国宝級
「何が書かれている?」
「は!!ご、ごめん……あんまりにも驚いたもんで……」
ルミナから羊皮紙を受け取り、ノエルとアインも横から覗き込む。
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【素材】ダイヤモンド
【大きさ】0.41センチ
【アビリティ】自動防御
【効果】対象に自動的に防御がかかる
【程度】魔障壁硬度3
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「自動防御か…硬度3ってどれくらいだ?」
「「…………………」」
2人は驚きのあまり口をあんぐり開けていた。
「ノエル、アイン?」
「…はっ!!す、すいません!!」
「…これ………ちょーやべえッス…!!」
「それで、硬度3というのは?」
「えぇ…剣術などのスキルレベルが2以下なら防ぎきる硬度です。スキルレベル3であれば何度かは防げるでしょうが、そのうち破壊される、というくらいでしょうか。」
「なるほど…あまり使えんな。」
「ふぇ!!?使えんわけなかろうが!?」
「そうなのか?」
「んな!!?自動防御だぞ!?てかそもそも、これ程のシロモノ、間違いなく国宝級だぞ!!」
「魔障壁硬度3など、ノックス様の剣戟からすれば紙ですが、冒険者でもそうそう破られるものではありません。」
「ノックス様はレベチッスから…一般人からすれば喉から手が出るほど欲しい物ッス……」
「それほどなのか……ちなみにこれを売るとしたらいくらぐらいの値が付くんだ?」
「想像すらつきませんが……ルミナ殿の言う通り間違いなく国宝級。1億ダリル以上付いてもおかしくはありません。」
「…は?…い、1億…?」
「ただし売るのはあまり得策ではないかもしれません。」
「というと?」
「これ程のシロモノともなれば、このダイヤを巡って血みどろの争い…下手をすると国家間の戦争にもなりかねない程の物です。」
「過去のベヒーモスホーンですら血なまぐさいもんッスからね。このダイヤだとホントそうなりかねないッス。」
「たかが魔障壁程度で戦争とはな。」
「たかがではないぞ!自動防御がどれほどヤバいシロモノか、分かってないようだな!」
ルミナが身を乗り出して力説し始めた。
「いいか!自動防御とはその名の通り自動で防御してくれるものだ。身につけていれば不意打ちも無効化する。
しかも、だ!
これは『あらゆる攻撃手段』にも反応する!」
「『あらゆる攻撃手段』?」
「そう!例えば毒殺!あるいは呪術!!
自動防御は『悪意』に反応すると言われているのだ!」
「…つまりは、身につけてさえいればその身の安全はほぼ100%に近い形で守られるのか。」
「その通りだ!!この世界で危険なのはモンスターじゃなく人間だ!『悪意』を孕んだ者の選定など誰にも出来んし防ぎようもない!
だが!!これはそれを可能にするのだ!!
…そして…これを最も欲しがるのは王族だ!!
なにより、『自動防御』自体かなり珍しいが、『魔障壁硬度3』というのは希少中の希少!!」
「…ふむ……ではこのまま売らずに持っておくほうがいい、というわけか。」
「当たり前だ!こんなシロモノ、特に教会が黙っちゃいないぞ!奴らなら力づくで奪いに来る!
この間も外が騒がしいと思ったら教会の連中が攻め入ってきていたようだしな!!
魔族2人を連れた3人組が助けてくれた、などという噂が飛び交ってたけど、そんなお人好しな連中がいるならこの目でぜひとも拝んでみたいね!」
「「「…………」」」
「…あぁ、ごめんごめん!話が逸れた!…にしてもあんたら、こんなのどこで見つけてきたんだ?」
「クレイのダンジョンの最奥で、だ。」
「ほぅ…クレイのダンジョンねぇ……ん?……最奥……?」
ルミナは改めてノックスたち3人を見やる。
「…てかあんたら魔族…?いや、それはどうでもいいけど…3人組……?…へっ…?いや…まさか……」
と何やら呟いたかと思うと、突如
「ぎょぇえええええええええええ!!!!!」
と悲鳴が店内にこだました。
「あんたらだったのか…!!魔族2人連れの3人組!!!!この国の英雄って噂の!!!!」
「むしろ今まで気づかなかったのか…」
鑑定を終えたノックスたちは鑑定料を支払って店内を後にした。
その際、ダイヤ以外の付与宝石をぜひとも研究対象として預からせてくれとせがまれたが、まず自分たちで1度話し合いたいと説明してなんとか引き離した。
が、そう簡単に引き下がってはくれなかったので、ベヒーモスホーンを渡すと、目の色を変えて離れてくれた。
それと同時に3本の怪しげな液体が入った瓶を貰い受けた。
聞けば、『市販のポーションより治癒力が高い自作のハイポーション(試作)』だそうだ。
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宿を取ったノックスたちは、そこで付与宝石について話し合いを行った。
「…ノックス様、こんなやばいダイヤ…どうするんッスか…?」
「なぜそんな小声だ?」
「だ、だってもし誰かに知れ渡ったら…」
「ここなら誰にも聞かれまい。それに、このダイヤの事を知っているのは我々3人とあの女店主だけだ。賊が狙ってきたとなればあの女店主の手先だろう。」
「オーウェン殿の紹介だ。そんな事はしないと願いたいが。仮に襲われたとて、薙ぎ払えばいい。」
「か…簡単に言うッスね……まぁ実際、ノックス様に敵うやつなんて考えられないッスけど。」
「それにしてもノックス様、宜しかったので?」
「なんのことだ?」
「あのルミナという女店主にベヒーモスホーンを与えた事です。信用なさったので?」
「信用…か。というより、売れもせず活用もできない俺たちが持っていても仕方ないだろう?」
「それもそうですが…」
「それよりも、ルミナに対してお前たちは気づかなかったか?」
「ふぇ?」
「…ん?…何のことでしょうか?」
「ルミナは俺たち魔族に対してなんの抵抗もなく接していた事だ。俺たちが防衛戦に関わったことは噂程度にしか知らなかった程だというのに。」
「…言われてみれば…確かにそうッスね…」
「魔道具作り以外には興味が無いだけなのでは?」
「それなら尚のこと、あのベヒーモスホーンはルミナに与えてみるべきだ。」
「なるほど…」
「畏まりました。差し出がましい事を申したようで、申し訳ありません。」
「構わん。それで、このダイヤ。どうする?俺が持っていても意味は無い。お前たちが欲しいならやるぞ。」
「…欲しいっちゃあ欲しいッス……でも……怖くて付けらんないッス………」
「…私もアインも、ここしばらくのうちにかなり耐性やスキル、レベルが上がりました。なので、我々がそのダイヤを所有するよりも他の者がよいかと。」
「…なら、俺の一存で決めていいか?」
「もちろんッス。」
「ええ。構いません。」
「このダイヤはシャロンにやろうと思う。」
「「………!!」」
「もちろん、金額や付与の事は伏せる。それを知ると重荷に感じさせてしまうだろう。異論はあるか?もしあるなら遠慮なく…」
「異論なんて、あるわけ無いッス…!!」
「私も同感です。そのダイヤは、シャロンのような者こそ与えるべきかと。」
「分かった。ならばこのダイヤ、シャロンに与えよう。あとは指輪にするかネックレスか……ん?どうしたアイン?」
「いえ…!…ちょっと思い出しちゃって……俺もかなりエグいことやられたッスけど……シャロンはまだあんな幼いのにって……!!でも、それがあればこの先、もうあんなひどい目に遭うこともないんだろうなあ…って……!!」
「………………」
「…あぁ、すんませんッス!…なんか湿っぽくなっちゃったみたいで…!」
「大丈夫だ。…あとの付与宝石だが、ペリドット(風魔術拡大)はアイン、ルビー(スタミナ増加)はノエル、が順当だな。」
「え!!俺らにくれるんッスか!?」
「よ、よろしいので!?」
「ああ。俺がつけてもあまり意味は無い。ターコイズ(毒耐性+1)とラピスラズリ(斬撃耐性+1)は保留。
もう1つのルビー(魔力抑制)は…これは俺が付けよう。」
「え!?」
「はい!?」
「俺が魔術を使用すると規模が大きくなりすぎる。抑えて使用してはいるものの、それでもだ。」
「…マジッスか……?」
「さすがノックス様です。下降効果でもって、被害を最小限に抑えようというわけですね。なんと慈悲深い……」
「まあ、慈悲深いかどうかはともかく、調整のためにいちいち気を揉む必要が無くなるなら有難いっていうだけだ。」
「…てかその『抑制』の付与、ノックス様にしか意味無いんじゃ……」
「話はこれで終わりだ。明日は朝からジェルゾの店に行こう。武器の引取りもだが、付与宝石を加工できるかも聞いてみるか。」
「いよいよッスね!」
「了解です。」