『主』から『王』へ
「やはりまだお前には早かったか。」
咆哮でマヒしたノアを噛み殺そうとしたアーマードウルフだったが、ノックスの介入により口の中につっかえ棒の如く氷魔術で氷柱を作成し、自身の噛む力でもってアーマードウルフは両顎を貫いていた。
直後、マヒが解けたノアだったが、ノックスがいなければ確実に殺されていたために、自身の敗北を悟り萎縮していた。
ノアは申し訳なさそうな顔をしてノックスを見つめ反省していた。
ノックスは2匹のいる魔障壁に入り、氷柱で貫かれ悶え苦しんでいるアーマードウルフの首を剣で刺し貫いてトドメを刺した。
絶命したアーマードウルフは忽ちダンジョンへと還元するために蒸発してゆく。
申し訳なさそうなノアの顔を見やりつつノックスが口を開く。
「構わん。俺の見定めが甘かった。奴にあのような攻撃があるとはな。…それよりも…」
ノックスは他の3匹に目をやる。
「自分の爪や牙が通らないような硬い外殻を持っている相手との戦闘だが、俺が見本を見せてやる。」
ノックスはそう言うとノアの周囲に魔障壁を張り、元々展開していた魔障壁を解除した。
3匹のアーマードウルフはヨダレを垂らしながらグルルルル…と威嚇しながらノックスに対峙する。
突如ノックスに1匹のアーマードウルフに駆け寄って噛みつきに掛かるも、ノックスは躱しつつもアーマードウルフの顎に回し蹴りを与えた。
「全ての生物には司令を出す脳がある。まずはそこを叩いて揺らす。外傷を与えれずとも相手は脳震盪を起こし、しばらく体の自由が効かなくなる。」
カウンターをモロに受けたアーマードウルフはノックスの説明通り、脳震盪を起こしてくずおれた。
「外殻に覆われているとはいえ全身ではない。稼働部、つまり関節は柔い。他には目だ。そこを重点的に狙い、相手を動けなくする。」
説明しながらノックスは倒れ込んだアーマードウルフの関節部を剣で斬りつけて自由を奪う。
他の2匹のアーマードウルフは自分の仲間がこうもアッサリとやられていく様に驚いたのか、ノックスから距離を置いて警戒していた。
「そうしてからトドメだ。効果的なダメージを与えられる武器を洗練しておく。それでもまだ相手の外殻を破れぬのなら失血死を狙えばいい。」
ノックスは目にも止まらぬほどの速度でアーマードウルフを両断して絶命させた。
ノアはノックスの言葉を真剣に聞きながら立ち回りについても凝視していた。
「敗北すること自体恥では無い。むしろこんな世界で敗北というのは貴重な体験だ。本来ならば『敗北=死』を意味する。
かく言う俺も何度も敗北を味わってきた。
その度に自分に何が足りないのか、どうするべきだったのかを突き詰め、研鑽する。
お前にも良い経験になったな。」
ノアにノックスの言葉が伝わったかどうかは分からない。
だがノアはノックスが話している最中、真剣な眼差しで聞き入っていた。
「さてと。では残りの2匹も駆除しよう。」
ノックスの驚異的な戦闘をまざまざと見せられたせいか尻込みをしていたが、ノックスから敵意を向けられハッとして向き直った。
アーマードウルフは2匹とも咆哮しノックスを麻痺させようとしたが、ノックスは『麻痺耐性』をも所有している。
さらに言えば耐性レベル10である。
「悪いが俺にそんな攻撃は効かん。」
そう言いながらノックスは左手を翳した。
「潰せ。」
途端に魔力が増幅し、2匹のアーマードウルフの頭上から天井が下降する。
ノックスの動きにのみ警戒していたアーマードウルフは頭上から下降してくる天井に気づかず、プレス機の如く地面と天井により挟み込まれ、悲鳴をあげる間もなく押し潰した。
ノックスの戦闘の一挙手一投足を改めて注視していたノア。
理解していたつもりだが、無駄の無い魔術、相手を舐めるでもない容赦の無さに改めて桁違いの強さを見た。
ノアはこの日、自身の格付けの中でノックスのことを『主』から『王』として格上げさせた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ノックスと離れて1日が経過した。
ノエルとアインは連携を鍛えるべく2人だけでダンジョン奥へと進んでいる。
分かれてから幾度か戦闘があったが、ノックスの問う『真の連携』についてまだ掴めていなかった。
ここに来てモンスターの強さも多少上がっている。
ノックスが戦闘したアーマードウルフとも会敵し、ノエルが前衛に立ち手傷を負わせ、アインが魔法でトドメを刺す。
アーマードウルフが放った咆哮での麻痺についてだが、当然2人とも麻痺してしまった。
だが、体の自由が奪われたとて、無詠唱で魔法を放つ事ができるためにアインが即座に魔障壁を展開し、その上さらに反撃の雷を食らわせて難を逃れた。
無詠唱を習得していなければ確実に殺されていたことに2人は気を引き締めた。
そうして今に至る。
「…ノックス様の質問について…ノエルは何か思いついたッスか?」
未だ答えらしい答えを見つけられないアインが問いかける。
「……まだ何も。その様子ではアインも何も思いついてはいないようだな…」
「…はぁぁぁぁ……『戦いにおける真の連携』……わっかんねぇぇぇ……」
アインは深いため息をついて項垂れた。
「そう易々と見つけられるものでは無いんだろう。」
「お互いの動きに合わせて…ってんじゃあ不十分なんッスよね………あぁ………リリスの花園が遠ざかる………」
「まったく、お前という奴は……」
ご褒美目当てのアインに呆れて溜め息をついた。
突如として、2人の足元が崩れ落ちた。
そしてそのままダンジョンの最奥にある空間へと滑り落ちた。
「ビ、ビックリしたぁぁ…」
「…油断していたな…ケガは?」
「擦り傷がちょこっとあるぐらいッスね。ノエルは?」
「俺も同じようなものだ。」
「落とし穴とかあるんッスね……」
「…警戒しろ……何かいるぞ…」
ノエルはすぐさま立ち上がり、部屋の奥にいる異様な気配を感知し戦闘態勢に入る。
アインもノエルの指示で慌てて立ち上がり、同じく戦闘態勢へと入った。
部屋に入ってきた獲物を感知したその何かは、ズシズシと音を立てて近づいて、光に照らされやがてぼんやりとその姿が顕になった。




