課題
ノックスとノエル、アイン、ノアの一行は翌朝、早速ダンジョン攻略のために入口付近へとやって来ていた。
「分がっでっと思うけんど、死んでもしらねぇど。」
門番をしていた巨人族が忠告する。
「ああ。帰りは来た道を戻ればいいのか?」
「途中で引き返すならそだ。」
「ほう?ならば踏破した時は別の出口でもあるのか?」
「最奥まで行ぎゃあ転移魔法陣が敷いである。そごでさっきの通行証に魔力さ注ぎゃあ外に出られる。」
「なるほど…面白い仕組みだな…」
「引き返すんなら向こう側から扉さ叩け。」
「分かった。」
巨人族の門番は一通り説明したのち、デカく重そうな扉を2人がかりで開け放った。
中は篝火すらも無く、扉の内側には引っかき傷や、古い血痕が黒ずんでおり、かなりの禍々しさを放っていた。
ノックスたちがダンジョンに入ったのを確認すると、門が重々しい音と共に閉まり、門の隙間から漏れている一筋の光以外は暗黒に包まれた。
アインは早速魔道具店で購入したスクロールを取り出し魔力を注入すると、スクロールから光の玉のような物が出現し、松明の如く辺りを照らした。
「ノックス様もノエルも、これ使うといいッスよ。6時間は照らしてくれるッス。」
光の玉はアインのそばで光り続けており、アインの動きに連動しているのが見て取れた。
どうやら魔力を注入した者に連れ添ってくれるようだ。
ノックスもノエルもアインから手渡された魔法陣に魔力を注ぎ、光の玉を出現させて明るくなった周囲を見渡した。
「思った以上に拓けてるッスね。」
「そのようだな。だがこれは…」
「ああ。感知スキルがアテにならんな。」
ノックスとノエルはすぐさま感知スキルで周囲のモンスターを索敵したが、滞留している魔素の影響か、モンスターの居場所を特定出来なかった。
「うわ!ホントだ…こんなことってあるんッスね……」
「油断するなよアイン。これだけ魔素が滞留しているということは、それだけモンスターもかなり強いハズだ。」
「わ、分かってるッスよ!でもこれじゃあずっと気を張り続けないといけないッスね…」
「感知スキルに頼らない良い訓練になりそうだな。」
アインとは違い、ノエルは少し胸を踊らせていた。
「気配感知でなら索敵できるかもしれんな。」
魔力感知とはその名の通り、相手の持つ魔力で居場所を特定する感知スキルである。
このスキルはレベルが高ければ高いほど遠くの魔力を感知することができる。
が、反面。ダンジョンのような魔素が滞留している場所ではこのスキルは上手く発動しない。
もう1つの気配感知は魔力感知とは違い、近くにいる敵の気配を感じ取るスキルである。
レベルが高ければ高いほど隠密している相手でも感じ取ることが出来るのだ。
ただしこちらはスキルレベルが上がっても範囲が拡大することはない。
ノエルが索敵しつつ先行し、その後ろをアイン、そしてノックスと続く。
モンスターとの戦闘は先の通り、ノエルが先行してアインが後方支援というオーソドックスな形での連携を行っていた。
元々この2人はノックスと出会う前から何度も共闘した仲であり、連携に関してはそれなりに自信はあったのだが、ノエルはレベルアップによるパワーとスピードが格段に上がっていたのと、アインは無詠唱魔術により魔法の連発が可能になったのとで、最初の内は息が合っていなかった。
奥に進みつつモンスターと幾度となく戦闘をしながら調整する。
ノックスはこの間は全く戦闘に介入することは無かった。
というよりむしろ今はお互いの連携力を高め合うためには邪魔してはいけないと空気を読んだのだ。
手持ち無沙汰のノックスはその間、ダンジョン内にいるモンスターと外のモンスターを比較し分析などしていた。
暇なのはノアも同じだったようだが、ノアはノエルとアインの戦闘をジッと見つめ、時折前足で引っ掻くような動作をしたり、いきなり後ろにピョンと飛び避けたりしていた。
どうやらノエルの動きを参考にノアなりに動いているようだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ダンジョンに入って3時間。
3人と1匹はノックスが拵えた椅子に腰掛けて休息を取っていた。
「ここのダンジョン、相当にレベル高いッスね〜。外の敵とはレベチッスよ。」
「確かに。だからこそ我々の訓練になる。」
「2人とも、連携はどうだ?」
「最初ビックリしたッスよ!ノエルってあんなに動き回れんのか!って!」
「それは俺もだ。アインの魔法が何度も撃てるようになっていたので驚いた。」
「そうだろうな。お互いの反省点などは?」
「んー、俺は、ノエルの動きを追うと他のモンスターへの注意がバラつくから、もっと視野を広げないとって思うッスね。」
「私も同じくです。それだけでなく、アインがどのモンスターに魔法を撃つのかを見極めねばと思います。」
「ふむ。確かに2人の意見には俺も同感だな。今はまず互いの力量を確認し、調整が必要だ。だからお前たちに課題をやる。」
「へ!?」
「課題ですか?」
「ああ。別にこのダンジョンを踏破した後でも構わん。」
「畏まりました。」
「む、難しくなきゃいいんッスけど…」
「『戦闘における真の連携とは?』これがお前たちに課す課題だ。」
「「…戦闘における真の連携……」」
「そうだ。」
「お互いの動きに合わせて動くってだけじゃダメなんッスか?」
「それでは不十分だ。それはお互いに気を使っているだけで真の連携とは言えん。」
「互いに信頼し合う、ということでも無いということでしょうか?」
「そうだ。」
「「…………」」
ノエルとアインはお互いに見つめ合った。
「これの答えは俺自身が持ち合わせた訳では無い。『悪魔の口』にいたスケルトンたちの戦闘技術を磨いていく内に気づいたものだ。だから答えは1つでは無い。」
「答えられたらなんかご褒美欲しいッス!」
「おい!アイン!!」
「いや、ノエル。アインの言うことも尤もだ。そうだな……何が欲しい?」
「えーっと……なんでもいいんッスか……?」
「俺にできる範囲でならな。」
「…怒んないッスか?」
「勿体ぶらずに早く言うんだ。」
「じ、じゃあ……ウィンディア王国にあった……歓楽街なんッスけど……」
「ほう。」
「そこにある『リリスの花園』ってお店に行きたいッス!!」
「………!!!?」
「『リリスの花園』か。まあいいだろう。」
「ノ、ノックス様!!?」
「やったーーー!!!!言ってみるもんッスー!!!!」
「ノエル、何か問題があるのか?」
「い、いえ、そ、そういうわけではありませんが……」
「ならいいだろう。ノエル、お前も何が欲しい?」
「え、えぇ。そうですね…私はノックス様のお傍に置いて頂けるのならばそれ以外には何も。」
「ノエルは真面目ッスね〜。」
「それでは俺の気が済まん。」
「畏まりました…ですが少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
「ああ。」
「ありがとうございます。ノックス様の課題をクリアできるよう、頑張らせていただきます。」
一同はそうして席を立ち、ダンジョンの最奥に向けて歩き出した。
余談だが、アインの言う『リリスの花園』とは若い女性が客にお酒を提供して接待をする夜のお店、日本で言うキャバクラである。
ノックスはそんな店だと露知らず、『花園』という言葉だけで『花屋』と勘違いし、アインが誰かに贈る花束でも買うためにその店を所望したのかと思っていたのだった。