マイナの真意
マイナと別れた3人はその後もクレイのダンジョンへ向けて歩を進めていた。
「ノックス様、よろしかったので?」
不意にノエルが尋ねてきた。
「殺さなくても、ということか?」
「はい。なぜ殺さなかったのか、あの女を多少なりとも信用したということでしょうか?」
「裏切って大勢引き連れてくるかもしれないッスよ?」
「それならばわざわざ俺たちに姿を現す必要も無い。」
「まあ、そうッスけど…」
「お前たちはマイナが俺たちの前にわざわざ出てきた理由はなんだと推測している?」
「んー、単に寝返ろうとした、とかッスかねぇ。」
「不意打ちを与えようとしたが、バレたのでこちら側に付くなどという嘘を言い、寝首をかこうとした、かと。」
「なるほどな…確かにその線は俺も考えた。だがマイナは俺の力を目の当たりにしている以上、それは少し難しいのではと思っている。」
「ノックス様はどう推測を?」
「リスクを犯してまで目的を遂行するようには見えなかったな。なんとなくだが、マイナは俺たちに保護してもらいたそうに見えたな。」
「保護…ですか。」
「ああ。教会のやり方は非道そのもの。今回のウィンディアへの侵攻を失敗したとなれば、その責任を取らされるだろう。」
「そうッスね。」
「亡命も考えていただろう。それでも俺たち側に着きたいと言うのは自分の身の安全を優先したのかもな。ただ、もう1つ考えていることがある。」
「なんでしょう?」
「なんッスか?」
「マイナはおそらく、教会に復讐してやりたい、ということだ。」
「…復讐…ッスか…」
「まぁ単なる推測に過ぎん。ただ、マイナがどちらに手を貸すにせよ、俺たちのデメリットになることはないだろう。」
「もしもまた敵対してきたときは…」
「その時は俺が殺す。」
マイナの真意は不明だが、とりあえず3人はこの話題を保留にした。
ノエルとアインは一抹の不安はあったものの、ノックスの言うように『デメリットになり得ない』という事に同調した。
というのも、もしまたウィンディアに教会が侵攻してきたとて、それはマイナが生きていようといまいと同じこと。
ズーグの失敗は遅かれ早かれ知られる。
となれば再度侵攻をかけてくる可能性は大いにある。
マイナが再び自分たちに相見えるかどうかは不明だが、生かしておいても損は無い。
何よりも、マイナがもしかするとルナを見つけたり、あるいは、その手がかりを掴むかもしれない。
そんなやり取りをしながら3人は森の中にあった鳥人族の村に着き、宿を取れるか確認した。
この村でもすでにノックスたちの偉業は流布されており、むしろ大歓迎されたほどであった。
鳥人族たちの村は木の上に家を建てられていた。
聞けばここはメローネの生まれ育った場所だという。
色々な話を聞かされたが、やはりまだ竜人族への蟠りは解けていないようであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
王国を出て4日目。
一行はようやくクレイのダンジョンへとたどり着く。
ダンジョンの入り口はモンスターが溢れ出ないように頑丈に石レンガの門を付けられており、門番も数人立っている。
ダンジョンを取り囲むようにいろんな店が立ち並んではいるものの、あまり活気づいてはいなかった。
本来ダンジョン付近の街はたくさんの冒険者が立ち寄るため活気に溢れているのだが、このクレイのダンジョンは難易度が相当高いため、あまり人も立ち入らないのだそうだ。
特にここ数年は最奥まで踏破したものもおらず、腕に自信のある冒険者が自分こそがと息巻いてダンジョン攻略を目指したものの、道半ばで引き返す者や、力尽きて帰らぬ人となることばかりだった。
当初ダンジョン攻略に息巻いていた冒険者たちは次々にここの攻略を諦め初め、たまにやってくる冒険者が寝泊まりするためだけの閑散としたものであった。
人の往来が少ないせいかノックスたちのことは全く知られておらず、魔族ということで警戒されたもののギルドカードを提示し、ダンジョン攻略のためだけに来たことを説明すると、ため息をつきながら受け入れてはくれた。
普段なら久々の客が来たということで宿や食事処や商店が呼び込みにかかるのだが、相手が魔族だと分かると皆店内へと戻っていた。
そんな中、ノックスたちを見てもたじろぐことも無く声をかけてきた者がいた。
「アンタら、ここじゃどこも泊めてくれないだろう?良かったらウチで休んでいきな!」
声の主を見やるとやや高齢のエルフ族の女性が立っていた。
「見ての通り魔族だがいいのか?」
「言いも悪いもないよ。せっかくダンジョン攻略に足を運んでくれてんだから、種族なんて関係ないよ。」
「ありがとう。じゃあ今日はひとまずここの宿で泊まり、明日の朝からダンジョンに入ろうか。」
「「了解です(ッス)。」」
ノックスたちを迎え入れたことに他の店の者がヒソヒソと話していたが、エルフの女将は全く気にも止めていなかった。