表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
teenagers  作者: 迎 カズ紀
5/12

最悪

 マフラー男はまるで「自分は君のすべてを知っているよ」とでも言いたげな目で俺を見る。

 隣のゆずを見ても前の帝人さんを見ても、少し嫌そうな顔をしているだけで追い払おうとしない。この人も関係者なんだろうけれど――。


「詰めてくれたお礼といっちゃなんだけど、聞きたいことがあれば何でも聞いていいよ。でも、一つだけね」

 そう言われると俺はすかさず疑問だったことを聞いた。

「なんでマフラーなんですか」


 空気がぴんと張りついた。ゆずも帝人さんも何も言わない。出方をうかがっているようだ。いや、関わりたくないって顔をしている気もする。

「くふ……あははっ」

 しばらくの静寂のあと、マフラー男は笑い出した。

「君、普通ここは名前を聞くとこでしょ……! ああウケる……」

 ウケる、とまで言われることか? 名前より服装が気になったんだよ。思わずむすっとした表情を浮かべてしまう。

 でもちゃんと笑いを収めてから質問に答えてくれた。

「俺は魔力が特殊でね……。年中コートとマフラーは必須なんだよ」

 そう言われて服装をよく見たらファーの付いたコートを着ていた。九月なのに。

「笑わせてくれたから教えてあげる。俺の名前は『かみきそら』だよ」


 かみきそら。どこかでこの人の名前を知っているような……。

 記憶を必死にたどったら思い出した。きっとあの手紙の人だ。


「そうだよ。手紙の差出人、神城かみき天空そら。よろしくね大夢くん」

 神城さんは人当たりのいい笑みを浮かべた。


「神城さん何しに来たんですか? アジトで待ってればよかったのに」

 鬱陶しい、という感情を隠さないでゆずが話しかけた。

「何ってぇゆずくん。この新人さんの様子を見にきたに決まってるで・しょ?」

「あいかわらず……」

 うざいね、と帝人さんが声に出さず言った。すかさず神城さんがひどいね、と笑う。読唇術が普通にできているこの空間がすごい。神城さんのうざさは共通だからか?

「ところで今の時間帯ってリョーちゃんもういるの?」

 リョーちゃん?

「いますよー。今日は部活ないですし、そもそも召集かけたの神城さんでしょ」

「だよねー。リョーちゃん真面目だから……俺のことを想って不真面目になってくれてもいいのに」

「まったく……大夢もいるんだしほどほどにしてくださいよ」

「それはリョーちゃん次第かなあ」

 心底迷惑そうなゆずとケラケラと楽しそうな神城さん。うん、さっぱり分からない。帝人さんの顔をうかがったら苦笑を浮かべて答えてくれた。

「皆藤亮介。メンバーの一人だよ。俺と神城と亮介は同級生なんだけど、この二人顔を合わせるとすぐ喧嘩するから手を焼いてるんだ」

「なるほど……。でもそんな相手を、ちゃん付けで呼ぶのって……」

「俺はリョーちゃんが昔の傷を思い出すようにこう呼んでるんだよ」

 傷……?

 何だろうと思って神城さんの顔を見ると目が合った。すかさずウインクされる。

「ま、嫌がらせだけどね」

 ――なんにしろ神城さんの性格が分かった。とにかくうざい!



 結構車に揺られている。足がつかないよう念のため遠回りをしている、と聞いたけど今どの辺なんだろう。そもそもアジトはどこにあるんだろう。

「あの、学校って今のまま通えますか?」

 学校には友人がいる。変えろと言われたら仕方がないけど、可能なら今のままでいたい。

「学校、どこだっけ」

「白鳳学園の中等部です」

 白鳳学園は中等部から大学院までその気になればエスカレーター式の学園だ。両親が教育熱心だったから通わされていたが、中等部までの学費は払ってくれているし帝人さんたちに迷惑はかけないだろう。

 すると神城さんはにやっと笑って言った。

「まっ、聞かなくても知ってたけど」

 じゃあ聞くな。そう睨むと通じたのか神城さんは笑った。


「俺はこの世の人のすべてを知ってるんだよ。その気になれば君をこの世から消せるほどの……ね」

 相手にしても無駄、と言うようにゆずが俺の肩を叩いた。そしてなんでもないかのようにとんでもないことを言った。

「あたしたちの組織のメンバー、全員白鳳学園よ」

 

 目の前が真っ暗になった。いや、そんな感覚になっただけだけども。

「本気で言ってるのか? うちの学校に魔術つかえるやつがそんなに……」

 ゆずは仕方がないでしょ、と言う風にまた肩を叩いた。

「学園の理事長が組織関係者だからいろいろと融通きくのよ」

 その発言を聞き、いくら有名私学としても高い学費を払ってまで入学させようとした理由が分かった。教育的な部分も残っていてほしいけど、あれか。コネ作りだったりするのか? 真相はもう知れないが。

「あたし三年五組だから。よろしく」

「……三年三組」

 それにしても藤堂ゆずの存在に二年と半年気付いていなかった自分が情けない。いくら友人が少ないとしても、ゆずみたいなやつがいたら気付きそうなのに。


 十五分ほど経った頃、ゆずに名前を呼ばれた。顔を上げると手が差し伸べられていた。

「ん」

「……?」

「敷地に入ったの。だから手を掴んで。そうじゃないと認識できないように呪文をかけてるの」

 目で「神城さんと手をつなぐのも気まずいでしょ」と訴えかけられたら素直に掴むしかない。

 車はだんだん徐行し、停車した。意を決して車から降りた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ