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teenagers  作者: 迎 カズ紀
8/12

 朝起きて時計を見たら七時だった。起きる時間だ。でも今日はまだ眠たい。あと数分だけうとうとしても学校には間に合う。そもそも、余裕をもって着くようにしているし。

 ベッドから降りて洗面台に向かう。蛇口をひねると勢いよく水が出た。バシャバシャと顔を洗い頭をしゃっきりさせる。

 昨日は何だかんだで忙しかったなあ。半年ではなく、正式に仲間としてここに住むことが決まっててんやわんやだったし、持ってこられなかった細かい日用品を買いに行ったり――。

「……ん?」

 待てよ。

「ここから学校まで何分かかるんだ……?」


 俺の家――正確には「元」家――は学校から近いほうだった。しかしよく考えるとここは俺の家よりも遠いはずだ。ついいつもの感覚で起きてしまったが、聞いておくべきだった。

学校は八時十五分までに着いておかなければならない。しかし俺は余裕をもって早く着いていたいタイプだ。特に理由はないが。

「……とりあえず聞こう」

 広間に行けば誰かいるはず。



「おはよう」

 下に降りると霧原さんがいた。他の人はいないみたいだ。

「おはようございます、あの……」

「……?」

 霧原さんは言いよどんだ俺を見て首を傾げた。それから納得したように「ああ」と言った。

「他の人、もう学校に行ったよ。別に悪魔関係じゃないから、だいじょうぶ。部活の朝練とか、自転車とか」

 自転車?

 不可解なワードに思わず眉をひそめてしまった。そんな俺を見て、霧原さんも眉をひそめた。

「……俺、悪魔に感情とられた。だから、しゃべるときも、変な感じになる。不快だったか?」

「え?」

 思わず驚いた声を上げてしまった。確かに霧原さんの表情筋はあまり動いていないように見える。さっきみたいに眉をひそめたり、口角をあげたりしているのは分かるんだけど――表情が変わったかと言われたら変わっていないと感じる。

「……不快とは思ってませんよ。むしろ俺のほうが失礼なこと言うかもしれないです」

 さっき俺が眉をひそめたのは「自転車」の意味が分からなかったからで。

 そのことを伝えると霧原さんはほんの少し眉を下げた。

「……よかった」

「これからよろしくお願いします、霧原さん」

「うん、よろしく叶くん」



 霧原さんと朝食を食べ、学校までのルートと時間、バスの時間を教えてもらった。ちなみに朝食は夕飯当番とは異なり各自で用意するらしく、共用の食パンをトーストした。

「俺はバスで行くけど、叶くんもそうする?」

「はい。今日はそうします」

 ――できるなら徒歩で通いたいけど今日は時間ないし。

 食器を洗って歯を磨き、制服に着替えた。いつもと同じように朝の準備をすると、少し不思議な気分になった。



 バスを降りて五分歩くと学校が見えた。白鳳学園。中等部から大学院までその気になればエスカレーター式の学園。

 大学と大学院は別の市にあるが、中等部と高等部は隣接している。しかし行き来することは基本的に禁止されている。悪影響を与えないため――らしいが、高校生になったからといってたいして変わらないと思うのだが。分からないが、とりあえず部活を合同でする場合くらいしか許可が下りない気がする。

 そのためか、中等部と高等部の正門の位置は結構離れている。一本道が終わると左右に分かれるT字路で、俺と霧原さんは別れた。


「……それにしても悪魔にとられたってどういうことだろう」

「はよーっす!」

「叶おはよー」

「!」

 思考の沼にはまりかけたところを引っ張り上げられる。この声は……。

「おはよう石井、平川」

 振り返ると石井いしい幸太郎こうたろう平川ひらかわ大紀たいきが手を振っていた。その後ろに山野やまの玲奈れいなもいる。

「叶くんおはよう。今日はバスだったんだね」

「山野もおはよう。ちょっとな、今日だけ」

 俺は口数も少ないし、あまり騒がないタイプだ。私立とはいえまだ騒ぎ盛りの生徒が大半を占める。だからクラスメイトと少し距離があり親しい友達は少ない。少なくとも、この三人とはまだ話せる。親友と言ってもいいのかな。俺はそのつもりでいる。

「えー、徒歩通の叶がめずらっしい。寝坊か?」

「そういうわけじゃないけど……」

「じゃあバスの気分だったってことか?」

「……そんなとこ」

「じゃあ私もバスに乗ればよかった……タイミング悪いなあもう」

「別に今日だけだからそんな気にすんなよ山野」

「えー、絶対遅刻だと思ったんだけどなー」

 三人の声がなんだかとても懐かしい感じがする。そうだな。俺の日常で聞こえる楽しい声はこいつらの――。

「おはよう。大夢」

 空気がしんとした。


 振り返るとゆずがいた。自転車を押している。

「おはよう、ゆず」

 また空気がぴんと張りついた。


「ちょっと叶!」

 石井に肩を組まれ強制的にかがまされる。そして平川も耳打ちをしてきた。

「お前、五組の藤堂と知り合いなのか?」

「あいつ、クラスで『怖い人』って認識なのに……叶……おまえ……」

「つーかお互い呼び捨てって……もしかして彼女?」

「勝手に話を進めるな」

 普通に「ああ、ゆずか……」と思って返事したけれど、そういえば俺とゆずに接点なんてなかった。俺に至っては存在すら認知してなかったし。二人の言いたいことは分かる、が――。

「ゆずは……その、何と言うか……」

 魔術関係の仲間だとは、流石に言えない。


「ちょっとあなたたち……」

 山野の冷たい声に我に返る。そうだ、今はまだ道の真ん中だ。男三人が肩を組んでひそひそ話をしている図は邪魔である。

「あれ、もしかして石井くんと平川くん?」

 ゆずの声に二人の肩がびくんと震える。

「うわー久しぶり。二年の時クラス一緒だったよね。覚えてる?」

 何故だか、ゆずは無理に明るく言っているように聞こえた。それを聞いてまた二人は震える。何があったんだよお前ら。

 恐怖の元凶であろうゆずはというと、山野の顔をじっと見ていた。対する山野は、ひるみはしないものの訳が分からず眉をひそめている。

「あなたは山野さんね? 美術部の」

「そうだけど……」

「あたし漫研部なんだけど、あなたの絵のファンなの! 美術室に飾っているあなたの風景画が大好きで。あなたのように描いてみたいなって思ってたの」

 今度は本当に明るく、楽しそうに言った。山野はさっきまでの雰囲気と違うことにポカンとしている。俺たちも呆気にとられた。

 ゆずはそんな俺たちのことを気にしていないようで、再び俺の名前を呼んだ。しかしそれと同時に予鈴が鳴る。ゆずは急いで自転車に乗った。駐輪場は確か昇降口から遠い場所にあったはず。

 去り際にゆずは一言だけ言った。

「ご飯ちゃんと食べた?」

 ……。

「そんだけかい」

 横で石井と平川が何か言っているが無視だ。



 学校生活はいつも通りだった。

 一応、「最初から家族がいない」ことになっているらしいが――特に周囲はそのことに触れない。まあ最初からだったら今更気にかける必要もないもんな、と一人納得する。

 昼食も弁当だったわけではないので、いつも通り学食や購買を利用する。

 ただ――昼休みに入ってすぐ、窓から見えた影に手招きされた。教室の外にゆずが立っていた。


 人通りが少ない廊下まで移動した。

「あのな……別に帰ったら話せるだろ」

 朝の石井たちの反応を見る限り、あまり一緒にいたら注目を浴びてしまうだろう。少し呆れながら言ったが、ゆずの返事ははっきりしていなかった。

「うん……ちょっとね……」

 ゆずは周りに人がいないか見渡した。そしてとても静かな声で確認する。

「みんなの反応どうだった? 疲れてない?」

 ああ――そのことか。

「別に……。てか何も変わってねーよ。本当に最初からいなかったとしても、別にそこまで変わんなかったかもな」

「本当に? ……そっか」

 表情が明るくなった。ゆずなりにどこか後ろめたかったのだろう。

 気にするな、と俺は言った。本当にゆずが気にすることではないのだから。


「そーいや、何で先に出たお前が後ろから来たんだ?」

「ああ、あたしチャリ通なんだけど丁度パンクしてて。知り合いが経営してる自転車屋さんが、朝取りに来ていいよって言ってくれたから取りに行ってたの。長話でつい学校のこと忘れてて遅くなっただけ」

「へー……そっか」

 霧原さんが言っていた「自転車」の意味がようやく分かってすっきりした。

「大夢はこれからバス通? 楽だもんね」

「いや、明日からは徒歩のつもり」

「? 徒歩で?」

 ぽかんとした顔を見て俺は理由を少し話した。

「俺、歩いたほうが面白いことが起きる気がするんだ。一応……小説家目指してるし……」


 俺は文学部に所属している。一応部長。

 文学部は本を読んで意見交換をしたり、自作小説を書いたり…。とにかく小説家志望の人にはうってつけの部だ。世間一般の文芸部との違いはイラストを一切描かないことくらいだけど。

 俺は本が好きだ。読んでいると落ち着く。好みはダークファンタジー。ちょっとグロいのもあるが、そんなことを気にせず読める、明るいところや泣けるところがあるのが好きだ。もちろん世界観やバトル要素、人間関係も。


「ふーん。ネタ探し的な感じか」

 まあそんなとこかな、と頷くとゆずは笑った。

「あたしも自転車だけど、ほんとはバスでもいいんだよね。あたしもあんたと同じ。漫研部だけどストーリー作るの苦手なのよね。だからネタ探し」

 ここで一息ついてつぶやくように言った。

「素敵な夢ね……」

 



 放課後、部活を終え下駄箱に行くと誰かが俺の靴箱の前にいた。

「やあ大夢くん」

 ……神城さんだった。


「ここ中等部ですよ。高等部の生徒は入ったらだめじゃないんですか?」

「俺はいいんだよ」

 ……何がいいんだろう。

「ところで要件だけど……さっそく仕事だよ」

「仕事?」

 まさか……。

 神城さんはニヤッと笑った。

「そう、悪魔退治だよ」



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