災害級モンスター
ロンメア王国に残ったナタリア・モズ・リドルの3人はパーティを組んでクエストをこなしていた。
時折合間を見てはそこへローシュも加わり、戦闘訓練も欠かさずに行っていた。
特にナタリアとモズの気合いの入れようは生半可な物ではなく、朝から夕方までは走り込み、詠唱訓練、クエスト、クエストがなければ模擬戦闘。夜はお互いの反省点や改善点、連携についての話し合いなど余念が無い。
そのおかげか、ロンメア国内ではこの魔族3人パーティは高難度クエストをこなせるAクラスパーティだとも持て囃された。
実際には最近になってようやっとDランクに昇格したにすぎないのではあるが。
今日も今日とてローシュも加わり4人での模擬戦闘訓練をしていた。
「だから言ったでしょ!モズ!あなたはもっと周りを見て!」
「そんなこと言ったってナタリアだって目の前の敵ばかり追いすぎです!」
「仕方ないじゃない!こっちはローシュを相手してんの!リドルまで相手できる余裕なんてないわよ!」
「だから防御よりも速度重視の付与をかければよかったんです!」
「…2人とも、ケンカはそのへんで辞めておけ。」
「なによリドル!!」
「リドルはどっちが正しいと思うんですか!?」
「え?い、いや、どっちが正しいかなどと聞かれてもだな…」
この日の模擬戦闘は2対2に分かれての訓練であった。
ナタリアとモズが組み、リドルとローシュが組んで訓練したのだが、リドルとローシュの連携が上手く成功して勝利を収めたのだ。
「やめんか、2人とも。今回お前たちの敗因は、お互いが勝ちに急いだからだ。」
「ローシュ殿の言う通りだ。お前たちの頑張りは認めるが、俺たちも同じように訓練している。勝ちを急ぐあまり周りが見えていないのは2人ともに言えることだ。」
「くっ…」
「むぅ…」
「なぜそこまで勝ちに拘る?」
「…そんなの決まっているわ。ノックス様に見限られないためよ。」
「お前もか?モズ?」
「…は、はい……」
「やれやれ……ノックス様がそんな事で我らを見限るならとうの昔に見限っておるわ。そんなくだらぬ理由で勝ちを拾えないことこそ、見限られても仕方ないかもしれんぞ。」
「…すみません……」
「ごめんなさい……」
「まあよい。ともかく2人は今日の反省を次に活かすことだ…」
すっかり意気消沈してしまったナタリアとモズはお互い黙り込んでいた。
普段は勝ち気なナタリアですらローシュの言葉が胸に刺さったのだろう。
2人がポーションを飲み、街へ戻ろうとした時であった。
「「「「!!!!????」」」」
4人の感知スキルにこれまで感じたこともない異様な気配を感じとった。
「ローシュ殿、こ、これは…!」
「これほどの気配……並々ならんぞ…!もはやこれは………」
「……災害級…モンスター…?」
「そ、それも……1つじゃありません……群れを成してます………」
「こんなのが街に来たら…いや、街どころか国そのものの危機だ!!」
「早くギルド…いや、王城へ連絡を…!!…!?早い!!」
「まずい!!異常な速度でこちらに来る!!」
「皆、急いで戦闘態勢!!!!」
4人は武器を手に取り戦闘態勢に入り、その気配が迫ってくる方向を警戒した。
凄まじい気配に冷や汗を流しつつ見守っている1団の元へ、やがてその気配の主たちが見えてきた。
「…人型…?」
「…違う…!…スケルトンだ!!」
「…まさか?何かの間違いなのでは?これほどの気配だというのにスケルトンだと?」
「…でも、気配は間違いなくあのスケルトン郡から放たれています…!」
「…モズ、浄化魔法は使えるのか?」
「…いけます…!」
20体ものスケルトンがその4人の元へと到着した。
そのうちの1体のスケルトンがローシュたちを見てなにやらカタカタと顎を鳴らした。
「ナタリア!!ゆくぞ!!」
ローシュの掛け声と共にローシュとナタリアが左右から攻め入った。
ローシュとナタリアから放たれた剣戟はいとも容易くスケルトンに受け止められたが、その内の1体に向けてリドルが突撃した。
だがそれすらも他のスケルトンに阻まれた。
その瞬間、モズから浄化魔法が放たれる。
剣戟を受け止めていたスケルトンは浄化魔法を嫌ったらしく、ナタリア、ローシュ、リドルの3人は吹き飛ばされた。
さらに後方にいたスケルトンから風魔術が放たれ旋風が巻き起こり、無数の刃が4人に襲った。
モズはすぐさま体勢を立て直し、吹き飛ばされた他の3人に回復とパワーとスピードアップの付与魔法を施した。
さらにモズは3人の武器に浄化魔法を付与させ、形勢を立て直しにかかった。
その間もスケルトンはカタカタと顎を鳴らしていたが、自分たちの戦闘を笑っているかのようであった。
今度はリドルが先行し、スケルトンに斬りかかった。
浄化魔法が付与された剣戟のため、スケルトンは受け止めることはせずに回避に回る。
サポートにモズからもスケルトンに向けて何発もの浄化魔法が飛んでいたが、どのスケルトンもヒョイヒョイと躱していた。
スケルトンの足を止めるべくナタリアとローシュの2人がかりでまず1体のスケルトンの動きを封じにかかる。
だが後方から放たれてくるスケルトンの魔術によりどれも阻まれ、全くもって戦法が通じなかった。
そんな中でもモズが浄化魔法を連発していたが、不意に1体のスケルトンに魔法が当たった。
マグレかと思いもう一度同じ場所へ放つと、スケルトンは微動だにせず、むしろ進んで自ら当たりにきていた。
「…スケルトンが…スケルトンを庇って…?」
「モズ!向こうがわざわざ当たってくれるなら好都合だ!!あのドレスを着ているスケルトンに最大火力の浄化魔法を!!」
「は、はい!!」
ローシュに促され、モズが魔力を練り上げた時だった。
1体のスケルトンがズイと前へ出てきたかと思うと、目にも止まらぬ速度で4人全員を一瞬にして斬り伏せた。
「ぐはっ…!!」
「…な、なんというスピード…」
「こ、このままでは……」
「ノ…ノックス様……最期に一目お会いしたかった……」
誰もが自分たちの死を覚悟していたが、その後スケルトンは何故か追撃してこなかった。
スケルトンたちは4人を無力化したことを確認すると剣を収めた。
先の剣士スケルトンも同じく剣を収め、顎をカタカタと鳴らしている。
おかしい。
どう考えてもおかしすぎる。
なぜスケルトンはトドメを刺しにこない?
そもそもこのスケルトンたちは最初から手加減していたのではないか?
それに笑っているとも思えたが、顎をカタカタさせているのは何か喋っているつもりなのではないか?
皆の脳裏に同じような疑問が浮かぶ。
何よりも、あの剣士スケルトンの剣術には見覚えがあるのだ。
皆、一斉にハッとした。
「ま、まさか、お主らは『悪魔の口』でノックス様と一緒にいたというスケルトンか…?」
ローシュの問に答えられる声門をスケルトンは持ち合わせてはいなかったが、剣士スケルトンは静かに礼をした。
そして、スケルトンが身を呈して守ったドレスを着たスケルトンが、4人の前に歩み寄り、左右の手でスカートを持ち上げて貴族らしい礼をした。
「まさか、ノックス様を追って地表に出てきたというのか……?」
「し、信じられん……スケルトンが…?」
「ですが、あの剣術はノックス様の剣術にかなり近しいかと…」
「私も思います。そもそも災害級とも言える気配のスケルトンなのに、手加減していましたし。」
「ということはやはりノックス様を追って…か。…残念だがノックス様はここにはいない。」
姫スケルトンは明らかにショックを受けたようなリアクションをして膝をついてさめざめと泣いてしまった。
他のスケルトンが姫スケルトンを宥めている。
スケルトンでなければ大泣きする女の子を宥める少し微笑ましさもある光景なのだが、その実はスケルトンであるためどことなくシュールな光景である。
「ノックス様とはまた今後合流する予定だ。」
ローシュの言葉にいち早く反応した姫スケルトンはローシュに迫り、顔を近づけて顎をカタカタと鳴らした。
「す、すぐにという訳では無い…!…お主らに教えてもよいのだが…そうだな……」
ローシュはナタリアたち3人を軽く見やった。
「ノックス様から便りがくれば、我ら魔族はここを離れノックス様の元へ行く。その時でもよければ案内しよう。」
「ローシュ殿!?」
「本気ですか!?」
「本気も何も、彼らも我らと同様にノックス様の配下。それに彼らが居ればかなり心強い。」
ローシュの提案にナタリアたちは驚いたものの、最終的には納得した。
そしてスケルトン側も何やら顎をカタカタと鳴らし合って相談しているらしく、その後姫スケルトンがローシュの前へ歩みより、提案に乗るという意味なのか右手を差し出した。
ローシュはその姫スケルトンの手を取り、お互いに握手を交わした。
余談だが、『悪魔の口』にいたスケルトンたちは、皆で力を合して木材を加工したり、モンスターの骨や牙を加工して足場を作って『悪魔の口』から這い出たようであった。
そしてノックスに会うべくロンメア領内に入り、ローシュたちと戦闘になったようである。
領内に入る際に関所を通ったのだが、衛兵たちでも全く太刀打ちできず、だが誰一人として死者を出すこともなかったのだが、災害級とも言えるスケルトンの侵入により、王城内は騒然となっており、ローシュたちがその件で間に入って許可を得るのであった。