魔王
一つの時代は幕を閉じた。天使と悪魔が起こした戦争は主戦場を人間界と定めたために、人間は多大な被害を被ることとなった。特に、人間は天使と悪魔のどちらかの陣営に振り分けられ、天使と悪魔のために戦わされた。それが、同じ人間であろうと敵陣営の人間は殺さなければならない。天使様と悪魔様のために。その名残は戦争が終結した現代にまで根強く残る。人間は天使と悪魔の道具に成り下がってしまったのだ……。
バスローブに身を包んだ少女は音を立てないようにベッドの傍まで移動する。
「ふふふ、可愛らしい寝顔ですわぁ。」
そこにいたのは、スヤスヤと穏やかな寝息をたてる中性的な顔つきの少年であった。それは、一見女の子と見間違えるほどの顔つきである。
また、少年はダブルベッド程の大きなベッドを一人で占有していたのだが、少年の身には大きく、大分もて余している様子であった。
少女は満足そうに少年を眺めていたが、寝顔を拝むだけじゃ飽きたらず、今度は布団に潜りこもうとする。今は春先ではあるが、流石にバスローブ1枚でいるのは体に堪える。
「寒い、寒い。」
体を震わせながら、ゆっくりと音を立てないように慎重に潜入する。
しかし、少年はそこで異変に気付き勢いよく起きあがる。
「ん?……って、おい!」
少年は真横にいるバスローブの少女に驚く。
少女も急に起き上がった少年に驚いたが、半ば自棄になり強引に少年のマウントポジションをとる。
「魔王様、これは私の意思ではなく体が勝手に」
少女はそのまま魔王に抱きつく。
「ちょっ……」
魔王は寝起きで突然の出来事に呆気にとられる。
「魔王様ぁあぁいけません…この身、魔王様になんて不埒なことを。魔王様、もしかすとこの身の火照りを解消しなければこの呪いは解けぬかもしれません!さぁ、はやく抱き返してくださいませ!!」
少女はまくし立てせまる。
魔王は少女の勢いと柔らかい肌触りに流され、抱き返そうとするが、あと一歩のところで踏みとどまることができた。
「アンチ・グラビティ!」
魔王がそう唱えると少女の体が宙へと浮き上がる。
「えっ…!?ちょっ!」少女は自身の体がコントロールできないことに驚き、魔王にしがみついた。しかし、魔王はするりとその手を引き離す。みるみると少女の体は上へと昇っていき、天井に頭をぶつける。
「ミレイ、しばらくそこで反省すること。」
「そんなぁぁ魔王様ぁあ」
何か喚いていたが魔王は無視して部屋をあとにする。
魔王は優雅な朝食を終え、ミレイと共に学校へと向かうのであった。魔王達が通う学校とは、天使と悪魔が共同して暮らす学舎、その名をクロマティ学園と呼ぶ。その学園へ向かう道すがら、二人の距離は妙に遠い。
「魔王様ぁ、今朝の件なんですが…」ミレイは恐る恐る訊く。このミレイという少女は魔王のメイドを勤める人間である。
「別にもう怒ってないよ。ちゃんと、反省してくれたんだよね?」魔王は優しく問いかえす。
「も、勿論ですとも。ですから、もう少し距離を詰めても…」
「反省…してるの?」魔王は言葉を遮り再度問う。
「い、いえなんでもございません…」
魔王はため息をもらす。
「それと、変に目線を僕に合わせようとしなくていいから!」ミレイは先程から微妙にしゃがんで語りかけていた。
「あ、すみません。つい、無意識で。」ミレイはひょいと姿勢を正す。ミレイは決して身長が高いわけではない。むしろ魔王の身長が些か低いのである。些か。
「……謝らないで。少し、気になっただけだから…。」魔王は悲しい顔を一瞬見せ、歩を早める。
二人は校門前に予定より早く着いた。おそらく、魔王の歩くペースが早かったためであろう。
校門はアーチ状でそこから校舎玄関までの道が石レンガ造りとなっており、その中間地点には大きな噴水が佇んでいた。道の周りは手入れの整えられた人口芝が取り囲む。
そんな豪華絢爛な噴水の前で佇む女性が一人。魔王はよく目を凝らし、その女性を観察する。肩まで伸ばした美しい金色の髪に透き通った水色の瞳、顔つきは朗らかではあった。しかし、特出すべきとこはそこではなく、彼女のオーラであった。
……天使だ。
魔王はそう感じとると、噴水の少女から隠れるように校舎へと向かう。だが、
「お待ちください 魔王様。いえ、サタン様。」
この度は一読していただき感謝の念にたえません。
現在投稿させていただいた部分は、ほんの冒頭部分でしかございません。これからどんどん話しを展開させていく予定でございますので、どうか末永く暖かい目で見守って頂けると幸いにございます。
また、最後に重ねてお礼申し上げます。