大天使ラファエル
「お待ちください魔王様。いえ、サタン様。」そう呼びとめる声がした。声は聞いたが、それを無視して足早に玄関へと向かう魔王。
「あ、ちょっと、お待ち下さい魔王様。」天使は自身の声が届いていないと思い、再度呼びかける。けれど、魔王は止まるどころか足を早める。二人が校舎玄関へと足を踏み入れようとしたとき、目の前に立ちふさがる影が5つ現れた。
「サタン様、失礼ですことよ」
「ええ。本当にですわ。大天使ラファエル様にお声をかけていただいているにも関わらずそれを無視するだなんて…」
「悪魔というのはここまで無礼で無作法なのかしら」
「これは許せません裁判ですわ天界裁判」
「それなー」
目の前に現れた集団はどうやら天使集団らしい。魔王はわけのわからんことをまくし立てられ放心している。
その様子をみかねたミレイは手を引く。
「魔王様、こちらへ。」
ミレイは回れ右して、天使集団を避ける。しかし、あっさりと回り込まれる。
「逃がしませんよ。」と天使集団のリーダーらしき人物が喋る。
「どいてもらえないかしら?」ミレイは冷たい目を向ける。
「悪魔風情が私に命令かしら?身の程を弁えなさい!」
ミレイとリーダーは睨み合い一触即発の空気が流れる。
「お止めなさい!!」と二人の間に割って入る声が一つ。
「ラファエル様……!申し訳ありません。」
リーダーは急かさず頭をさげる。他4名もそれに続く。
その様を見て、ラファエルは慌てて頭をあげるよう促す。そして、魔王達の方へと向き直る。
「この娘達が、ご迷惑をお掛けしたようで申し訳ありません。」今度はラファエルが深々と頭を下げる。
「いや、それはいいんだけど、早くそこを通してくれないかな?」
魔王は苦笑いを浮かべて言う。
「お時間は取らせませんので、どうか話だけでも聞いてくださりませんか?」と懇願される。
「…わかりました。で、要件とは?」魔王は渋々了承する。
「寛大なお言葉に感謝いたしますわ。単刀直入に申し上げますね。私とどうか決闘をしていただけないでしょうか?」
「…」魔王はやはりかと呆れ顔を浮かべる。
「聞こえませんでしたか?」
「いや、違くて…、なぜ?」
「なぜ、ですか…。それは、あなたが魔王様であらせられるからです。」ラファエルは真っ直ぐと魔王を見つめて答える。
「……それは困るよ。」魔王はそう答える。
「どうしてですか?」
「僕は勝負事はやらないと決めてるんだ。だから、その勝負は受けることができないよ。」
そう答えると、先ほどまで大人しくしていた、親衛隊が騒ぎだす。
「何ですか、それは!」
「本当にですわ!ラファエル様が下手に出て頼みこんでいるというのに!!からかっているのですか!?」
「本当は負けるのが怖いだけでしょ?」
「やはり、天界裁判ですわ!」
「それねー」
「あなた達…、わざと私を怒らせてるでしょう?」ラファエルは笑顔を崩さずに言う。
「申し訳ありません!少し、調子にのり過ぎました!!」4人は急かさず土下座をする。一人は軽く頭を下げるだけであった。
「べ、別にそこまでしていただかなくても…!」ラファエルは目の前の光景にあたふたする。基本的にラファエルという人物は頼りない。
「お見苦しいところをお見せしたことを重ねてお詫びします。それで、どうしてもダメですか?」ラファエルは困ったように訊く。
「うん。悪いけど……。」魔王はいささか申し訳なさそうに答え、そそくさと校舎の中へと入っていく。
「朝腹から騒々しい連中でしたね。」と後ろから付いてくるミレイが悪態をつく。
「…………。」
ミレイも朝腹から騒々しかっただろとつっこもうとしたが、そんな気力すら起こらなかった。