成金
ギルド職員はあの後、今回の事情をギルド長へと連絡し、報告も兼ねてギルド室長へと案内された。
そこには小洒落た服装に身を包み、髪をオールバックで束ねた壮年のドワーフ族の男がいた。
「初めまして。私はこのウィンディア王国支部のギルド長、ラングレイと申します。」
「ノックスです。こちらはノエルとアインです。」
ノックスに紹介されノエルが礼をし、それを見て慌ててアインも礼をした。
「どうぞ、お掛けください。」
ノックスたち3人は促され、ソファへと腰掛けた。
「此度の件、驚きましたな。よもやクレイのダンジョンを踏破したとは。それだけでなく侵入していたベヒーモスまでも…」
「ベヒーモスの討伐についてはこの2人のおかげです。」
「いえいえ、ノックス様のご教授あればこそでした。我々だけでではありません。」
「そ、そうッス!」
アインは場馴れしていないのか、緊張していた。
「はっはっ。慕われておるようですな。」
「お陰様で。それより…」
「ああそうでしたな。今回貴殿らをここに呼びつけたのは、此度の功績に対する報酬についてです。」
「報酬?」
「ええ。ギルドのランクアップなどの条件については覚えておいでで?」
ノックスは記憶を引っ張り出して反芻した。
昇格に必要なポイントは、Sになるには10000、Aなら7000、Bは4500、Cは3000、Dは2000、Eは1000ポイント。
ギルドランクB以下の者は、昇格に必要なポイントの半分を1年以内にクリアしないと降格であること。
現在ノックスのギルドランクはD。取得ポイントは2000を超えたところで、約1000ポイントでCランクに昇格できそうではある。
「ええ。覚えていますが。」
「本来、ダンジョン踏破をした者には難易度により特別ポイントが加算され、本来クレイのダンジョンであれば10000ポイントを付与されるのです。」
「なるほど。では俺はBランクに昇格できるというわけか。」
「ですが、これはあくまでもさっきまでの話です。」
「というと?」
「さきほど伺ったベヒーモスの討伐、及び、廃ダンジョン化を防いだというお話。それに対する特別報酬もつけさせていただきたい。」
「ほう。」
「つきましては、あなた方御三方のギルドランクをAに認定させていただければ、と。」
「いいのか?ダンジョン攻略と、たまたま居合わせたベヒーモスを対処しただけだが。」
「良いも何も、あなた方にはそれだけのランクに相応しい実力があります。むしろ、世間的に言えばAでは低いとも言われかねません。
ですが、他のギルド登録者の手前、さすがにそういう訳にはいかず、申し訳ありません。」
「いえ、貴殿に頭を下げて貰う必要はありません。むしろそこまで評価していただいて光栄です。」
「ありがとうございます。」
ラングレイはニッコリと微笑んだ。
「続いては報酬です。今回のクレイのダンジョン踏破が100万ダリル。ベヒーモスの討伐が80万ダリル。廃ダンジョンを防いだことによる功労として100万ダリル。
合わせて、280万ダリルをお渡しさせて頂きます。」
「…に……にひゃくはちじゅうまんッスか!??」
「…さすがに貰いすぎでは?」
「そんな事はありません。クレイのダンジョンはご存知かもしれませんが、何せ118年ぶりの踏破。もはやダンジョン攻略は不可能と諦められていたクレイ村も、今回の件で賑わいを取り戻すでしょう。
ベヒーモスの討伐はSクラスの案件で、報酬もそのままの額です。
廃ダンジョンを防いだことは、クレイ村の復興に大きく貢献できるかと。」
「そうなのか…まあ、貰えるというのなら有難く頂くとしましょう。」
「そうしてください。」
ラングレイはまたニッコリと微笑んだ。
その後ラングレイに促され、職員がマジックバックを持ち込んできた。
ラングレイが受け取ると、その中から1万ダリル紙幣を280枚数えて取り出し、目の前の机へと置いた。
「どうぞ、ご確認ください。」
ノックスも紙幣を数え、280枚あることを確認した。
「確かに。280万ダリルです。では有難く頂戴致します。」
「こちらこそ、ありがとうございます。そういえば、ベヒーモスの素材や宝石類の鑑定についてすでに何処かお心当たりがおありで?」
「まだ決まってはいませんが、まずはオーウェン殿にあたってみようかと。」
「オーウェン殿とお知り合いでしたか。それは差し出がましい申し出をしたようで。」
「いえ、ありがとうございます。」
「それでは、また何かご縁がありましたら、その時はどうぞ宜しくお願い致します。」
ノックスたちは立ち上がり、最後にラングレイと握手を交わして部屋を後にした。
部屋を後にしたノックスはその後、オーウェンと再会し、ギルド内にある個室を一室借り、そこで素材の買取や宝石類の鑑定について尋ねていた。
「そりゃもちろん!!ベヒーモスの素材ともなれば高う買わせてもらいます!!」
「と言われてもそこまで今金に困っている訳では無いが。」
「いやいや、そういう訳にはいきませんて!!ノックスさんは命の恩人ですからなあ!!さっそく見させてもらいます!」
ベヒーモスの毛皮、ベヒーモスホーン、爪、骨、魔石と机の上に並べていく。
それなりに大きい机だったが、すぐに一杯になってしまった。
素材を見つめるオーウェンの目は今まで見たこともないくらい真剣な眼差しであり、ブツブツとなにやら呟いていた。
「ふむ……これほどの大きさの毛皮……あちこちと傷はあるものの……ふむ………この大きさが取れれば服を20着分いけるか……こことここを繋ぎ合わせればさらに………ふむ………」
と呟きながらメモを取っていた。
その後、角、爪、骨、魔石と鑑定していた。
1時間以上かかったところで、ようやく全ての鑑定が終わった。
「ノックスさん、お待たせしました。買取希望価格ですが、毛皮20万、爪38万、骨13万、魔石67万。合計138万ダリルでいかがでしょうか?」
「そ、そんなに…?」
「ええ。毛皮はかなり重宝されます。多分この大きさなら上手くやれば24着分は作れるんやないかと。
爪はどれもこれも状態がええんで、ほとんどそのまま使えるんでそんなもんかと。
骨は装備品に使われることもあるにはあるんでしょうけど、どちらか言うと魔道具店のほうで重宝されますね。
魔石は言わずもがな、この大きさですからなあ。
どないやろか?」
「失礼。ベヒーモスホーンについては?」
ノエルが間に入ってオーウェンに質問した。
「ああそうでした。ベヒーモスホーンですけど、これはウチでは取り扱いできませんねん。過去に市場に出たときでも380万ダリルですからなあ。喉から手が出るほど欲しいんですけど、さすがにそんな体力はまだ無いもんで。」
「さ!?さんびゃくはちじゅうまんんん!??」
「貴族の連中が欲しがりよるんですわ。自宅に飾り付けて威厳を示す、みたいなことで。競売でごっつい金額で取引されるような代物ですからなあ。特にこのベヒーモスホーン、大きさも見事なもんです。下手したらそれより高い金額で競り落とされることもありますなあ。」
「競売…か。」
「ええ。せやから、このベヒーモスホーンはノックスさんらが直接競売場に出品したほうがいいかと思います。」
「使わないで家に飾り付けられるより、利用目的がある者に売りたいが。」
「それもあんまりオススメはできませんなあ。」
「ん?なぜだ?」
「ベヒーモスホーンってのはそれだけ高額に取引されるもんですから、何かとトラブルに巻き込まれるんです。
過去の380万で競り落とされたベヒーモスホーンも、元の持ち主が殺されてたり、なんて噂もありますから。」
「なるほどな。ではこのベヒーモスホーンは俺が預かっておこう。で、その他の買取金額についてだが、ノエル、アインの意見は?」
「私はもとより、ノックス様の判断に委ねます。」
「そういう訳にはいかん。このベヒーモスを討ち取ったのはお前たちだ。」
「ありがとうございます。では、私はその金額で構いません。」
「俺も異論は無いッス!!」
「ではそれで取引成立だな。」
「ありがとうございますー!!じゃあ早速…」
オーウェンは自身のカバンからさらに別のカバンを取り出した。
そこへ手を入れ、1万ダリル紙幣の束を出し、138枚数えて机の上に改めて並べた。
「ご確認ください。」
「ありがとう。それでは…」
「ノックス様。失礼ながら少し宜しいでしょうか?」
「なんだ?」
「このお金は、ノックス様は当然のこと、ローシュや他の者たちがいなければ得ることすら出来なかったものでございます。
なので、私としましては、そのお金はノックス様がこれから成そうとしている目的の為の資金にしてください。」
「…え?で、でもちょっとくらい……」
「ノックス様の望みは我らの望み。ベヒーモスホーンも同様、ノックス様の目的の為に。アインもそれでよいな?」
「…え……えぇ………了解ッス……」
アインとは裏腹にノエルは姿勢を崩さなかった。
「よかろう。ならば有難く俺の好きに使わせて貰う。」
ノックスはそう言い138万ダリルをカバンに入れた。
「報酬だ。」
そう言い、ノックスはノエルとアインにそれぞれ30万ダリルを手渡した。
「いや、しかしノックス様…」
「俺が貰った金を好きに使ったまでだ。文句はあるまい。」
「…分かりました。有難く頂戴いたします。」
「やったーー!!!!ありがとうございますーー!!!!一生ついていくッスーーー!!!!」
「いやあ、律儀ですなあ。さて、ほなそろそろワイはお暇させてもらいます。ノックスさん、今後ともご贔屓に宜しゅう頼みます。あ、それと宝石類の鑑定ですけど、ここから5ブロック北にある『ルミナ魔道具店』がオススメですよ!」
「あぁ。ありがとう、オーウェン殿。」
1ダリルおよそ100円です。