001.学年で三番目に美少女から声を掛けられる
「ちょっと!」
帰ろうと鞄を持ったときのことだった。
学年で3番目に美人と言われている三島優里に呼び止められた。
「なに? 掃除当番なら俺じゃないけど……」
俺はそれだけ言うと三島の横を通り抜けようと、
「通してくれる?」
したが、すばやく回り込まれた。
「話を聞きなさいよ」
これは中々。中ボスクラスと見た。
つまりは逃げられないってこと。
「手短に頼むよ。彼女を待たせてるんだ」
二次元のだけど。
「なっ! 彼女いるの?!」
三島はすっごく驚いたようだ。
大変失礼な奴だ。
「いいから話ってなんだよ」
「でも、彼女いるんだったら悪い……かな……?」
三島は何かを考えているようだ。
「あぁ、遠慮してくれ」
フリーズした三島を横目に俺はすり抜けようとする。
「あ、待て! きゃっ」
慌てて三島は俺の進路を塞ごうとしたものだから、ぶつかってしまった。
「いったぁい」
三島は案外軽く後ろに転んでしまった。
お尻を突くように倒れたので、ダメージはないようだが、俺の眺めが良くなっている。
「何するのよ~」
三島はスカートの間から覗くソレを隠そうともせずに俺を睨む。
「……周りに誰もいないからと言って、リアルでそのイベントはまずいだろ?」
俺は独り言のように呟く。
すると三島は俺の視線に気がついたのか顔を赤くして立ち上がった。
「見たでしょ?」
少しお怒りだが、そうなった原因は俺にはない。
「見たというよりは見せたんじゃないの?」
「見たんなら、これから私が言うことを断われないわね。慰謝料として当然よ」
三島の中で1つの問題が解決した。
「明日の土曜日にちょっと付き合いなさいよ」
「何に?」
いきなりの申し出。
美人からならうれしいはずだが、こんな調子で言われてもうれしさの欠片もない。
「田代ってパソコン詳しいでしょ?」
「人並みにね」
ついこの間、経済産業省から天才プログラマーなんて称号ももらった。
「パソコン買いに行くの。私、パソコン分からないでしょ? だからよ」
三島は言い放った。
そんだけの理由?
「ほか当たってよ」
「待ってよ。パンツ見たでしょ?」
確かに見た。
だが、それは限りなく三島の過失に近い不可抗力だから、俺が対価を支払う必要はどこにもない。
「だが、断わる」
俺は何とか中ボスから逃走を試みようと、右にフェイントをかけて左に抜いた。
するとどうだ。
思った以上に簡単に抜けた。
三島は俺の華麗なるフェイントにひっかかったのだ。
そのまま陸上部の笹島くんも斯くやというほどのダッシュで逃げた。
あ、ちなみに笹島くんは都大会で10位入賞の実力者だ。
「待てってば!」
三島も俺のフェイントで崩れた体制を整えなおすと、追いかけてきた。
俺の記憶が確かなら三島は100m走12秒のつわものだ。
ちなみに俺は16秒だ!
灰色の脳細胞は『あと4.87804878048秒後に追いつかれる』とはじき出した。
10mも差があるのに5秒でつかまるのか。
俺、遅すぎ。
「逃げても無駄なんだから」
三島の声がすぐ後ろに聞こえる。
だが、そんなことは想定内だ。
俺は急に曲がり階段を飛び降りる。
「秘儀! 全段飛ばし!!」
解説……いらないよね。
俺が踊り場に着地するのと当時に階段の上に三島が到着した。
普通、ここで何か言うんだろうが俺は賢い。
すぐに踊り場から下に飛んだ。
なんとか裏技を駆使して中ボスから逃げおおせた俺は1つの仕事を終えたような清々しさで家路に着く。