス)!!」」


「ミャウ!!」



 ノックスたちが船に乗り込んだ事を確認すると、係留ロープが解かれ、船は次第に沖合に向かってゆっくりと進み出す。



「それでは、よろしく頼む。」


「了解しました。」


 副船長のドレッドがやや嗄れた声で返答し、船員たちに向き直る。


「それじゃあ、アステル島へ向けて行くぞテメェら!!」


「「「「「「おう!!!!」」」」」」



 出港したセイレーン号は風を帆に受け、徐々に速度を早めてアステル島へと向けて旅立っていった。



 観衆はその様子をいつまでも見守っていた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ひゃー!!もう陸があんなにちっさくなっちゃったッスね!!」



 アインとノアは船上ではしゃいでいた。


 とは言え当初ノアは足元が揺れる感覚に気持ち悪そうにしていたが、すっかり慣れてしまったようだ。



「副船長、俺はその…航海術など無いのだが…」



 その頃、舵取りを任せられていたノックスが不安げにドレッドに助言を求めていた。



「ドレッド、で構いませんよ、キャプテン。その辺はワッシやミューレンがサポートしますから、キャプテンはじーっと構えててくれれば大丈夫です。」


「分かった。あと、別に敬語じゃなくても構わんぞ。」


「了解だ!ハッハッ!船乗り生活が長ぇもんで、敬語はちぃと慣れて無くってなぁ。ありがとよキャプテン。」


「他の船員もだ。別に俺たちに遠慮する必要は無いぞ。俺も含め、ノエルやアインもこき使ってくれ。」


「「「「「アイアイサー!!」」」」」


「ふぇっ!?お、俺たちもッスか!?」


「俺たちは客人では無いぞアイン。」



 ノエルがアインを窘めた。



「ところでドレッド。質問があるんだが。」


「おう?なんだ?」


「海にモンスターはいるのか?」


「当然、おる。が、滅多と出会うことは少ねぇな。どこぞの海域でクラーケンを見た、なんて話もあるが、この辺の海域は比較的穏やかだな。」


「ちなみに聞くが、水龍は海に生息しているのか?」


「噂だとグロース海洋の北、ストラノフ海域にいるんじゃねえかって船乗りの間では言われとる。

 ……まさか、そこに行くってんじゃねぇだろうな……?」


「まさか。単なる質問だ。」


「それならいいんだがよう。」


「後もう1つ。帆に風魔術を当てさせて加速させることも可能なのか?」


「可能と言やあ可能だな。が、所詮一時的なもんだな。魔力消費が激しすぎる。そういうのは着岸時に調整する程度だなあ。ま、急ぐ旅でもねぇんだ。ゆーっくり行こうや。」


「そうだな………ん?」



 何気なしに魔力感知スキルを発動させてみると、乗船している気配が読み取れた。



 が、数がおかしいのだ。



 現在上部デッキにいるのは見張り台含め18人と1匹。



 乗船リストでは船員が16名、そこへノックスたち合わせ、19人と1匹。



 竜人族の2人が早速海中で狩りを行っているので、上部デッキには本来、17人と1匹のはずである。


 つまりは、1人多い。



 ノックスはデッキを見やると、他の船員に混じってフードを目深に被っている者がいた。



 ノックスは舵取りをドレッドに任せ、その怪しげな者のいる場所へと移動した。



「おい。お前。」



 ノックスに声をかけられ、体をビクッとさせた。



「そこのお前だ。乗船リストにない者だな。誰だ?」


「…あ!…あぁ!え…えーっと、ワタクシは決してアヤシイものではなくてですねぇぇぇ!」


「名乗らないのならばこのまま斬り捨てる。」


「ひ!ひぇぇぇ!!!!ご!ごべんなざいいぃぃぃ!!!!」



 その者はフードをすぐさま脱ぎ捨て、とてつもない速さで土下座した。



 驚いたのは、それが見知った顔の者であったのだ。



「ノックス様。如何なされ……って貴様は…!!」


 騒ぎを聞きつけたノエルがノックスの元へとやってくる。


「えぇーー!!い、いつの間にー!?」


 一緒にやってきたアインも驚いた。



「……ルミナ殿……なぜここに……?」



 そのエルフ族の女はウィンディア王国で魔道具店を経営していたあのルミナであった。



「…に、にゃははは……い、いやぁ、なんか?あたしの愛しのノックス様がさ?アステル島に行くって噂聞いて?居てもたってもいられなくて?……てきな?」


「てきな?じゃねーッスよ!!遊びに行くんじゃないんッスよ!!」


「その通りだ!!この船でまたあんな怪しげな薬を調合などしてみろ!!それこそこの船は一貫の終わりだぞ!!」


「…ふ…ふぇぇぇん……ノックスさま〜〜、たしゅげて……」


「来た理由はそんな事じゃないだろう?本当の事を話せ。さもなくば…」


「斬るっての!?こんな!こんな可愛いあたしを斬るっての!?」


「斬るのは忍びない。だから船からたたき落とす。」



 ノックスはルミナの首根っこを鷲掴みにし、船のヘリへと突き出し、今にも落とそうかとしていた。



「わ!わかったからー!!ホントの事話すから!!だからおろちて!!」


「ここで下ろしていいのか?」


「ひ、ひとでなしー!!そうじゃない!!船の上におろちてーーー!!!!」



 ルミナを一先ずデッキの上に下ろしたが、一連の騒動に船員たちは口をポカンと開けていた。





「さあ話せ。なぜ黙って着いてきた?」


「…ぐすっ…こわかったよぅ……ぐすっ…」


「グズっているならやはり海に落とそうか。」


「言う!!言うから!!」




 ルミナは心を落ち着かせるため深呼吸した後、乗船の理由を語り始めた。




「簡単に言うと、あたしん店、崩れ落ちた。」


「は?」


「だから、崩れ落ちた。」


「………なぜ?」


「いんやぁー、ボロかったからねぇ。もうちょい持つかなぁなんて思ってたんだけどさ。調合に失敗してドカーン!ですわ。」


「ドカーン!ですわ。じゃねぇッスけど…」


「で、店を再建させよー!ってしたんだけど…」


「だけど?」


「周辺に住んでた人らがあたしのこと追い出したの!!あいつらほんっとひとでなし!!」


「…当然だろうな…」


「ん?なんか言った?」


「…なんでもない。」


「んで、家もなく彷徨ってたときに、ノックス様らがアステル島に行くって噂聞いたの。火龍の住処に行こうってんだからさ?これはあたしも着いていけばさ?色々とオイシ…じゃなくて役に立てるんじゃないかなー?ってね!」


「…………………」


「沈黙はオッケーってことだね!てことで!今日からよろしく!」


「…何の説明にもなっていないが…」



 ノックスのボヤキを聞くまでもなく、ルミナは起き上がって他の船員たちに挨拶していた。



「ノックス様……如何……いたしましょうか…?」


「絶対だめ!!だめッス!!」


「……こんなとこで下船させる訳にいかん。仕方ない。こうなったらアステル島まで連れていくしかない。」


「本気ですか…!?」


「その代わり、船の上では絶対に未知の薬の調合はさせない。したら即下船させるよう約束させよう。」


「……ま…守るんッスかねぇ……」



 ルミナの顔を見てあの悪臭が思い起こされた2人は顔を青ざめ、船の揺れも相まってか、海上に身を乗り出して吐き下していた。

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