引き渡し
王城の作戦会議室は緊張感でピリピリと張り付いており、中央に腰掛けた国王の周りには幾人かの近衛兵が付いていた。
象の獣人族である国王はその長い鼻から深いため息をつく。
息子ハーティの誘拐の件で、ここ3日で憔悴していた。
「……犯人の動きは……?」
国王が口を開く。
「…今のところはまだ何も……」
この質問もすでに3度目。
未だ誘拐犯に動きはなく、指定された4箇所に置いてある金はまだそこにある。
国内は厳重な警戒が敷かれており、至る所に衛兵が配置されていた。
ノックスたちはと言うと3箇所に分担して受け渡し場所を遠目から警戒していた。
あれからも何かしら手掛かりを探ってはいたものの、何ら収穫はなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
時間が正午になり、それを報せる鐘の音が国内に響き渡る。
その時、不意に置いてある金に近づく影が現れた。
衛兵たちがその不審者の動きを注視しつつ最大限に警戒する。
その不審者はマントを羽織り、顔が分からない。
が、身長はやや低く、ドワーフ族のそれと同じ程度であった。
不審者はフラフラと金が入っている箱へ近づくと、徐に懐から紙を取り出し、それを箱の上に貼り付けた。
すぐさまその紙から光が放たれ、箱は一瞬にして消え去ってしまった。
が、紙を貼り付けた不審者はまだその場に残っている。
気配を殺しながら取り囲んでいた衛兵が一斉に不審者を取り押さえた。
手早く猿轡を噛ませ、コートを剥ぎ取る。
が、そこに現れたのは、誘拐されていたはずのハーティ王子その人であった。
衛兵に動揺が走るも、すぐさまハーティ王子を保護し、周辺の捜索を行うよう指示が飛ぶ。
そして、これと同じことが他の受け渡し場所でも起こっていた。
ただ1箇所を除いて。
捜索は衛兵たちに任せ、ノックスは一先ずノエルたちと合流することにした。
が、そこにいたのはノエルだけであった。
「ノックス様の方でも同様の手口が使われていたのですね…」
「ああ……だが、受け渡し場所は4箇所。連れ去られていたのは3人。あとの1箇所は…」
「アインの奴め……こんな時に遅刻するとは……」
やや遅れて、アインがこちらに走りよってくるのが見えた。
「はぁ…!はぁ…!…お、お待たせしたッス…!」
「まったく、貴様はこんな時に遅れるとは…!」
「そ、それがッスね…色々と訳があって…」
アインが呼吸を整え、何が起こったのかを説明する。
「正午の鐘が鳴ってしばらくした時ッス。いきなり金の入った箱が光出したと思ったらパッと消えちゃったんッス!」
「何?人質は?」
「へ?人質?」
どうやらアインが見たものはノックスとノエルが見たものと少し違うようであった。
「みんなのとこには人質が転移の魔法陣を貼り付けにきたんッスね。俺んとこには人質は現れなかったッスよ。」
「連れ去られたのは3人だからな。おそらくもう1箇所は俺やノエルの所と同じ方法だったんだろう。」
「それにしても、いきなり光出しただと?アイン、気を抜いていて見逃しただけでは?」
「だ、大丈夫ッスよ!俺だけじゃなく他の衛兵に聞いてもみんな誰一人として金に近づいてきた人はいなかったって話なんッス!感知スキルにもなんも引っかからなかったんッス!」
「…賊にそんな芸当ができるとは到底思えないな……」
「ではやはり教会が絡んでいる、と?」
「だな。アイン。もう一度お前の現場に戻るぞ。」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「だあっはっはぁっ!!ラクショーだったなぁ!!」
「こんだけありゃあ一生安泰だなぁ!さすがお頭!!」
「それもこれもアンタらのおかげだ!!だがホントに分け前いらねぇのか?」
「前に話した通り、我々には不要ですよ。分け前を要求するならもっと高額の身代金を要求しますからねぇ。」
「ありがてぇ話だ!てこたぁ1人あたり250万ダリルか!」
ウィンディア王国の外にある寂れた小屋の中に、キツネの獣人族を筆頭にサル、ネズミ、イノシシの獣人族がいた。
「では、我々はこの辺りで失礼しますよ。」
リームスが連れの2人と共に小屋を去る。
「おぉ!ありがとな!!またなんかうまい話がありゃあ何でも相談に乗るぜ!!」
リームスたちが去った後も、小屋の中では祝杯を挙げ騒いでいた。
「ほ、ほほ、本当にこれで、だだだ大丈夫なんですか…?」
「えぇ。では、手筈通りに致しましょう。そろそろモーロックも戻りますよ。」