魔鉄
ノックスはその後、この刀の製法について説明した。
と言っても鉄を火魔術で炙り、不純物を取り除き、さらに高温にしてドロドロに溶かしただけであるが。
「て、鉄を火魔術で溶かしたんッスか!?」
「鉄を溶かすほどの火力を持つ魔道士なんざそうはいねぇ。大体は炭を焚べて鍛錬する。『魔鉄』を作ろうとなりゃあ並大抵の魔力じゃねぇ。」
「最初のうちは魔力枯渇に陥りそうになったが。」
「無茶をしたようだのう。だがそれでここまでの『魔鉄』に仕上がったっちゅうわけか…」
「『魔鉄』とはそんなに珍しいものなのか?」
「えぇ。市場に出回る『魔鉄』は基本的にダンジョンなど魔素の留まるところにある鉄が変質して出来上がるものが流通するのですが、ここまで純度の高い『魔鉄』は自然界では発生しません。」
「あぁ。さらに言えば『魔鉄』を鍛冶できる職人となれば数が限られる。『魔鉄』の最大の特徴はその硬度だのう。純度が高けりゃその硬度も高ぇ。」
「仮に市場に魔鉄製の武器が売りに出されれば、純度の低い物でも5万ダリルが相場でしょう。ノックス様のこの刀だとそれこそ100万か200万ダリルの値がつくかと。」
「すげぇ……ってことはノックス様が魔鉄を量産して売れば大金持ちッスね!」
「いや、さっきも言ったが魔鉄を加工できる鍛冶職人がいて初めてその値が付く。硬い魔鉄を加工できなきゃ宝の持ち腐れだのう。」
「なるほど…その刀で3代目なのだが、通りで折れにくいわけだな。」
「…だがこの刀は改良の余地がある。ノックスさん、この刀をしばらく俺に預けてくれねぇか?」
「あぁ。構わない。なんだったらノエルの武器も魔鉄にしようか?」
「え!?よ、宜しいのですか!?」
「ジェルゾ殿が加工できるのならそのほうがいい。」
「任せな!!」
「えー!俺のはしてくれないんッスかー?」
「アインはミスリルというやつのほうがいいんだろう?」
「はい。ミスリルは魔力の伝導率が高いのでそちらがいいかと。」
「アインさん、任せな。そっちのナイフもちゃあんと仕上げるからのう!」
「了解ッス。」
「仕上げまでしばらくかかっから、店ん中の武器どれでもいいから代用しといてくれ。」
「…いいのか?かなり高額の物もあったが。」
「今から作るこの武器らに比べりゃ屁でもねぇ。間違いなく俺の鍛冶歴50年の中でも最高の物が出来上がるハズだのう。」
「それならお言葉に甘えよう。完成したらギルドにでも知らせてほしい。」
「任せな!!」
その後、ノックスはノエルの双剣を火魔術でドロドロに溶かし、さらに鉄を追加で溶かした。
工房にいた他のドワーフ族たちも見守っており、感嘆しつつ目を爛々と輝かせていた。
「ようし、お前ら!!石炭をありったけかき集めろ!!気合い入れて取り掛っぞ!!」
「「「おう!!!!」」」
工房を後にしたノックスたちは店内に置いてある武器を選んだ。
さすがに高額の物は気が引けたので、1000ダリルほどの剣を取り、店を後にした。
「武器が出来上がるまでしばらくかかりそうッスね。」
「その間訓練だな。」
「げっ…マジッスか……」
「それもいいが、さっきの話でふと思い出したんだが、今のうちにダンジョンに行く。」
「なるほど。それもよい訓練になります。」
「ダンジョンッスかぁ…」
「嫌なのかアイン?」
「い、いや、嫌ってわけじゃなくって、俺はいいんッスけど2人とも武器が代替品だけど大丈夫ッスか?ノックス様は問題ないとは思うッスけど。」
「この程度問題ない。ノエルは?」
「私も問題ありません。」
「アインは?そこまで嫌なら留守番しててもらうが。」
「え…いや、お、俺も行くッスよ!」
ノックスたちはその後ギルドに立ち寄り、簡単にダンジョンの場所や出現するモンスターなどについて尋ねた。
このウィンディア領にはダンジョンが3つ確認されており、王国から見て北北西に1つ、南に1つ、南東に1つ存在している。
距離で言えば南東にあるダンジョンが1番近いが、ダンジョン内の魔素が濃いために出現するモンスターもかなり凶悪だという。
このダンジョンはクレイ地方にあるため、クレイのダンジョンとも呼ばれている。
他2つのダンジョンについても職員は説明してくれていたが、ノックスの中ではこのクレイのダンジョンに行くことにすでに決めていた。
その後、ダンジョン攻略のために必要品を買うために色々な店を回った。
特にダンジョン内のモンスターは倒しても死体が残らないため、食料品は必要不可欠である。
モンスターが嫌う臭いを発する線香もあったが、試しに火をつけてみるとノアが少し嫌がったために買わずにパスした。
他にもあれやこれやと品定めしていたが、遊びに行くわけではないので寝具のみを購入した。
宿へと戻り、ダンジョン内での役割について話し合う。
「戦闘については我々の訓練も兼ねて今まで通り私とアインが担当致します。」
「うへ…やっぱそうッスよね。」
「アインは後方で魔法支援だ。俺も退屈しのぎに戦闘に参加する。」
「ノックス様もですか?」
「あぁ。ノエルが先行、アインは後方支援。2人の打ち漏らしを俺がやる、というのはどうだ?」
「かしこまりました。」
「俺後方でいいんッスか?」
「あぁ。ノエルの動きを読みつつ敵を迎撃。オーソドックスだがそろそろ連携力の調整も必要だろう。」
「なるほど。ノックス様と出会ってからは個の力を磨いてきましたが、そろそろお互いの実力を確認させ、調整や矯正を行う、というわけですか。」
「確かに今まで連携を鍛えたりって無かったッスもんね。」
「打ち漏らしを気にするな。俺が全て処理する。」
「…でも俺、ノックス様の動き早すぎて誤って魔法が当たっちゃうこともあるかもッスよ?」
「それでいい。そのほうが俺の訓練にもなる。アインは俺の事は無視しろ。」
「…ノックス様のこと無視するなんてムズいッスよ……」
「違うぞアイン。ノックス様程の実力があれば、アインの魔法など不意に来られても当たらないというだけだ。仮に当たったとて屁でもない。」
「…なんか悔しいけど反論できねぇッス……」
「それは買いかぶりすぎだ。そうじゃなく、アインはノエルの動きに合わせて支援する。ノエルもアインの支援に合わせて攻撃する。お互いそれに注力してほしいというだけだ。」
「…ノックス様に間違って当てちゃっても怒んないッスか?」
「怒るわけがない。乱戦ともなればお互い連携を気にしてられないこともあるだろう?俺は2人が連携に集中できるよう、敵の数をコントロールするまでだ。
その際にアインが俺に魔法を当てられたということは、それだけ視野が広いというだけだ。」
「な、なるほど…!!了解ッス!!頑張るッス!!」
「ノエルのほうこそアインの飛んでくる魔法に気をつけろ。支援してくれるとは言え、お互い差し迫っている状況では支援してくれるとも限らん。」
「了解致しました。」
3人が打ち合わせをしている最中、我関せずとミルクを飲んでいたノアは満腹になったのかノックスの膝元でスヤスヤと眠りについていた。




