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teenagers  作者: 迎 カズ紀
11/12

心の内

 南雲が出て行ってすぐに入れ替わりで帝人さんんと皆藤さんが入ってきた。

三人で朝ご飯を作り、一緒に食べることにした。ちなみに俺と皆藤さんは和食派(白米と味噌汁、目玉焼きだけだが)で帝人さんは洋食派(食パンとスクランブルエッグ)らしい。一人だと作るのをためらう味噌汁も、二人分だと気が楽だった。共同生活の良い所なのだろう。

「いただきます」

 声を合わせて食べ始める。

 ……にしても、皆藤さんのことがよくわからない。初めて出会ったときは神城さんと罵り合いの真っ最中だったから、あまりいい印象はない。神城さんの態度から、彼が被害者っぽいけれど、口調がきつかったから少し怖い。

「そういや大夢くん、亮介とちゃんと話すのは初めてだよね」

「は、はい」

 少し恐る恐る言った。

 待っていたのは意外なものだった。

「よろしくな大夢くん! あっ、下の名前で呼んでもいいかな? おれのことも下の名前でいーぜ」

「えっ……亮介、さん?」

「ああ!」

 ……意外と気さくで、笑顔が似合ういい人だった。


 俺がびっくりしたのを見た帝人さんが小さく笑った。

「普段の亮介はこんな感じだから、普通に接してくれたらいいよ」

「ああ、自分でも神城相手の時だけ気性が荒くなる自覚はあるから……驚かせてしまってごめんな」

「いえいえ、とんでもない」

 話によると、亮介さんは神城さん以外の人とは普通らしい。

 何で神城さんが嫌いなのかは教えてくれなかったが。


 そのあと食器を洗い、身支度を整えてアジトを出た。今日は日直だから早めに行かなければいけない。今までよりも長く、そして新しい景色の中を歩く。新鮮だったがあまりゆっくりしていては遅刻してしまう。帰りはゆっくり行こう。

 学校では特に変わったことはなく普通だった。少なくとも、昼休みまでは。

 それは廊下から始まった。


「叶……先輩」

 振り返ると五十嵐さんがいた。

「えーと……何かな? 五十嵐……さん?」

「その、南雲くんのことでお話したい、のですが……」

 少し周りを警戒しながら言っている。最初は何故だか分らなかったが、すぐピンときた。

「場所……変えよっか?」

「はい、お願いします」


 施錠されていない屋上に上がる。危ないだろうに、ここは何故か施錠されていない。屋上で何か菜園しているわけでもないから不思議だ。何か意図があるのだろうか。

 いつもなら何人かいることが多いが、今日は誰もいない。

「それで、話って?」

 五十嵐さんはどう切り出そうか迷っているのか、手を少しの間いじっていた。それから決心したように両手を離してこちらを向いた。

「南雲くんはその、叶先輩のことを……ちょっと変な目で見てます」

「変な目……って?」

 確かににらんできた。そんなに接点はないし、恨まれる覚えはない。でもそれを、「変な目」と言い切っていいのだろうか。そう思い顔をうかがうと五十嵐さんはとても真剣な目をしていた。

「叶先輩を秀一くんと重ねて見ている目と、秀一くんがいなくなったのはすべて叶先輩のせいだって目で見てます」


「そうか……」

 今朝の事を思い出し、前者は納得できた。本人から「似ている」と言われたものの、体つきや性格から「そんなに似ていない」と言われ続けてきた俺たちだ。それでも、やはり兄弟だからふとした時の顔つきや態度は似ているのだろう。寝起きの顔も、おそらく合宿などで見慣れていたからあんな態度だったのだろうか。

 でも、後者のほうはよくわからない。いなくなってからまだ数日しか経っていないし、まだ混乱しているのだろうか。

 それに――失ったのは俺も同じだ。


「でも!」

 五十嵐さんは急に声を大きくした。自分の事のように悲痛な叫びのような声に、思わず喉が詰まってしまう。

「心の中では……わかってると思います。だから! その、わかってあげてください。たぶん南雲くんは……さびしいんです」

「さびしい……?」

 はい、と五十嵐さんが続けた。

「秀一くんは南雲くんの一番の友達だったけど……それ以上にライバルでした。サッカー部の仲間として。勉強は少し差がありましたが、がんばってました。運動も……。でも南雲くんは勝てない自分が嫌いみたいで。自分は劣っているからって、平然と言っていて」

 ――だからそんな目で見てたんだな。複雑な感情を含んでいるとは思っていたけど。


 少し納得している俺に対して、五十嵐さんは続けてとんでもないことを言った。

「でも……、叶先輩のこともライバルとして見てると思います、きっと」

「は?」

 何を? どこを?

 心の底からの「は?」に、五十嵐さんはこてんと首を傾げた。

「ゆず先輩との恋、じゃないんですか……?」



「………………えっ」

 ずいぶん間抜けな声を出してしまった。

 朝のって……もしかしてそれ?

「あっ……」

 五十嵐さんは気まずそうな声を出して手で口を押えた。

「もしかして……」

「ごめん、気づいてなかった……」

 だってわかるわけないだろう――なんて言葉はこの場合残酷すぎて言えないけど、でもわかったら凄すぎるだろう。

「す、すいません! 勝手に……そ、その……」

「いや、別に気にしなくていいから! なっ、泣かないで五十嵐さん!」

 泣き出した五十嵐さんに俺は動揺した。彼女なりに気にかけた結果こうなっただけだろうが、余計なことをしてしまったと感じてしまっているみたいだ。泣き出してしまった人への対処法なんてわからず、俺はおろおろすることしかできなかった。


 五分後。やっと五十嵐さんは落ち着いた。

「すみません……」

「いや、いーよ」

 俺も何もできなかったし。むしろ申し訳ない。

「そもそもなんで、そう思ったんだ?」

「……ゆず先輩が、他の人の時以上に叶先輩のこと気にかけていたのを気にしていたみたいで」

 呼吸を整えた五十嵐さんはゆっくりと話し始めた。

「たぶん……ゆず先輩は南雲くんの気持ちに気づいていないと思います。でも、ゆず先輩自身もあんまりそういったことに無頓着な感じですし……」

 それから言葉を区切って、俺の顔をうかがった。

「先輩は、ゆず先輩のことどう思ってるんですか……?」

 どうって、それは――。

「いや……、実は俺自身、好きなのかどうかわかってないし。ただ、今は恩人って感じかな……。助けてくれたの、あいつと帝人さんだし」

 知り合ったばかりの同級生。恩人。きっとこれから過ごすうちに、他のタグがつくのだろう。でも。

「今は、このままでいい……。仲良くなるとしても、仲間ってことで」

 そして一番気になっていることを聞いた。

「その……五十嵐さんって、南雲……くんのことよく見てるみたいだけど。その……好きなのか?」

「ち、違います! 南雲くんとは一緒に組むことが多いから自然と知ってしまうだけで、好きとかそういうのではなくて、その……!」

 彼女は顔をものすごく赤らめて大きな声を出した。さっきよりも、今日一番って声。


「私が好きなのは、か…」

「か?」

 彼女は真っ赤な顔のままあたりをきょろきょろと見まわして、さっきの話以上に周りを警戒した。

「ここだけ……ですよ? ……まあ、ゆず先輩と明良先輩は知ってるんですけど……、男の人は叶先輩が初めてになりますし……」

 そして小さな声で言った。

「皆藤亮介……先輩」

 ……えっ?

「そりゃあ、四つも上ですし、先輩には好きな人がいるみたいですから、叶わない恋ってことくらいわかってます」

 消え入りそうな声でぽつぽつと言葉をつなげていく。

「でも……好きなんです」

 でも目はしっかりと、力強かった。


 一層顔を赤くした五十嵐さんは逃げるようにして屋上から出た。

 一言、言い残して。


「が、がんばってください」




 仕事として、関係を持つ中で、恋をすることがあるのかもしれない。

 ただ、確実に言えるのは、俺とゆずが今はそんな関係になれるほど、親密ではないということだ。だから、南雲の方がリードしているのは正しい気もする。だからといってどうということはないはずなのに。

 なんでこんな気分なんだろう。別に今は、好きというものではないのに。



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