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teenagers  作者: 迎 カズ紀
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日常

 自分よりも弟に愛情のほとんどが向けられていると気づいたのはいつだっただろう。

 例えば深夜に地震が起きた時。

 例えば小学校の参観日。

 例えば些細なことを褒める時。

 そしてそれを、特に気に留めなくなったのはいつだっただろう。

 これが何か悪い夢で、自分に目いっぱいの愛情をささげてくれる家族がいたら——なんて空想したことは、不思議と一度もなかった。


「兄さん、テストの点数どうだったの?」

 リビングでテレビを見ていると一個下の弟、秀一しゅういちに話しかけられた。テスト。九月中旬に普通中間テストはない。思い当たるのは先週の実力テスト。でもそれは三年生だけのはず——。

「もしかして、またか?」

「うん。国数英だけだけどね。先生から問題を貰えたんだ」

 秀一はいろんな面で俺と張り合ってくる。それも、俺のレベルに合わせて。もう中三の範囲を理解しているのは純粋にすごいと思うけど——俺より良い点を取ってるのが腹立たしくて口にしたことはない。

「国数英の平均だと九十三だよ。理科と社会含めたら八十八だったけど」

「僕は九十四だったよ。理科と社会含めても変わらないと思うけど」

 にやにやしながら言うのがとてもうざい。


 弟の秀一は我が家自慢の弟だ。白鳳学園中等部二年。入部してからずっとサッカー部のレギュラーで、学年一位を守り続ける文武両道。常に周りに人がいるタイプ。顔はだいたい一緒だが……笑顔を絶やさない。俺の前以外では人を不快にさせる顔をしないんじゃないだろうか。少なくとも勝ち誇ったようなにやにや顔は。


 対する俺、かのう大夢たいむは秀一の下位互換、というのが我が家の認識らしい。白鳳学園中等部三年、文芸部の部長。友人関係は狭いタイプ。顔は……身長が高いわりには女顔だねとよく言われる。

 けれども、顔の件はともかく他はそこまで劣っていると思わない。

 言い訳じみていると言われるとそれまでだが、秀一の頭の良さは記憶力からきているんだと思う。二人一緒に初見のパズルや問題を解いても差はなかったから。むしろ俺のほうが正当率高かった気が。

 運動神経も、サッカー部レギュラーの秀一と、体育の授業と徒歩通学以外に運動してない文芸部の俺。ここは中等部マラソン大会でそこまでタイムに大差をつけられなかった俺を褒めるべきでは——なんてね。


 ただ父さんも母さんも秀一を優先している。

 ふとした時、大事にされているのはいつも秀一。

 今はもう、家族からの評価は気にしなくなっていた。


 ガタンと外で音が鳴った。そのあとすぐにバイクの音がしたから郵便配達だろう。秀一と目が合う。

「兄さん。郵便とってきてよ」

「お前がとってこいよ」

「僕、この前兄さんのお皿代わりに洗ってあげたのに」

「……わかったよ」

 弟に貸しを作ったと親に知られたらめんどくさい。重たい腰を上げ玄関へ向かった。

 ポストに行くとハガキと手紙が合計三通入っていた。

 差出人は親戚のおばさん、メガネ屋さん(父さんはメガネなのだ)、それと——。

 

 神城 天空

 

「誰だこれ……? かみしろてんくう、さん?」

 誰の知り合いだろう。叶様としか書かれておらず、しっかりと封をされていて判別できない。透かしてみても無駄だった。

「兄さん! 何勝手に見てるの!」

 振り返ると秀一が玄関に立っていた。見てるも何も、もう一度封筒を見ても送り主の名前くらいしかわからない。

「はあ? 封は開けてないし、第一お前がとってこいって……」

 面倒くさそうに目を向けると、怒気を孕んだ目でこちらを見ていた。いつになく真剣で、頭に血が上っているのがわかった。

 下靴を履かずスリッパのままズンズンとポストのある石畳の庭まで出てくる。

「もういい! 貸して! 僕が母さんに渡しておくから! ちゃんと兄さんが取ってきてくれたって言うからいいでしょ」

 何だよ……。そう思いつつ素直に渡すと、荒い手つきで封筒を奪い取り、秀一はそのまま部屋へ戻っていった。

「ったく、情緒不安定なのか? あいつ」

 それにしても「神城天空」って珍しい名前だな。



 夜になり母さんが帰ってきて、その三十分後くらいに父さんが帰ってくる。テスト結果はいつもリビングの机に置いておけば見てくれるから、直接とやかく言われることは少ない。

 自室に戻って本を読む。今読んでいるのはダークファンタジーの児童書。本当に児童書か? と疑問になるレベルだが、グロ描写はともかく人間関係の描写が好きだ。気を抜いたら一気に読み終えてしまうから、三分の一くらいで止めておこう。続きは寝る前だ。

 ご飯よ、と母さんの声が下の階から聞こえる。母さんは料理が上手い。夕飯の時間は毎日の楽しみだ。別に家族仲が悪いわけじゃないし、会話はそこそこある。俺の話メインってことはないけど。

 下に降りると、秀一が先に席についていた。いつもはゆっくり降りてくるのに珍しいな、と思ったけどテストの点数を自慢するなら先に降りていて当然だろう。得意げな顔をしているんだろうな、と顔をうかがったら、少し暗い顔をしていた。もしかしてまださっきのを怒っているのか?

「兄さん。早く座りなよ。いただきますできないじゃないか」

 ——どうやら思い過ごしらしい。はいはい、と言って座った。


「大夢。父さんと母さんと秀一は明日から三日間出掛けることになった。一人で留守番だからといって、羽目を外さないようにな」

 だいたいみんなが半分くらい食べたところで急に父さんが切り出してきた。

「……突然だな」

 本当に突然だ。明日から三日間って、それを前日に言うとかふざけているのかって感じ。急に決まったにしてもおかしい。

 だけど、秀一ならありえそうだし深く突っ込まない。

 父さんの顔をうかがうと普段通りだった。

「秀一が賞を取ってな。それで表彰式があるから行かなくてはならないんだ」

「ふうん。おめでとう秀一。それでどこ行くの?」

「韓国」

「キムチよろしく」

 この話はこれ以上進まなかったが、秀一は何の賞を取ったんだろうか。



 そんなわけで三日間俺は家に残ることになった。土、日、月の三日間。月曜はともかく、特に土日は予定もないし家にこもって留守番をしよう。

 この家ももうすぐしたら壊さないといけない。川を広げないといけないから、ここら辺一体は全て立ち退きになっている。そう考えると、最後の留守番になるのかもしれない。羽目を外すなと言われたが、父さんの書斎や個人の部屋に入らなければ大丈夫だろう。飲酒や喫煙はするつもりないし、友人を呼ぶにしても呼ぶ友人がいない。数少ない友人の内二人は今週練習試合で、もう一人は異性だ。

 そんなことを考えながらベッドに入った。本は明日読もう。

 秀一の部屋からかすかだが物音がする。まだ起きているのだろう。

 明日は早いのに、はやくねろ……よ……。




 気がついたら朝だった。今日は土曜だからいつもより遅い時間に起きてしまった。秀一たちはもう出かけているのだろう。見送ろうと思ったけど失敗だ。まあ、飛行機が墜落とかそうそうないだろうけど。

 ……それにしてもなんだか家が冷えている。まだ九月中旬。雨も降っていないし、寒くなる理由がない。それなのにどの部屋も冷凍庫のように冷えている。

 それに、変な空気だ。少し不可解な匂いがする。そう、血のような……。

 何だか気になってしまい朝食も食べずに外に出た。


「ここからする……」

 そこは家の近くの土手からだった。緑の草がいっぱい生えていて、小さい頃はよく秀一と遊んだっけ。ここの川を広げるから家を壊すのだ。

 

 でも緑の草はなかった。

 すべて真っ赤になっていた。川もだ。

 俺にも流れている血。父さんの、母さんの、秀一の……。

 何故かわからないがそんな気がした。小説の読みすぎだろうか。

 機械のように俺は固まり辺りを見渡した。機械のように。何も思わないように。

 土手に物が落ちているのを見つけた。

 父さんのメガネ、母さんがいつもつけている髪ゴム、そして……手。

 秀一と同じところにほくろがついている。秀一の……手だ。


「誰が……」



 その時目の前に「何か」が現れた。

 



 本当の悪夢、地獄が始まった。

 

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