クレイのダンジョン完全攻略
ベヒーモスが完全に力尽きた事を確認したノエルとアインはダメージと疲れが今になって押し寄せ、ドッと腰を地べたに下ろした。
「はぁ……はぁ……はぁ……か、…勝った……」
「……ふぅ……さすがに……疲れたな……」
2人は横並びで倒れているベヒーモスを見つめていた。
そして誰からでもなく2人は互いの拳を合わせた。
呼吸を整えていた2人だったが、異変に気づいたのはノエルだった。
「…おかしいな…」
「…え?おかしいって何がッスか?」
「このベヒーモス、死んでいるならなぜまだ死体が横たわっている?」
「…あ、た、確かに…」
本来ならばここで死んだモンスターはすぐさまダンジョンに還元されるはずなのだ。
「…でも、生きてる気配も無いし……」
「……もしかすると……」
ノエルが自身の考察をアインに話す。
「このベヒーモスはこのダンジョンで生まれた個体ではないのかもしれんな。」
「…え?…外から入ってきた個体って事ッスか…?」
「俺が折った奴の角もまだある。もしもその仮説が正しいならここに死体が残っていても不思議では無い。」
「…でも、じゃあ、何処から入って来たんッスか?それに、エサは?」
「………」
アインの疑問点は当然ノエルも気付いていた。
「…それに、何のためにこのベヒーモスはここに居たんッスか…?」
「……魔素……か……?」
「…魔素…を目当てに…ッスか…?」
モンスターとて生きる上では食料は必要である。
だがそれと同時に1つの仮説が唱えられていた。
「そういえば…モンスターは腹を満たすために捕食するけど、それは相手の魔素を取り込むためだとかって、聞いたことあるッスね…」
「ここに居れば奴からすれば魔素は豊富で、食料に困らない。…もしかすると、この先に奴が入ってきた抜け道があるかもしれんな。」
「外と繋がってるって事ッスか!?…でもそれじゃあ……」
「ああ。もしそうだとするならこのダンジョンに滞留する魔素が抜けていく。」
ノエルとアインがいろいろな考察を巡らせている時であった。
頭上の天板からパラパラと欠片くずが落ちてきたかと思うと、突如として何者かが降ってきた。
「やはりかなり広い空間だな。」
降ってきたのはノックスだった。
すぐ後ろにはノアも音もなくピッタリと張り付いている。
突然の出来事にノエルとアインは驚いて声にならなかったが、ノックスだと分かるとノエルが真っ先に我に返った。
「ノックス様。よもや岩盤を掘って進まれるとは。」
「ちょーービビったーーーー!!!!」
「すまんな。脅かすつもりは無かった。」
「いえ、我らが油断していたからです。これも良い教訓となりました。」
「…ほう…戦っていたのはアレと、か。」
「はい。アインとの共闘でなんとか倒す事ができました。」
「めっちゃ強かったッスよ!!」
「だろうな。コイツは『悪魔の口』でも見たことがある。魔法を跳ね返してくるもんだから最初は驚いたな。」
「ノックス様も戦った経験があるモンスターだったのですね。」
「その情報、もっと早くに知っておきたかったッス…」
「それにしても何故こいつは還元されてないんだ?」
ノエルとアインは自分たちの考察をノックスに話した。
外と繋がってしまったことで、このダンジョンはやがてはダンジョンで無くなることも。
「…なるほど……それは惜しいな。ともかく…」
ノックスはそう言い2人に治癒魔術を放ちキズを回復させた。
「せっかくの肉と素材だ。有難く頂戴しよう。」
ノックスは手馴れた手つきでベヒーモスをスルスルと解体した。
ベヒーモスの毛皮は柔軟性に優れており、丈夫さをも持ち合わせる。
手足の爪、尻尾のトゲはとても固く鋭いため、そのまま武器として使用する事も可能だ。
それと、ベヒーモスの角。
ベヒーモス自体が討伐件数がとても少なく、市場に出回ることすらほぼ無いのだが、このベヒーモスの角、通称ベヒーモスホーンはかなりの高値で取引される。
過去に競売に掛けられた時には380万ダリルというとてつもない金額で取引されたのだ。
効果については知っての通り、魔法を蓄積させる効果がある。
あまりにも高額での取引のために貴族などが購入し、自宅で『飾り』として見せびらかすだけの存在へと成り果てていたのだが。
ベヒーモスの体内からは拳より一回り大きいサイズの魔石が現れた。
解体が終わり、早速皆で食事にする。
調理に関してすでにアインの火魔術で中までしっかりと火が通っていたため、ステーキにした。
まともとは言えないが、保存食では無い食事に皆舌鼓を打った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
食事が終わりひと段落が済み、ダンジョンの最奥にあるという魔法陣を探した。
その際、過去の冒険者が身につけていたであろう装備や貴金属がそこかしこに落ちていた。
こうしたダンジョンでの遺品物に関しては拾った者の所有物となるため、拾っておくことにした。
それに、貴金属に付いている宝石などは、ダンジョン内の魔素に長期間晒されることで、特殊な効果をもたらす事もあるそうだ。
散策していた一行に、人工的な場所が目に入った。
「あ!ありましたよ!!魔法陣!!ってことはここが最奥ッスね!!」
「この上で通行証に魔力を注げば出られるとかって話だったな。」
「確かそのはずです。早速戻りますか?」
「いや、その前に確認したいことがある。」
ノックスはそう言い、さらに奥へと続く空間に足を運んだ。
そこには最近崩れたであろう瓦礫が散乱している場所だった。
「どうやらこの壁を掘ってベヒーモスが入ってきたようだな。」
「ってことはこの奥ずっと行くと外ッスか。」
「このまま放置するとダンジョンではなくなる…だったか。」
「滞留している魔素が放出されますので、理論的にはその可能性が高いかと。」
「俺の魔法ならばここを塞ぐことも出来るが…さてどうするかな。」
「廃ダンジョン化を防ぐって事ッスか?そんな事しても俺たちに何のメリットも無い気がするッスけど…」
「上に住んでる連中からすれば、ある程度魔素を放出させてダンジョンの難易度を下げ、その後防ぐほうが喜ばれるかもしれませんね。」
「さすがにそこまで待てん。俺が考えてるのはメリットよりもデメリットのほうだ。」
「…え?デメリット…ッスか…?」
「ああ。この魔法陣で脱出した後、その後に廃ダンジョンになったとしたら、真っ先に俺たちが疑われる。」
「ええ!!?でもそんなの、ベヒーモスがやった事じゃないッスか!?」
「そんな言い分が通じれば良いがな。」
「それに、こっちにはベヒーモスの素材まであるんッスよ!?本来ダンジョンなら何も残んないのに…!!」
「マジックバックに元々所持していた物だ、と言われる。」
「…ぐっ…」
「…では、塞がれるので…?」
「その方が後の面倒事がない。あくまで可能性の話だが、そんな種は早めに摘み取るべきだな。」
ノエルとアインもノックスの言うデメリットについて納得し、そしてベヒーモスが崩壊させた壁を土魔術で復元させた。
そして魔法陣の元へと戻り、通行証に魔力を流す。
通行証に魔力を注入すると、途端に足元の魔法陣が光を放ち、ノックス、ノエル、アイン、ノアの4名は忽ち光に包まれ、そして一瞬のうちにその姿を消したのだった。