声明文
作戦会議室へと訪れたガンベルとノックス。
会議室へはノックスにも来て欲しいという事で同行していた。
会議室にはすでに国王が難しい顔をして座っていた。
「…来てくれたか……2人とも、掛けてくれ。」
国王に促され席にと着く。
「今回呼び出したのは他でもない……我が息子、ハーティの件だ。」
聞けば、国王には今年10歳を迎える一人息子のハーティがいる。
彼はここウィンディア王国の学校に通っているそうだ。
その学校で、課外活動の一環として野外演習を行っていたのだが、集合時間を過ぎてもハーティとその友達2人が戻ってこず、教員が近くを捜索したが見つからなかった。
これまでもハーティたちは野外演習の際に何度かサボっては抜け出していたようだったのだ。
が、今回いつもと違うのは、犯行声明が届いたのだ。
手紙には
『貴殿の大事な息子は我々の手にある。
我々は身代金として1000万ダリルを要求する。
受け渡しに関しては、同封してある包み紙にそれぞれ250万ダリルずつ梱包し、3日後の朝10時に地図の印の場所へ置け。
置いたら誰も近づかず、帰るように。
その際、1人でも王国兵の姿を見たら、息子の命は保証しない。
もしも期限が過ぎれば、1日ごとに息子の友達の首を届けよう。
大事な国民の命を護るよう、心がけてくれ。』
という声明文とともに、包み紙が4つ。それと、受け渡し場所を記された地図が同封されていた。
地図には4箇所に印が書かかれていた。
「こ、これは…!!直ぐに皆を集め緊急会議を致します!!」
ガンベルが訓練所へと駆け出し、各部隊長を集めてきた。
「な!?ハーティ殿下が誘拐だと!?護衛は何してたんだァ!?」
真っ先にシリュウが声を荒らげた。
「護衛の者も当然付けておりましたが、その者らはすでに…」
「死んだのか!?」
「…我々が見つけた時には2名共、亡くなっておりました…」
「チィッ!!」
「それで、陛下はこの脅迫状の通り、金を用意するつもりなのでしょうカ?」
「ハーティの安否がわからぬ以上、要求に従うほかあるまい。」
国王は憔悴しておりため息をついた。
「今回の誘拐、教会の連中の手引きでしょうか?」
「報告では、教会関係者はおろか、人族の入領もしていないとの事だ。」
「ならば賊共か…クソっ!!金なんざ集める必要はねぇ!!俺が外の蛮族共を根絶やしにしてやる!!」
「それならあたいも行くネ!空からなら見つけるのも早いかもしれないヨ!」
「早まるな!まだ相手が誰とも分かっていない!それに、もし相手に探しているところを見られれば、殿下の命に危険が及ぶのだぞ!!」
「だからってこのまま待ってるっつうのか!?」
会議室は誰彼なしに激しい討論を交わし騒然としていた。
結果としては答えは出ず、一時保留という形で会議は終了した。
宿に戻ったノックスたちは、この誘拐事件について相談した。
「此度の件、ノックス様はどうお考えで?」
「仮に教会が何かしらの手段で入り込み潜伏していると仮定したとしても、実行犯は教会の連中では無いだろう。」
「ん?なんでッスか?」
「今回の誘拐は学校の行事日程や王子の行動を把握している。王子がどこの学校に通っているかもな。」
「私も、情報を知りすぎているというのは感じました。」
「これだけたくさんの国民の目を欺きながら情報を収集し、王子を誘拐できるほどなら、最初から国王を狙えばいい。」
「…それもそうッスね……じゃあ、単に金目当てって事ッスか?」
「気になるのは受け渡し方法についてだ。」
「あ!それ俺も思ったッス!なんで4箇所に分けんのかなぁって!」
「声明文に受け渡し場所まで指定……それも、アインの言うように4箇所にだ。」
「どれかが失敗したとて、損失を減らす目的もあるのでは無いでしょうか?」
「…そもそも犯人って、本当に外にいる賊なんッスかねぇ…?」
特にこれという結論も出ないまま、明日に受け渡し場所を視察する、という事で解散した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
明朝。
ノックスたちは分担して受け渡し場所となる地点へと訪れた。
そこにはすでに王国兵も一般人に成りすまして調査しているようだった。
地図に記載されていた受け渡し場所と思しき場所は、何の変哲もない公園であり、子供たちは無邪気に遊び、その母親たちは井戸端会議をしている、なんということも無い光景であった。
公園の周りは住宅街であり、これといって怪しい場所もないように見て取れた。
感知スキルを拡大させ辺りを調べるも、住人の数が多すぎる。
一通り見て回ってみたが、なんの収穫も無いまま一旦戻ろうとした時、ノックスはハッと気づいた事があり、大急ぎで王城へと駆けていった。