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【完結】理不尽に殺された子供に転生した  作者: かるぱりあん
第11章 アステル島へ向けて
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リリスの花園

 商店街や住宅街とは一転。


 煌びやかな光色が多数入り交じる艶やかな歓楽街。


 ここは、夜にこそ本来の活気を取り戻す。




 街中には呼び込みや酔っ払いに喧嘩、あらゆる騒音が飛び交っている。




 そこへとやって来たノックス一行。


 華やかな歓楽街の雰囲気は前世と遜色無いほどである。



「どこにあるんだ?その『リリスの花園』は?」


「も、もうちょいあっちッスね!」



 アインはお目当てのリリスの花園にやや緊張していた。




 やがて、歓楽街の中でも一際煌びやかな建物が見えてくる。



 看板には『リリスの花園』と書かれ、お酒や女のシルエットのイラストが施されている。



 出入口付近には屈強な巨人族が仁王立ちしている。



「…つ……ついに……念願の………!!」


「…ここなのか……?花屋という感じじゃ無さそうだが…まさか……」


「…?ノックス様、何と勘違いしてるッスか?ここがかの有名な『リリスの花園』ッスよ!」


「……キ……キャバクラかよ……」


「え?…キャバ……クラ…?なんかよく分かんないッスけど、早く入りたいッス!」



 促されるまま入店するべく仁王立ちしている巨人族の元へと足を運ぶ。


 巨人族は険しい顔を崩さないままノックスたちを睨みつけ、


「…いらっしゃい……ここに記帳を…」


 と話しかけてきた。



 ノックスの名で記帳し、巨人族へ渡すと、面白いほどにみるみる顔色を変え、


「…あ…えっと…し、指名は…ございますでしょうか…!?」


 と聞いてきた。


「指名は無い。フリーでも構わないか?」


「…し…少々…お待ちを…!!」



 巨人族は大慌てで店内に入っていった。




 暫く待っていると、再度巨人族が店内から現れ、それと同時に支配人と思しき洒落たスーツに身を包んだ猫の獣人族の男が現れた。



「ようこそ、我が『リリスの花園』へ!!私この店の支配人を務めておりますスコットと申します。さ、どうぞ。お入りください。」


 と丁寧に案内された。



 扉をくぐると廊下の両脇にあらゆる種族の女性が笑顔で立っており、


「お客様のご来店です!」


 とスコットの声を合図に、一斉に


「「「「「いらっしゃいませ!!」」」」」


 と全員がお辞儀した。



 これにはアインだけでなくノエルも驚いて気恥しそうにしていた。



「早速、席へとご案内させていただきます。」



 店内はシャンデリアがキラキラと輝き、明るすぎず、暗すぎないちょうど良い明るさである。



 すでに入店していた先客らは、ノックスたちのVIP待遇に少々睨みを効かせてきたが、相手がノックスたちだと分かるとすぐさま目を背けていた。


 更に店内にはグランドピアノが置いてあった。



 案内された席は店内の奥にあり、所謂VIP席へと案内された。




 大きいソファにノックスが案内されたが、今回の主役はアインだということでアインに座らせた。



 席に着くと早速エルフ族や獣人族、鳥人族の女が3人を挟み込む様に席に着いた。



「本日はこの『リリスの花園』へとご来店いただき、誠にありがとうございます。どうぞ、ごゆるりとお寛ぎください。」



 スコットは一礼し、今度はボーイが注文を聞きに来た。



 ビールにワイン、ウィスキー。ラム酒やテキーラなど、多種多彩な酒が置いてあった。



 『好きなものを頼め』と言ったところで遠慮してしまうと考えたノックスは、ビール数本と高級ウィスキー、フルーツの盛り合わせを注文した。



 届く前の間にキャストが自己紹介をしてゆく。



 3人の素性を改めて聞いたキャストは興奮し、口々に褒めてくれた。


 それにすっかりご満悦だったのはアインだけではなく、ノエルもやや口元を緩めていた。



 グラスに酒が注がれ、乾杯の音頭にと皆がノックスを見つめた。



 仕方なくノックスはグラスを手に取り、


「2人とも、今日までご苦労だった。それにノアも。今日はアインが主役だ。大いに楽しんでくれ。それでは、乾杯としよう。」


「「「「「かんぱ〜い!!」」」」」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「えへへ〜。おれっち、しゅごい頑張ったんッス〜!」


「アインさんすごーい!」


「アインさんステキー!」


「もっと…褒めてぇぇ…」



 アインはすっかり出来上がってしまい、同じ話を先程から繰り返していた。



「俺はこれから先、何があろうともノックス様のお役に立つことこそが、生きながらえさせてくれたノックス様への……」



 ノエルも出来上がってはいるが、こちらはくどくどとノックスへの忠義を語っている。


 とはいえキャストも半ば感化されているのか、ノエルの熱い思いに親身になって聞いていた。



「ノックス様、お酒、おかわり致しましょうか?」


 ノックスの隣に座って接客していたナナという名のエルフ族であった。


「おかわりか。いや、次は趣向を変えたい。」


 そう言うとノックスは魔術で氷を球体状にし、グラスの中へと放り込む。


 そこへウィスキーを注ぎ、ロックにした。



「氷を…ですか…?」


「こんな飲み方は一般的じゃないのか?」


「お酒に弱い方などは水割りにされる方もいらっしゃいますが…氷は見たことありません。それに……」


 ナナはノックスの作成した氷をまじまじと見つめ、


「ここまで丁寧な魔術……グラスに入るちょうど良い大きさにするだけじゃなく、キレイな球体にするなんて……」


「一度試し飲みするといい。」


 そう言いノックスはナナのグラスにも氷を落とし込み、ウィスキーを注いだ。



 ほどよく氷が溶けたところで、一口飲む。



 ウィスキーは比較的アルコール度数が高い。


 そのせいで常温で気化し、鼻にツンとした匂いを放つ。


 それが冷やされたことで気化を防ぎ、そのせいで軽やかに感じ、口当たりも柔らかく、後からウィスキー独特の香りが広がる新しい感覚であった。


「…まぁ…!…すごく飲みやすいです…!ただ氷を入れただけなのに……」


「ああ。手っ取り早く酔いたいならストレートのほうが良い。ロックにすると氷が溶け、結果として水割りになりマイルドになる。」


「この氷を入れた飲み方、ロック…というんですね。」


「あぁ、岩じゃないのにな。」


「ふふっ。確かに、岩なんて入れられちゃうと口の中がジャリジャリして飲めたものじゃありませんね。」


「なぜ誰も氷を入れたりしなかったんだ…?」


「魔法というのは本来、戦闘のために使われるものだから、でしょうか。」


「なるほど……使い方1つで世界が変わるというのに勿体ないな。」


「私も今日、ノックス様とお会い出来たからこそロックという面白い飲み方を知ることができました。」



 その時ふと視線を感じ、見回すと他のキャストがまじまじと見つめていた。



 仕方なくノックスはキャスト全員のグラスに氷を作って落とし込んだ。



 キャストらはそこにウィスキーを注いで飲み、嬉しそうにはしゃいでいた。



 ただ、ノエルとアインは完全に酔いつぶれてしまっていたのだが。



「ささやかながら、ノックス様。こんな美味しい飲み方を教えてくれた恩返しをさせてください。」


「ん?なんだ?」



 ナナはスっと立ち上がり、ピアノのほうへと足を運んだ。




「この曲を、本日お越しいただいたノックス様たちに捧げます。」


 と、一礼した。



 そして、ゆったりと椅子に腰を下ろし、


「お耳汚しでなければ幸いです。」


 とノックスに微笑んだ。




 そして、ゆっくりとピアノを弾き始めた。





 ノックスは、この世界の音楽の知識は無い。




 それでも、どこか儚げで、どこか悲しげな音色に次第に引き込まる。




 それはノックスだけではなく、来客している皆が耳を傾ける程であった。




 音は次第に色を変え、力強さを増してゆく。




 力強い曲調に、観客から鼻水を啜る音がする。




 酔いつぶれダウンしていたノエルとアインも、その調(しらべ)に涙を流していた。




「……素晴らしい……音色だ………」



 ノックスは素直に感動していた。



「ナナさんのピアノ……いつ聞いても泣けますねぇ…」


 気付けばキャストまでもを虜にしていた。




 弾き終わり、誰からとなく盛大な拍手が贈られた。



 ナナは一礼し、ノックスの隣の席へと戻ってくる。



「いかがでしたでしょうか?お耳汚しでなければ良いのですけど…」


「耳汚しなどではない……素晴らしい音色だ……すっかり聞き入ってしまった…」


「ふふっ。ありがとうございます。」


「というか、その道でやっていけるぞ?」


「夢は…あるんですけど、なかなか機会に恵まれずでして。それに、いいんです。」


「なぜだ?」


「お店にお越しいただいたお客様の、ほんの少しの心の安らぎ。その役目で充分なのです。」


「勿体ない気もするが…そうか。なら、また聞きに来ても?」


「はい。喜んでお待ちしております。」




 久しぶりのキャバクラなのでもう少し堪能したいとは思ったが、主役のアインが完全に酔いつぶれてしまったので、心残りはあるもののお開きにすることにした。



 解毒魔法を使用しても良かったが、せっかくの酔いまで冷ます訳にもいかず、担いで宿まで戻ろうとしたのだが、門番をしていた巨人族が2人を背負い、宿まで担いでくれた。



 感謝を言い、チップを多めに支払った。



 少し不貞腐れていたノアの毛をクシでとかしてあげ、その日はそのまま眠りについたノックスだった。

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