009.エロゲ奪還作戦
――1705 エロゲ回収作戦を発動する。
幸いにも今の部室は俺ひとりだ。
今なら優里はもちろん、最大の敵である先生にも見つかることはない。
日曜日に学校に呼んでくれた優里に感謝www
エロゲの入ったダンボール箱を台車に積み終わると、俺は何食わぬ顔で廊下を歩く。
ガラガラと大きな音がするが、ここで音が出ないようにするよりも「台車で何かを運んでいる」と認識させるほうが人間心理としては安心するのだ。
運んでいるほうは気が気じゃないけどな。
……待てよ。
学校はいい。
コレもって街中歩くのか?
……。
……。
……。
うはっwwwwおkwwwwwwww
内藤シュミレーションで大丈夫って出たwww
街中余裕だぜ!
後ろめたいことなんてひとつもねぇ。
「あれ?」
ドッキーン!!!
俺に声をかけて来たのは今一番会いたくない奴だ。
「田代じゃないか。珍しいな」
龍造寺 慶子が近づいてくる。
こいつはじっちゃんの代から風紀委員という筋金入りの堅物だ。
30年物の鰹節のように何に浸したってやわらかくはならないこと請け合いだ。
エロゲ10年分を掛けてもいい。
ここでこいつに没収されなければだけどな。
「あぁ、龍造寺は部活か?」
俺は心を無にして答える。
龍造寺は手には竹刀を持っていた。
剣道部なのか。
「あぁ、これは護身用だ。最近物騒だからな」
っていうかおまえが物騒だよ。自重しろwww
「ん?」
まずい。
ダンボール箱に気が付いたようだ。
「それはなんだ?」
龍造寺が俺の後ろにあるダンボール箱を指差しながら言った。
なんだ、かんだと聞かれたら。
答えてあげるが世の情け。
とは言うものの答えたら、間違いなく自家製の血の海を見た後に、宝物まで奪われてしまうという鬼ヶ島の鬼みたいな状況になることは間違いない。
「同好会の研究資料が貯まったから整理して家に持ち帰るんだ」
ウソは言っていない。
追い込まれた状況でも嘘付かない俺はジェントルメン。
いや、むしろ『漢』と書いて男の中の男。
「そうか。手伝ってやろうか?」
台車使ってるの見えてるだろ?
おまえが手伝う余裕なんてどこにもないじゃないか。
「いや大丈夫だ。それよりも龍造寺は何をしているんだ?」
攻撃は正面から受け止めるだけじゃだめだ。
円の軌道を描いて相手に返さなければ。
俺は少林寺の極意を思い出していた。
漫画で読んだやつだけど。
「私は見回りだ。最近休み中に来て不純異性交遊を行うやからが多いからな」
ちょっwww それはロマンスwwwwwww
俺、毎週来るわwww
「そうか。大変だな。頑張れよ」
そう言って台車を押して帰ろうとすると、頬に何かが当たった。
恐る恐る横目で見てみると竹刀がいつの間にか袋から抜き放たれて俺の顔に触れるか触れないかぐらいのところにあった。
「ダンボールの中身、見せてくれるな」
ドスの効いた声だ。
俺、女の子に脅迫され易すぎwww
「なぜ?」
一応抵抗してみる。
「いや、言ってみただけだ。変なものが入っているんじゃないかと思い、鎌を掛けた。だが、それだけ堂々とした返答ならば中身を見る必要もないだろう」
龍造寺はそういうと竹刀をしまい、俺に一礼すると去って行った。