鑑定
「……はっ!!」
ノックスの解毒魔法により気を失っていたエルフ族の女が目を覚ました。
飛び起きた女は辺りをキョロキョロと見回し、ノックスたちを見るや否や
「んな、なにやつ!?」
と警戒した。
「貴様、無礼だぞ。貴様を治療してくれたノックス様に対して…」
「ノエル、落ち着け。」
「…失礼しました。」
「勝手ながら店に入らせてもらったら、貴殿が鍋の近くで倒れていたんだ。」
「…そ、そうだったのか……やはり調合をどこかで間違えたか……もしくは…………あっと、ごめんね!あんがと!!いやー、おかげで助かったよぉぉぉ!!!!」
女は突然ノックスに抱きつき、ノックスの胸に顔を埋めた。
「…あの、離れてくれ……」
「あぁ、ごめんね!…にしてもウチに何か用があって来たんだよね?」
「ダンジョンで拾った付与宝石の鑑定をお願いしたくて、オーウェン殿の紹介でこちらに来させてもらった。」
「おー!オーウェンの紹介かあ!!…って、エ、エエ、付与宝石だとぉ!!?…んなら早く…早く見せろぉ…!!」
「…ここでか?というか落ち着け…」
「ああごめんごめん!んじゃ早速ウチ入って!」
「…またあの店に入るだと…!?」
「お、俺は遠慮しとこうかなぁ…なんて…」
「は!そうだ!そういやその前にアレを何とかしないとだ!!」
「あの鍋の中身はなんだったんだ?」
「ふふん。あたしの自信作の『気付け薬』だよ!毒以外の状態異常はコロッと治るシロモノだー!!」
「…………」
女は腰に手を当てて自慢していた。
「…それで本人が気絶していては本末転倒だがな……」
「…そ、それは…だな…アレだ…そういう事もある…!!」
「とにかくあの鍋を無毒化してくれ。そうでないと同じことの繰り返しだ。」
女は顔に布を巻き、店内へと入って煮込んでいた鍋の中身を無力化した。
後学のためにと着いて行ったノックスだったが、女は荒れ果てた戸棚から1つの瓶を取り出し、それを鍋の中へと数滴垂らし入れた。
その際、女はノックスのことを不思議そうな顔で見つめた。
「なんだ?」
「いや…こんな悪臭の中、やけにあんた涼しい顔してるなぁって。ある種の毒霧になってんのにマスクも無しだし?」
「耐性スキルのせいだろう。それより鍋はどうなんだ?」
「…ふむ。さすがあたしが作った薬だ!もう無害化したぞ!…まぁ、さすがに染み付いた臭いまですぐにどうなるものでもないけどな…」
「この暑さに加えて悪臭は普通なら耐えられん。」
「そこであんたに相談だ!」
「ん?」
「ここに消臭薬がある。これをあんたの魔法で満遍なく振りかけてくれ!」
「なぜ俺が?」
「む……それはあんただって困るだろ?臭い中で鑑定とか。あたしの見立てだとあんたはかなりの魔法使いだ!
…それにさ……こんな可愛いあたしが困ってるのを見捨てるつもり……?」
「見捨てる見捨てないはどうでもいい。が、まあいいだろう…貸してくれ。」
消臭薬を受け取ったノックスは蓋を取り外し、瓶を逆さにした。
風と重力魔術を巧みに操り、空中で消臭薬を球体状に浮遊させた。
「んおお!?そ、そんなことが!!?」
さらに水魔術でもって液体を霧状に爆散させ、風でもって店内の隅々に行き渡らせた。
消臭薬の効能は凄まじく、一瞬であの悪臭が完全に消え去った。
「これでいいか?」
「……す……すっげー………」
「聞いてるのか?」
「は!ごめんごめん!いやあ、助かったよ!!早速外の2人も呼んできて!準備する!」
無臭となった店内に2人と、ノアも着いてきた。
「な、なんだこのでけえにゃんこは!!?」
と女は驚いていたが。
「さっきは助かったよ!あたしがこの店の店長のルミナだ!」
「冒険者のノックスだ。こっちはノエルとアイン、そしてノアだ。」
「よし!じゃあ早速…ぐふふ…付与宝石の鑑定をしようじゃあないか!鑑定台は…と…」
ルミナは荒れ果てた店内で鑑定台を探していた。
「ノックス様…この人ホントに大丈夫なんッスか?」
とアインが耳打ちする。
「私も、いくらオーウェン殿の紹介とは言え心配です。」
ノエルも同じく耳打ちした。
「俺もほぼ同意見だ。」
ノックスも同調した。だが、
「まあ、もう少し様子を見る。それになんだか……」
「…?なんでしょう?」
「いや……なんでもない。」
ノックスはこの時、この女店主ルミナと、ロンメアにいたフェリスを重ねていた。
「よーーし!!あったぞ!!これだ!!」
ルミナは埃被っていた鑑定台を見つけ、埃を払うために息をふきかけ、机の上にドンと置いた。
「さあ!早く見せてくれ!!早く!!」
鼻息を荒らげたルミナを他所に、ノックスはカバンから付与宝石を取り出した。
数にして6つ。
ルビーのような真紅の宝石が2つ。淡い緑色の宝石が1つ。水色のが1つ。深い青色のが1つ。それと、ダイヤのように透明な宝石が1つである。
ルミナはそれを見て周りにも聞こえるほどゴクリと生唾を飲んでいた。
「じゃあ……早速いくよ……この赤いのから……」
鑑定台に赤い宝石を載せると、すぐさま台座の魔法陣が光を放ち、宝石を包み込む。
しばらくすると光が収まり、台座から羊皮紙が出てきた。
出てきた羊皮紙には文字が書かれており、それをルミナはいの一番にひったくり、顔を近づけて凝視している。
「こりゃあ珍しい……この宝石、『抑制』の付与が付いてるよ。」
「『抑制』?」
ノックスの問いかけに羊皮紙をノックスに手渡した。
「うん。そこに書かれてる通り、この宝石は『抑制』が付与されてんの。普通付与宝石って持ち主の能力に上昇効果をもたらすのが多いんだけどね。
これはその逆。
持ち主の能力に下降効果をもたらすみたい。」
ノックスはルミナの説明を聞きつつ、羊皮紙に書かれている内容をまじまじと見つめた。
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【素材】ルビー
【大きさ】3.47センチ
【アビリティ】抑制
【効果】対象の魔力を抑制させる
【程度】15.45%
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「よし!他のもドンドン見ていこう!!」
ルミナは息巻いて他の宝石も鑑定台の上へ順に載せていった。
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【素材】ルビー
【大きさ】2.93センチ
【アビリティ】増加
【効果】対象のスタミナを増加させる
【程度】1.74%
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【素材】ペリドット
【大きさ】5.02センチ
【アビリティ】拡大
【効果】対象の風魔術を拡大させる
【程度】2.32%
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【素材】ターコイズ
【大きさ】2.5センチ
【アビリティ】抗毒
【効果】対象に抗毒性を持たせる
【程度】毒耐性+1
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【素材】ラピスラズリ
【大きさ】3.71センチ
【アビリティ】軽減
【効果】対象の痛みを軽減させる
【程度】斬撃耐性+1
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「どれもこれもあまりパッとしないな。」
羊皮紙を見つめながらノックスが呟く。
「んえ!?んなことないよ!?」
「そうなのか?」
「ノックス様はご存知ないかもしれませんが、これらの付与宝石、おそらく市場だと1つあたり100万ダリルは下りません。」
「そんなになのか……」
「んじゃ!最後の宝石いくよ!」
ルミナは緊張の面持ちでダイヤを鑑定台へと載せた。
同じように光を放ち、その後羊皮紙が出る。
羊皮紙を取り、見つめていたルミナの顔から汗が噴き出し、羊皮紙が激しく震えだした。
「……これ……マジか………?」