作戦会議室
ノックスたちはガンベルに連れられて作戦会議室へとやってきた。
事が急を要する事態のため、すぐさま各部隊長も呼び出された。
そこには傷が完治していないもののグルーガも列席していた。
とは言えグルーガは牙を抜かれた狼の如く大人しかったのだが。
「今回お前たちを緊急招集したのは、皆も分かっていると思うが、此度のモンスターの大群による襲撃の件だ!」
開口一番、ガンベルは皆を睨みつけながら言い放った。
「その危険性については、すでにそこにいるグルーガもよく知っているだろう。おそらく此度の襲撃は教会によるものだと判断した。」
「き、教会だと!?」
『教会』という言葉に皆に動揺が走った。
「モンスター共は『固有魔法』により飼い慣らしされていたと確信している。」
「ガンベル隊長ぉ、その前によぉ、1ついいか?」
トカゲのような者がやや横柄な言葉遣いでガンベルの言葉を遮った。
おそらくは話にあった竜人族だろう。
「…なんだ、シリュウ?」
「なんでここによぉ、魔族なんざがいるんだぁ?そのモンスター共は、こいつらを狙ってきてんじゃねぇのかよぉ?」
シリュウの言葉に皆の目線がノックスたちに向けられた。
が、その中で1人、グルーガだけは俯いている。
「グルーガぁ!てめぇの部隊がヘマこいたせいでなんで俺らまでとばっちり受けなきゃなんねぇんだぁ!?」
「今は作戦会議中だシリュウ!黙れ!!」
ガンベルが諌めるも場は収まる気配はなかった。
「ガンベル様、今回の件に関してはムカつくけどあたいらもそこのトカゲと意見はおんなじネ。というかこいつらがモンスター共をけしかけたんじゃないのかネ?」
鳥人族の女がシリュウに同調する。
というよりはほとんどの者がその意見に賛同していた。
「カッ!チキン女とおんなじってのは気に入らねぇけどよぉ。ただまぁ皆もおんなじ意見だろぉ?ってこたぁ、お前ら魔族が責任取れっつぅこった。」
「そうだ!お前らがやれ!!」
「おい貴様ら!!」
ガンベルが場を収めようと声を荒らげるも、一向に収集がつかなくなっていた。
「俺は別に構わんぞ?この国から出ていっても。モンスター共が俺たちを追ってここに来たというならな。
その代わり、俺たちが出ていったとてモンスターがここに来ないという補償はない。ここが襲撃されて後で泣きついてきても俺達には関係ないで済む話だ。」
ノックスが喋ると皆一斉に静かになったのだが、最後まで聞くとまた騒ぎ始めた。
「てめぇがモンスターをけしかけたんじゃねぇのか!?」
「魔族を引き入れちまった以上、ここは教会の奴らに狙われちまうネ!お前らがいようといまいとネ!!」
「そうだ!責任取ってお前らが戦え!!」
さらにヒートアップした場だったが、それまで大人しくしていたグルーガが机をバンッと叩いて立ち上がった。
「お前ら、いい加減にしろ!!……っ痛ぅ…!」
勢いよく立ち上がったもののまだ傷が癒えておらず痛みで顔を顰めた。
「なんだぁ?グルーガ?てめぇ、魔族の肩でも持つってのかぁ!?」
「肩を持つも何も無い!…というよりも、あのモンスター共はその男たちを追いかけてきたり、あるいはけしかけてるとは到底言い難い。」
「あぁん?なんだとグルーガ?てめぇ証拠でもあんのか!」
「逆に聞くぞ?貴様ならあの100匹はいたモンスター、どれほどの戦力で立ち向かう?」
「あぁ!?…フンッ!グルーガ、もしやあのモンスター共はそこの3人で倒したというわけじゃねぇだろうなぁ!?」
「……違う……」
「ハッ!!さすがに3人だけで倒したなんてハッタリは通用しねぇ!…そうだなぁ?俺らの部隊なら精々30いりゃあ大丈夫だろうよ?」
「違うのだシリュウ……あれは……あのモンスター共は……そこのノックスという男ただ1人で殲滅したのだ…」
「……は?」
「グルーガ、あんたいくらなんでもそりゃ大嘘だロ?」
「…………」
グルーガはその後押し黙ってしまった。
そんなグルーガの様子にこれはハッタリなどではないと誰もが確信した。
「グルーガの言うように、このノックス殿らはとてつもない力を有しておる。そんな者が、わざわざモンスターをけしかけたりなどするものか。そんな搦手など使わずとも、己の実力のみでこの王国を制圧するだろう。」
「「「「…………」」」」
「じ、じゃあアレだ。その男らを追いかけて教会がモンスター共に襲撃を…」
「……ハッキリ言うぞシリュウ。その男にケンカを売るような輩はバカとしか思えん。そいつはな、あのモンスター共を魔法で1箇所に集めて……押し潰したんだ………それに体を食われた俺たちに回復まで施した………普通ならどんな回復を施されても死ぬような傷なのに、だぞ……?
これほどの魔術は見たことねえ。
…おそらくこれから先もな…」
それっきりシリュウも押し黙り、作戦会議室には漸く静寂が戻った。