ノエルv.sスタイン
スヴェンはガンベルの薙刀により袈裟斬りされて両断され絶命した。
「ぐっ……!!」
スヴェンの剣に貫かれていたガンベルは吐血しながら膝を着く。
「ガンベル様!!」
戦いを見守っていた衛兵たちが駆け寄り声をかけた。
「ガンベル様!!す、すぐに治療を…!!」
「衛生兵!!早く!!こっちに!!」
「ポーションは!!余ってる奴はいないのか!?」
慌てふためく衛兵たちを他所に、ガンベルは歯を食いしばって立ち上がった。
「ガ、ガンベル様!!無茶はダメです!!」
「…かまわんっ…!…それよりも戦いはまだ終わっておらん…!!」
「し、しかし…!!」
ガンベルは腹に突き刺さっていた剣を自らの手で引き抜いた。
傷口から血が噴き出し、足元にはみるみる血溜まりができた。
「…ガ、ガンベル様……」
「…俺なんぞに無駄な回復を施すな…それよりも敵を殲滅しろ…!」
「ですが…!」
「手負いだったとは言えスヴェンを屠れる者がこの国にいたとは……獣の国と思って侮っていたようだな……」
「…!?な、何者だ!?いつからそこに!!?」
不意に声をかけられ驚いた衛兵たちが声の主を見やると、そこには黒いフードに身を包み、手に錫杖を持っているものが気配もなく佇んでいた。
「冥土の土産に教えて差し上げよう。私はサントアルバ教会12使徒のズーグだ。」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「…よもやこの俺と互角にやり合うものがこんな辺境の国に居るとはな……」
戦闘をしていたスタインがノエルを賞賛した。
「貴様こそ…やはり教会の者は侮れん。」
スタインは長身を活かし、レイピアによる刺突攻撃を、ノエルはスピードを活かし二刀での攻撃をしていたが、実力が拮抗しており戦闘が長引いていた。
「…このままでは埒が明かんな。いいだろう…」
スタインはそう呟くとスゥと息を吐き集中した。
その動きを注意深く警戒しつつ見守っていたノエルだったが、突如目の前にいたスタインの姿が消えたかと思うと、一瞬にして自身の背後に回り込まれていた。
「…!!」
振り向きざまに攻撃を浴びせかけたノエルだがその攻撃は虚しく空を斬る。
「無駄だ…もはや貴様にはこの俺を捉えられん…」
「『固有魔法』か…!」
スタインの固有魔法は『超速』。自身のスピードを極限まで高めることができる。
固有魔法によりノエルは翻弄され、ノエルの攻撃を躱すだけでなく時折レイピアで刺突を放つ。
致命傷を避けるべく動き回りつつ対処していたノエルだが、縦横無尽に刺される攻撃に至る所から血が噴き出していた。
このままではまずいと判断したノエルは距離を取ろうにもスタインはそれを許さぬスピードで一瞬のうちに間合いに入り込んでは刺突する。
体中血まみれになりながら冷静に分析する。
(ここまで致命傷を与えられんということは弄んでいるとは到底思えん。
ということは、奴自身が己のスピードに目が追いついていないということだ。
…考えろ……冷静に……)
考えている最中であってもスタインからは容赦なく刺突攻撃が繰り出される。
時折、重心移動により緩急を付けたりなどするものの、それで捉えられるほどスタインとて甘くはなかった。
体からみるみる血が流れ、ノエルの体力を奪っていく。
その時、ノエルの脳裏にある言葉が過ぎる。
『相手を自分の有利な所へ誘いこめ』
これはノエルではなくアインに向けられたノックスの言葉だ。
ノエルの頭にさらにアインの戦闘を褒めたノックスの言葉が思い浮かぶ。
『自らを囮に相手を誘い込む』
相手の動きを全く捉えられないノエルに1つの戦法が思いつく。
だが果たしてそれを実戦でいきなり行って上手くいくのかどうか。
その不安はありつつも、やらねばここで死ぬだけだと結論づけた。
ノエルは決意を胸に、超速のスタイン相手に剣を振る。
スタインはノエルの攻撃を見逃すことなく的確に目で捉え、背後へ回りつつ躱し、刺突する。
ノエルにとってはそれだけで値千金の経験であった。
ノエルは再度、スタインへ向き直り二刀で斬りつける。
当然の如く躱され、スタインは背後を取る。
その時であった。
ノエルはバックステップしながら自分の腹に剣を突き刺し、さらに背後を取ったスタインごと刺し貫いたのだ。
「ぐっ……!!」
「な…!?き、貴様、自分ごとだと…!?」
「…こうでも…しなければ、貴様を捉えられんかった…貴様とて…死角からの攻撃は…避けられまい…」
スタインはノエルを突き飛ばし、貫かれていた剣ごとノエルを引き離した。
予想外の攻撃をモロに受け、傷口からは血が溢れる。
「…やってくれたな…この俺に血を流させるとは…!」
腹部の刺し傷という点ではノエルもスタインも同じであるものの、ノエルは他にもレイピアによる刺突で至る所から血が溢れている。
一矢報いた、と言えば聞こえはいいが、ノエルがまだ明らかに劣勢であることに変わりはない。
ノエルは自身の腹に突き刺した剣を引き抜き、スタインに改めて対峙した。
「自身を犠牲に攻撃したことは褒めてやる…だがそれでも貴様の敗北は揺るがぬ。」
「…そんなことは……俺とて承知している……だから俺は保険を掛けている……」
「…保険…?……!!!!」
突如としてスタインが膝をつき、血反吐を吐いた。
「…ガハッ……!!……こ、これは……き、貴様、まさか……」
「…その通りだ……賭けだったが……貴様のその固有魔法には…致命的な弱点があったようだな……」
「き、貴様……!!……その刃に毒を……!!」
スタインの傷口は紫のような色に変色し、傷口から侵入した毒が体中を蝕んでいた。
だがノエルとて無事ではなく、同じように傷口が変色していたが、毒耐性スキルにより進行スピードを緩めていたのだ。
ノエルとてこれは一か八かの賭けだった。
だが、勝算が無かったというわけではない。
スタインの固有魔法は自身のスピードを超速化させるものであった。
もし万が一毒耐性がスタインのほうが上回っていたとしても、自身に掛けられた超速化により毒の回りも早いだろうと考えてのことであった。
「…ぐっ………!!」
スタインは自らに掛けていた固有魔法を解除し、毒は全身を蝕んでいたが、吐血しながらも歯を食いしばりよろよろと立ち上がった。
「…その気概……見事だ……!」
立ち上がることすら不可能と思えたほど毒に犯されていたスタインを見て素直に賞賛した。
「…最期に……貴様の名を…聞かせてくれ……」
スタインがノエルに要望した。
ノエルもそれに応じるべく、マスクを外した。
「…俺の名はノエル。ノックス様に仕える従順な下僕だ。…貴様の名はスタインだったな……覚えておこう。」
「…そうか……魔族だった……のか……
……フッ……
…この先、貴様らの行く先は茨の道………あの世から…見届けさせてもらう……」
「……さらばだ……!!」
ノエルは一思いにスタインの首を刎ね、一瞬のうちに絶命させた。