ノックスv.sズーグ
「スヴェンに続きスタインもやられた…か。これは想定外だな。」
「はぁぁあああ!!!!」
ガンベルは目の前の男を敵と認識し、薙刀で攻撃仕掛けたのだが、魔障壁により阻まれた。
「そう焦るな。…ここまでこのウィンディアが力を持っているというのは問題だな。」
ズーグは錫杖で大地をコンッと叩くと、ズーグを中心に巨大な魔法陣が現れた。
「な、なんだっ!?」
「魔法陣!?」
「皆の者!!警戒しろ!!」
動揺している皆を他所にガンベルが注意を促す。
「警戒など無意味。教会に仇なす者に鉄槌を…」
魔法陣が光を帯び、真上に何重もの魔法陣が次々と浮かび上がった。
そしてズーグは徐に錫杖を掲げ、唱えた。
「来たれ、『死の祝福』。」
魔法陣から得体の知れない枯れ木の切れ端のような、無機質な長い手がいくつも現れた。
そしてその手は近くに居た物を捕まえた。
抵抗すべく皆がその手に攻撃を仕掛けたが、ゴツゴツした手は鋼のように固く、全くもって攻撃を受け付けなかった。
そしてガンベルを含め、その場に居た衛兵たちはその手に捕らえられてしまった。
その後、幾重にも連なっていた魔法陣がゆっくりと降下し、1つの魔法陣に合わさる。
やがて地鳴りと共に、そこから巨大な顔が這い出てきた。
その顔は人の顔立ちのようであったが禍々しく、額には第3の目が見開いていた。
頭部に続いて上半身も魔法陣から出現し、捕らえていた衛兵の1人を自らの顔の近くへと持ち運ぶ。
捕らえられながらも抵抗していたその衛兵であったが、その顔がニヤリと不敵な笑みを浮かべると口が裂けるかというほど大きく口を開け、その衛兵の上半身にかぶりついた。
かぶりつかれた割には血飛沫が一滴も零れず、衛兵の体は何ともないかのように思われた。
だが、かぶりつかれた衛兵は巨大な手に掴まれた状態のまますでに絶命していた。
「な、なんだこれは!!!?」
「ひぃぃいいいい!!!!」
「だ!誰か!!助けてくれぇぇええ!!!!」
その様子を見ていた他の衛兵は恐怖でパニックに陥っていた。
そんな中ガンベルだけは最期の足掻きとしてその顔目掛けて薙刀を放り投げた。
だが、放り投げられた薙刀は顔をそのまま透過していった。
「…!?…実体が無い…だと…?」
「無意味と言っただろう。お前たちにも祝福を与えん…」
一人、また一人とその顔にかぶりつかれては亡きものにされていった。
「…もはやここまでかっ…!!」
ガンベルが顔の所へ持ち運ばれ、己の死を覚悟した。
「ようやく姿を現したか。」
その言葉と共に竜巻が巻き起こり、大地の魔法陣をかき消した。
それにより顔や手も消失し、いきなり自由の身になった衛兵たちはドサドサッと大地に落ちた。
ガンベルも同様に掴まれていた手が消えたことで自由になり、大地へと転げ落ちた。
「…ノ、ノックス殿……なぜ…?」
「この国を教会の好きにさせる訳にはいかん。それにコイツには俺も用がある。」
「…貴様…何者だ?」
突如現れたノックスに自身の魔法が一瞬のうちにかき消され、苛立ちをこめてズーグが問いかけた。
「俺は単なる通りすがりの者だ。貴様は12使徒というやつか?」
「…いかにも。12使徒であるこの私の邪魔をした以上、貴様にも死の鉄槌を下す。」
「その前に聞きたい事がある。『ルナ』という名の女に聞き覚えはあるか?」
「『ルナ』…だと?」
「そうだ。人と魔族のハーフの者だ。」
「…知っていたとて貴様に教えるとでも思うのか?」
「知らなければ構わん。俺が知りたい情報を持ち合わせていない貴様にはすでに用はない。」
ノックスが刀に手を当てて戦闘態勢に入る。
「クク……この私に敵うと思うとは愚かな……よかろう。力の差を思い知るがいい…!!」
ズーグは錫杖を天に掲げると、自身を中心として魔障壁を張り巡らした。
その後、遥か上空に岩が出現し、徐々にその大きさを膨らませ、直径100メートルを超える大きさにまで成長した。
「全ての者に死の鉄槌を…『神の裁き』!!」
巨大な岩が落下し始め、猛スピードで迫り来る。
上空を見上げていた人々はみな膝から崩れ落ちて絶望し、自分たちの死を受け入れざるを得なかった。
巨大な爆音と共に阿鼻叫喚の声が一瞬でかき消される…はずだった。
いつまで経っても落下しない岩にズーグが気づいた。
「…なに……なぜ……?」
「悪いな。土魔術は俺の得意とする所だ。そしてそんな俺からすれば、こんな魔法は被害を拡大させるだけでデメリットしかない。」
ズーグがノックスを見やると、ノックスは左手を刀に掛けたまま右手を天に翳し、落下を堰き止めていた。
やがてノックスが力を込めて手を握ると、その岩は爆発四散し、小さく細かい石に砕かれ大地に降り注いだ。
「…な、…なんだと…!?」
ズーグは信じられない物を目の当たりにし、目を丸くしてノックスを改めて見やる。も、すでにそこにノックスはいなかった。
ノックスはすでに魔障壁付近まで迫っており、刀を抜いて魔障壁を断絶した。
ノックスの鋭い刃により一瞬のうちに魔障壁は切り裂かれ、そのままズーグの右腕ごと断絶せしめた。
「なっ…!!ぐあぁぁあああ!!!!」
錫杖を握っていた右腕ごと大地に落ち、ズーグは痛みで膝を着いて呻いた。
「ほら、余り物で悪いが、お返しだ。」
ズーグがその言葉にノックスを睨みつけた所へ、先程爆発四散させた岩の破片の1つがズーグの左胸を撃ち抜いた。
「……!!!!……ごふっ………!!」
左胸を撃ち抜かれたズーグは吐血しながら両膝から崩れ落ちた。
ノックスはズーグの黒フードを剥がして素顔を晒した。
そこにいたのはスキンヘッドの中老の男で、口の周りに髭を生やした男であった。
「さて、もう一度聞く。『ルナ』という名の人と魔族のハーフの女を知らないか?」
ズーグはノックスの顔を睨みつけたが、ノックスから向けられた冷徹な瞳で睨まれ萎縮した。
「し、知らぬ…!!だが過去にそういう女が売りに出されていたとは聞いている…が、その後までは知らぬ…!!た、頼む…見逃してくれ…そうすれば私がその女を探す!だから…」
「そうして逃げるかもしれない。貴様が俺に情報を引き渡す保証もない。
それに、貴様は同じように命乞いをした者に何をした?」
「…そ、それは……
…だが約束する!!必ず『ルナ』という者を見つけ出すと!!」
「先も言ったが、俺の知りたい情報を持ちえない貴様になど用はない。死ね。」
ノックスがズーグの首目掛けて刀を振り落とし、ズーグの首が大地に転げ落ちた。
頭部だけになったズーグはしばらく意識があったが、激しい憎悪と後悔を募らせていたが、ノックスの冷徹な瞳で睨まれ、恐怖し、やがて視界が真っ暗になり、意識は深い闇の中へと沈んでいった。