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幻影の塔

作者: Wkumo

 それなら■はそのことを忘れてしまったのだろうか。


 俺は積んだ、積んで積んで積んだ。

 おかしかった、塔は崩れていた。だから幻影の塔を積んだ、積んだ。

 高さは上がらない。幻影の塔も現実の塔と同じ、積めばすぐに崩れてしまう。素材は劣化し、触る側から崩れていく、それでも積んだ。

 ■■の■■を忘れるために積んだ、ただ積んだ。

 それだけがそこから逃れる手段だったから、そうだろうか。

 わからない。外から見ると本当に狂ってしまうから。だから俺は自分を「自分」の位置から、そして、俺の中の妄想の「世間」の位置からしか見ることができない。視野の狭い過集中か、マイナスに狂った過剰な責めかのどちらかしか。

 そんな自分を不幸と言うなら不幸なのだろう。好きでやっているわけでもないし。

 そもそもこんな塔を積んでいること自体が妙なのだ。なぜ積む? 何のために?

 逃れるために、それは先ほど言ったはず。

 だが世間はそれを許さないのだ。

 ■は?

 ■は何でも良いと言うだろう。そして、全てを忘却するだろう。

 それは遠い。遠く霞んで見えなくなった、そして俺の中では死んだことになった。

 本当は死んでいないことを知っている。どこか遠くで生きているのだと。しかしそれを認めてしまうと■■したくなってしまうから、■■? いや違う。俺はおそらくこの塔の、劣化した素材が劣化した「原因」のことを……忘れているそいつ、■のことが……理不尽だ、と。

 そう思っているのかも。

 ■は。

 本当に忘れたのだろうか。

 それとも■は俺のそれをお涙頂戴の「物語」にしてしまったのか。

 どうでもいい、とは言えなかった。

 まやかしの怒りを募らせたって何にもならない。そもそもそれが怒りなのかどうかさえ俺にはわからない。よくわからないのだ。何せ先例がない。本当にないわけではない、見つからないのだ。

 隠れているから。

 隠れて、みんな、社会の舞台から消えてゆく。

 塔を積んで。自己を破壊して。身体を壊して。

 よくわからないのだ。俺は、俺自身がこれからどうなるかさえわからない。

 どうでもいい、自分のことなんてどうでもいいのだ。

 本当にそうか?

 考えれば考えるほどわからなくなって、ほら、塔を積めば忘れられる。だから積まないと。劣化した素材で、塔を。

 ■は本当に忘れたのだろうか。

 うさぎが死んだことを。

 この塔は永遠に完成しないのだろうか。

 世界はずっと滅んだままなのだろうか。

 そんなことを考えながら、積んだ塔を見る。

 劣化した素材の砕ける音がした。

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