突然の提案
あれから2週間が経過した。
国王からの命令により、約束通り船の準備は着々と進んでいる。
警戒していたものの、教会関係者による何らかの接触も今のところは見受けられなかった。
この2週間、手持ち無沙汰のノックスたちはギルドへ足を運ぶこともあったが、ランクAに値するクエストは見つからず、結局ノエルたちの訓練に費やしていた。
変化といえば、この2週間で更にノアのサイズが大きくなった。
ダンジョンにいた頃に50センチまでになった体長が、今では1メートル近くにまで成長している。
それに伴ってか、鋭利な牙が2本、口元から覗かせていた。
ノックスからの訓練により、ノアはメキメキと力をつけ、さすがにノエルやアインとは程遠いものの、ウィンディア王国周辺にいるモンスター程度なら圧倒できる程にまで成長していた。
今日は王城での合同訓練に『講師』として招かれたため、王城へと足を運んでいる。
「お越しいただいたきありがとうございます。」
わざわざ近衛隊長のガンベルが応対してくれた。
「まさかそちらから『講師』として招かれるとは思わなかった。」
「ノックス殿のおかげで今の王国が守られたわけですから。今やあなた方を敵視するものはおりません。」
「それはありがたい。」
「それに、メローネとシリュウ。あれ程仲の悪かった者たちが、今では合同訓練に勤しんでおります。聞けば、ノックス殿からのご指示と。」
「ほう。ウワサには聞いていたが、しっかりと連携を磨いているようだな。」
「こんなこと、私などが申し上げるには忍びないことかもしれませんが…」
ガンベルはピタッと足を止めた。
「誠に、ありがとうございます。」
ガンベルはノックスに深く礼をした。
「顔をあげてくれガンベル殿。俺は大したことはしていない。」
「いえ、『大したこと』です。我々が何度注意しても、彼らは聞く耳すら持ちえなかったのですから。」
「わかった。そういう事なら素直に感謝を受け取っておこう。」
「そうして下さい。」
ガンベルはニコッと笑った。
訓練場へと到着すると、走り込みをする者、素振りをする者、打ち合いをする者など、大勢の兵士が訓練していた。
「皆の者!!整列!!!!」
ガンベルが開口一番、大声で皆を集合をかけた。
皆が整列したのを確認し、説明する。
「よく聞け!!今日は貴様らの訓練のため、わざわざノックス殿、ノエル殿、アイン殿、そしてノア殿がわざわざここまで足を運んでくださったのだ!!
この有意義な時間を無駄にせぬよう、今まで以上に気を引き締め、訓練するように!!」
「「「「「はっ!!!!」」」」」
その後、ノックスたちによる訓練が開始された。
とは言えノックスでは相手にすらならない故に、訓練にはノエルとアインが先だってつけていたが。
ノアも自身の戦闘訓練のため、率先して衛兵たちと戦闘訓練していた。
「あ、あのよぉ、悪ぃんだけど、手合わせ願えねぇか?」
訓練を見守っていたノックスに突如話しかけてきたのはシリュウだった。
その横にはメローネもいた。
「シリュウにメローネか。」
「ノックスさんじゃあんま相手にならないのは知ってル。でもあたいら、言われた通り連携力鍛えタ。それを見てほしイ。」
「そういえばそんな約束だったな。いいだろう。」
そんな訳で2人を相手取る。
善戦していた2人だったが、如何なる攻撃もノックス相手では傷一つ付けられなかった。
それもそう。彼らはまだ『真の連携』に気付けていない。
ノックスに敵うハズないだろうと他の衛兵は呆れて見ていたが、何度やられても立ち向かっていく2人を見て、次第に感化されていく。
結果として、結局2人は最後までノックスにかすり傷1つ負わせることができなかった。
ノックスの反撃により倒されては回復。また挑んでは回復、の繰り返し。
ほぼ休みなく2人の挑戦にノックスは真正面から相手にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
日も沈みかけた頃、さすがの2人ももう立ち上がる気力が残っていなかった。
「今日はここまでにしよう。」
「…ハァ……ハァ……も、もう……動けねぇ……」
「…あ、あたいモ……もう……無理……」
「1ヶ月とは言え良くここまで連携力を鍛えたものだと褒めてやりたいが、まだまだだな。」
「…俺に……いや……俺たちに…足りねぇところはなんだ……?」
「…結構…上手くやれてると思ってたのニ……」
「そうだな…シリュウが陽動、メローネが奇襲というのは正解だろう。それに、時折その役目を交換していたのも悪くない。おそらく2対1ならそれなりの強者でも戦える。
…が、まだ少し粗さが見える。それに今はお互いの動きを見てから動いているに過ぎん。」
「…互いの…?」
「…動キ…?」
「いい機会だ。せっかくだから、見せてやろう。
ノエル!アイン!」
「はっ!」
「ん?なんッスか?」
「お前たちの成長ぶりを見るいい機会だ。お前たちに稽古をつける。」
「えぇ!?い、今からッスか!?」
「そうだ。全力でこい。」
「畏まりました。」
その後、舞台場を取り囲むように衛兵たちが移動する。
そして、舞台場をエルフ族が真障壁を展開させた。
舞台場を照らす照明が焚かれ、日没だというのに明るさは申し分ない。
この3人の訓練を一目見ようと沢山の衛兵が詰め寄り、国王までもが王妃と共に観覧席に訪れていた。
急遽、ノックスからの発案でノエルとアインの共闘が始まった。