ぬか喜び
先の襲撃があってから、ウィンディア王国兵の間には警戒心と緊張感でピリピリとしていた。
巨人族は王国門前にズラリと鎮座し、その前にはドワーフ族、後ろにはエルフ族、といった布陣だ。
偵察隊として竜人族は地上、鳥人族は上空から警戒している。
いつもは犬猿の仲ではある両者だが、いつ襲ってくるやもしれないという警戒心と、先日の二の舞は踏むわけにはいかないというプライド、それと共通の敵が現れた事により、不思議と協力関係が生まれていた。
鳥人族が上空から偵察していた所へ、突如として地上から氷柱が打ち出され、何人かの鳥人族を捉えて串刺しにして落下させた。
「敵襲!!散開せよ!!」
ウィンディア王国防衛戦は何の前触れもなく切って落とされた。
地上にいた竜人族はスピードを活かして氷柱の出処へと向かう。
上空にいる鳥人族もその後、地上の森から放たれる氷柱を警戒しつつ、その場所をつぶさに竜人族へと伝える。
「ぞろぞろとやってきたわよ。」
「じゃ、あたしのかわい子ちゃんたちの出番ね。」
「ああ。解き放て。」
「俺もやるぜぇぇ!!ずぅっと退屈だったかんなぁ!!」
その後、モンスターの軍勢およそ300頭がその一団の背後から追い抜く形で現れ、地上から迫る竜人族と開戦した。
「話に聞いていた通りだ!!奴らは飼い慣らしされてるモンスター共だ!!てめぇら気ぃ抜くんじゃねぇぞ!!」
シリュウから檄が飛ぶ。
竜人族はスピードを活かしてモンスターを相手取る。
モンスター1匹に対して何人かの竜人族が複数で相手している。
そこに気を取られていると鳥人族からの攻撃が上空から迫ってくる。
普段犬猿の仲とは思えないほどに互いの長所が活かされた。
「チィッ!チキン女どもに遅れを取るな!!」
「トカゲ風情が!あたいらの足を引っ張んなヨ!!」
「あらぁ、あたしのかわい子ちゃんたちと渡り合うなんて、なかなかやるじゃなぁい。」
「カイロス、ふざけてないで本陣を出せ。」
「んもう、スタインはホントせっかちねぇ。」
「お前が呑気なだけだ。」
「ホントホント!で、そろそろ俺もいいか?」
「ああ。スヴェンだけでなくマイナも支援を。」
「ぃよっしゃー!!」
「それにしてもこの量、ウンザリするわね。」
300頭いたモンスター相手であったが、竜人族と鳥人族の前に戦いはやがてこちらが優勢になろうかとしていた。
が、その時であった。
『キシャァァァアアアアアアア!!!!』
大地が膨れ上がったかと思うと、そこから巨大なムカデが現れた。
「マ、マグナピードだと!!?」
「こんな奴までモ…!!」
マグナピードと呼ばれた体長20メートルの巨大なムカデが突如として大地から現れ、竜人族たちに襲いかかった。
何人かの竜人族は為す術なくマグナピードの顎に捕らえられ、悲鳴をあげる間もなく骨を砕かれ丸呑みにされていった。
「クソッ!!てめぇら、エサになりたくなきゃボサッとしてないで散りやがれ!!」
「シリュウ!!コイツにはあたいらの攻撃は通じないネ!!」
「メローネ!!さっさと援軍要請しやがれ!!他の鬱陶しいモンスター共でも駆逐していろ!!」
「あたいに命令するじゃないヨ!!援軍が来るまでせいぜいそいつのエサになってるがいいサ!!」
鳥人族の部隊長メローネは憎まれ口を叩きつつも援軍要請に何人かの鳥人族を派遣させた。
「てめぇら!!奴に集中だ!!奴の動きを止めるために足を抑えろ!!」
「「「了解っ!!」」」
シリュウの命令によりマグナピードの足を抑えにかかる。
素早いとはいえ巨体なため、何人かの竜人族は足に抱きつく形で捕らえた。
「まだだ!もっと抑えろ!!振り落とされんじゃねぇぞ!!」
やがてマグナピードの足に何人もの竜人族が群がる。
それによりマグナピードの動きはかなり制限され、緩慢となった。
好機と捉えたシリュウは大地を蹴って上空へ飛び、落下しながらマグナピードを捉える。
そしてそのままマグナピードの胴体に槍を突き刺した。
『キシャァァァアアアアアアア!!!!』
シリュウの槍は硬い外殻を完全に貫き通すことは叶わなかったが、マグナピードの胴体に突き刺さった。
突き刺されたことでマグナピードは暴れ回り、足を抑えていた竜人族は堪らずに投げ出された。
「まだだ!!てめぇら!!」
シリュウは突き刺した槍を離すことなくマグナピードの胴体に辛うじて掴まっていた。
シリュウを振りほどこうとマグナピードはさらに体を縦横無尽に体ごと振り回している。
1度散り散りになっていた竜人族は再度マグナピードの足を抑えにかかり、シリュウに刺された槍のダメージも相まって徐々にではあるもののそのスピードが緩くなる。
「野郎ども!!かかれ!!」
シリュウの合図で3人の竜人族が上空へ飛び、マグナピード目掛けて落下した。
シリュウがマグナピードから離れると同時に3人の槍がマグナピードの外殻を破り突き刺した。
4本の槍に突き刺されたマグナピードは体をくねらせ、やがて大地に平伏して絶命した。
「うぉぉぉぉ!!!!見たか襲撃者共ぉ!!!!この俺様たちに敵う者などいねぇ!!!!」
シリュウが勝鬨を上げた。
「やだわぁ。あたしの可愛いマグちゃんに寄って集って……でも、それだけじゃないわよぉ?」
やや離れたところからその戦いを観察していたカイロスは、徐に右手を空へと翳した。
「せっかくだからあたしの取っておきを見せてあ・げ・る♪マグちゃんの敵討ちよ!」
カイロスの後方から6つの紅く怪しげな目が光る。
その目の持ち主は木々の合間を縫うように俊足で移動し、シリュウたちのいる目の前へ現れた。
「な、な、なん…だ?こいつは…?」
蜘蛛の顔に目が6つ。首から下が鎧のような外殻を身に纏い、ぼってりと膨らんだ腹の先端から針が覗いている。
「うふふ♡あたしの自慢の取っておきよ♡一流の飼い主はねぇ、飼い慣らしした子たちを掛け合わせたりできちゃうのよん♪」
「掛け合わせただと…!?」
「うふふふふ♡あたしの可愛い合成獣、通称『ドクちゃん』、こいつらを蹴散らしてあげなさい♪」




