芸術品
次の日の朝、ノックスたちは早速ジェルゾの店へと足を運ぶ。
こういう時に前世のような通信手段があると有難いと思っていた。
店へ入るとカウンターにはターニャが腰掛けていたが、ノックスたちの顔を見るとニッコリと笑い、立ち上がって接客した。
「あらあらノックスさんたち!お待ちしてましたわぁ!」
「久しぶりで。武器が仕上がっているなら引き取りを、と。」
「あの人もノックスさんたちの武器ということで優先して仕上げてるわ。さぁさぁ、入って頂戴な!」
ターニャはノックスたちを別室へと案内し、その後ツカツカと店奥に入っていき、鍛冶が奏でる金属音に負けない声でノックスたちが来たことを伝えていた。
「ノックスさん!待っておった!!アンタらの武器は完成しておるぞ!」
「早速取り掛かってくれたようで感謝する。」
「親方、息子の恩人ってことでかなり息巻いていやしたから!」
「おめぇは余計なこと言わんでさっさとノックスさんらの武器を持ってこい!」
やがてテーブルの上に3人の武器が布に包まれた状態で運ばれた。
「まずはアインさんの短剣だの。」
そう言い布を広げ、中からナイフが現れた。
「アインさんの武器用にミスリルを混ぜ込んでおる。さらに耐久性を高める為に俺の配合で積層鍛造しておる。魔鉄ほどとはいかないが、かなりの硬度は保てるはずだのう。」
ジェルゾの説明を聞きながら、3人はそのナイフの仕上がりに見とれていた。
ミスリル特有の淡い緑と鋼の濃いシルバーがマーブル模様を織り成し、前世のダマスカス鋼を彷彿とさせる。
さらに、ナイフを取り成し易いように両刃となっており、柄も手に馴染む形となっていた。
「…これ……すっげぇかっちょいいッス……」
アインはかなり気に入ったようだ。
「それだけじゃねえ。アインさんは魔道職って聞いてたから、さらに投擲用のナイフも拵えた。これを敵に投げつけて刺して魔法をぶち当てりゃあ、避雷針のように敵の内部に魔法攻撃を与えられる。
まあ、投擲術スキルが必要にはなってくるがの。」
ジェルゾはさらに投擲用の投げナイフを3本紹介した。
「…こんなに…!!…ホントにこれ貰ってもいいんッスか……?」
「さすがにタダって訳にゃいかねえ。ミスリルの分は貰うぞ?」
「確か2000ダリルでしたっけ?払う!払います!!即金で!!」
「…覚えておったんか。じゃあ取引成立だの。」
「やったーーー!!!!」
「…ジェルゾ殿…宜しいので?あれほどのシロモノともなればもっと高額なのでは?」
ノエルがジェルゾに尋ねる。
「構いやしねえ。息子の命に比べりゃあの!」
「…ありがとうございます。」
「さてノエルさん、お次はアンタの武器だ!」
続いて布を広げ、ノエル用の武器が現れた。
「前に見せて貰った双剣からよくすり減っていた部分を確認しておったんでの。その辺りを少し調整させてもらった。さらに魔鉄のおかげで薄く仕上げ、重さも軽い。おかげでかなり取り回ししやすいはずだの。」
ノエルは自分の双剣が現れるや、目をキラキラと輝かせてウットリしていた。
「…素晴らしいとしか言い様がありません……まさかこんな双剣を手にすることができるとは……」
「1度手に取ってみてくれ。簡単な手直しならすぐに出来る。」
そう言われ、ノエルは双剣を手にし、軽く振って感触を確かめる。
「どうだい?」
「申し分ありません……この文様……魔鉄ならではの薄さ……そして形状の美しさ………どれを取っても最高級です……」
「気に入ってもらえたようだの!」
「もちろんです。おいくらでしょうか?」
「金はいらねえ、と言いたい所だが、そういう訳にもいかねえ。」
「当然です!これほどの業物!!」
「鍛錬するに当たってかなりの石炭を燃やしちまったからなぁ。その分を計算して3000ダリルだ。」
「安すぎます!!」
「あとの分は息子の例だ。3000ダリル以上は受け取るつもりは無ぇ。」
「…では、ご厚意に甘えさせて頂きます。」
「はっはっ!!そうしてくれ!」
ノエルは金を支払った後も尚、ウットリと双剣を眺めていた。
「最後はノックスさんのだな!こっちは気合い入れて作らせてもらった!!」
ジェルゾがそう言い、最後の布を広げた。
「ノックスさんから預からせてもらった刀、出来はいいが反りがイマイチだったのと多少の歪み、あとは薄さだ。
なので今回、反りと歪みを調整させてもらったのと、かなりの薄刃に仕上げておる。
とりあえず1度抜いてみちゃくんねぇか?」
そう言われ、刀を手に取り鞘から抜く。
鞘から刀身が顕になった。
説明通り、かなりの薄刃に仕上げられ、峰側から見た時は線を引いたよう真っ直ぐ仕上がっている。
今度は刀を横にすると、綺麗な反りが見て取れる。
それと同時に鍔や鞘も一新されていた。
「刀の出来、非常に素晴らしい。息を飲むほど美しいとはまさにこの刀に売ってつけだな……鍔と鞘まで一新してくれたのか。それにこの柄。握り心地も素晴らしい。」
「ええとこに気づいてくれた!!鍔と鞘は形状に合わせて一新。柄も最高級品の組紐で作っておる。」
「『芸術品』とも呼べるな………ん?」
気づくとノエルが刀に近づいてウットリとしていた。
「……はっ!!失礼しました!!あまりに美しくて……」
「構わん。ジェルゾ殿、この刀はいくらだ?」
「石炭の消費に、研石をいくらか使い切っちまった。それを込みで5000ダリルだのう。」
「ダメだ。安すぎる。」
「ダメなこたぁ無ぇ!!これは俺らの感謝の気持ちだ!!」
「ここまでの刀、5000ダリルでなど受け取るわけにいかない。」
「そういう訳にもいかねえ!!…それによ、俺らはこんな最高の刀作りっちゅう仕事が出来てむしろ感謝してぇぐらいだ!!だからその値で受け取ってくれ!!」
「……わかった。ならば…」
ノックスが折れる形で5000ダリルを支払った。
そして、代用品として受け取っていた武器類を返却した。
その後、宝飾具の制作について尋ねてみたが、そちらは専門外ということもあり、彫金師の店を教わった。
「最後に工房に入らせて貰っても構わないか?」
「工房?別に構わねぇが。」
「ありがとう。」
ノックスが工房に入ると鍛冶の金属音がそこらじゅうで鳴り響いていた。
「要らない鉄くずはなどは?」
「んん?鉄くずが欲しいのか?」
「あぁ。今あるだけで構わない。」
ジェルゾは声を張り上げ、職人たちに鉄くずを集めさせた。
その際、ノックスに気づいた職人から感謝の言葉を述べられた。
やがて職人たちによって集められた鉄くずがノックス前に置かれた。
「どうするつもりだの?」
「要らぬ配慮ならすまん。が、こうでもしないと俺の気がすまなくてな。」
ノックスは魔力を練り上げ鉄くずを融解させ、鉄くずは忽ち魔鉄へと様変わりした。
「ノ、ノックスさん…!!」
「これなら構わないだろう。俺たちからの感謝の気持ちだ。」
「い、いや、しかし……」
「要らぬ配慮だったか?」
「とんでもねぇ!!とんでもねぇ……が……いや!ありがとう!!」
「こちらこそだ。また何かあったらよろしく頼む。」
「もちろんだ!!アンタらなら最優先で相談に乗る!!おめぇらもいいか!」
「「「「「おう!!!!」」」」」
最後店を出る時にはジェルゾとターニャに加えて全職員がお見送りしてくれたのだが、少し気恥ずかしくも思えていたノックスだった。