1-9.天然グランプリ
「木の向こうオーク1、魔法で気をそらしたら一撃!」
意外と早かった。
まだ木が邪魔で何も見えない、さすが気配感知。
全員一歩一歩進む。
恐らく、俺がいるから慎重なのだ。
ちなみに敵の場所以外の指示は俺だけのためだ。
いた! 3メートル以上の緑色の巨体、ゴリラにも似ている。
でかいし強そうだが反応が遅い?
いやまだ動いていないだけか、声は聞かれたはずだが。
油断は禁物・・・
「そっち、後ろからゴブリン!くそ」
振り向くとダダダダと走って来る、こんな素早かったのか。
初仕事で仲間を傷つけるわけにはいかないよな。
「すまん、そっち頼む!」
ゼファが叫ぶ、オークは恐らく気を抜けばヤバいんだろう。
俺はダッシュで最後尾ヤリマに追いつき彼女を手で押しのける。
ムニュッとした感触?
剣を抜きゴブリンを斜めに斬りつける。
ゴブリンが上下2つになった、結構軽くだ。
オーク側を振り向くと小さな火球が顔に当った瞬間だった。
バンティは俺の動きを見てゼファのサポートに回ったようだ。
次の瞬間オークの首は既に無かった・・・。
ゼファどんだけ速いんだ。
「すまなかった、怪我は・・・大丈夫そうだな」
「説明不足だったわよね」
慌ててこっちへ走って来たゼファとバンティ。
胸を隠すように怒り顔のヤリマ。
ああ、さっき押しのけた時か。
改めて見るとでかい、この世界では俺初だ。 バンティは普通。
「ごめん押しのけて、そっちのほうが強いはずだよな」
「・・・いえ、こっちこそありがとう。助かったです」
いや、杖でゴブリンくらい殴り殺せそうだが。
そうでもないのか。
ん、なんだ?
一瞬嘔吐感かと思うと、体全体に何かが。
だが気持ち悪いどころか、全身軽くなった。
もしかしてこれが「女神の恩恵」?
アクシデントでオークには何もしていないが。
「あっちでまとめて解体するから持っていこう」
ゼファの言葉に、一瞬迷ったが例のアレを使うことにした。
「このリュックに入れてなんなら安全なとこでやろうよ」
「おい・・・そうか、魔道具持ちだったか・・・」
ウソの師匠話のおかげでゼファは納得してくれたよう。
「ん、待て。安全なとこって、血止めせず・・・。
オークまで入るのか?」
「狩りが終わってからでもいいけど、新鮮なまま・・・」
「それ以上言うな」
見ると、3人共額を手で覆い首を振っていた。
「安全なとこでもう一度話だ。色々と。
じゃあ収納頼む」
周囲に人も魔物も居ない平原だ。
「ここならじっくり話せるな。
打ち合わせの不備で危険な目に遭わせてすまん」
俺を手で制しながらゼファが続ける。
「確かになんとも無かったが、それはたまたまだ。
魔物が違えば死ぬことも有り得た。
コウの立場なら浮かれたり、説明すべきことが分からなくても仕方ない。
だが俺たち、いや俺はするべき説明を怠ってた」
立ち上がるゼファ。
「『気配感知』だが。
この辺りくらい魔素の薄い所では俺を中心に40メートル程度。
素速いゴブリンのいるここで、俺が移動していては感知が遅れる。
後方の警戒は特に必要だったのに怠っていた」
後は「魔素」が増えれば感知範囲は狭まるらしい。
バンティからは魔法の集中時間について。
魔力温存無視でぶっ放せば早いが、普通は多く撃てるよう極小の火球にする。
その集中に時間がかかる。
精度を上げたい時も同じ。
また、さっきはゴブリン狙いは誤爆しそうで無理だった。
ヤリマからは治癒魔法について。
重症なほど魔力と時間がかかる。
できるのは自己治癒できる範囲の傷の治りを劇的に早める事。
重症も治せるが、体の一部が失われた時は戻せない。
解毒も可能。
ホーリーボルトなど攻撃もでき、ゴースト系には治癒魔法自体が効く。
また必要なら補足すると言うが、そんな感じのようだ。
ヤリマがゼファに耳打ちされ、続けて話し出した。
「転生者の能力には面白い物があるってゼファがたまに話すのです。
内緒の繋がりがあるそうで」
「ただの話し相手だよ。
徒党を組んでも意味のない連中だが、たまの暇つぶしだ」
「たぶんモテたいからネタを仕入れてるんでしょうけど、無駄ですのに」
「いいから本題を言え」
「ストレージってのがあるんですって、転生者だけの特別なものです。
アイテムボックスとか、いんべんとー?とも言うんですって。
空間魔法と違って容量無限、時間停止、分解や場合によっては複製も」
「俺の判断で後でこっそり注意も考えたが、こいつらも知ってるからな」
ん、こっそり注意って?
つまり、インベントリ所持がバレバレだったってことか?
「待ってくれ、ギルドのラミアさんや解体職人にもバレてる?
ゴブリンとコボルト18匹、新鮮なまま納品してるんだ」
「一概には言えん。
師匠は色んなのを持ってたって話だろ、一応。
空間魔法での時間停止か遅延、詳しくは知らんがバンティも言ってたよな。
優秀な技師なら出来るって話だ。
要はストレージを知ってて、それと結び付けられるかって事だな。
小物18匹はギュウギュウに詰めればありうるが。
血の滴る死体やオーク丸ごとは無いな。
レイピア、いや棒術だったか、その一撃と切断では結構違うからな」
「バレているとしたら・・・?」
「想像だが、特に脅威を感じなければ放置だろう。
優秀なら、ギルドも得こそあれ損は無い。
注意するなら・・・悪どい商人とか私利私欲で動く奴らか。
まあ、強くなれば問題無しだがな!」
結局、あるものを使わない手はない。
使用法をわきまえてほどほどに、という事になった。
俺から確かめたい事がもうひとつあった。
「さっきオークには何も攻撃できてないよな」
「攻撃できたのはあたしの火球とゼファだけね」
「それが、一瞬吐き気がしたけど逆に体全体に何か走って軽くなった。
かなり強く」
沈黙の後、ゼファ、バンティ、ヤリマが同じことを言う。
初めてオークを倒した時と同じだ、と。
もちろん全員何らかの攻撃は当てていたそうだ。
死にものぐるいだったらしい。
「コウはそういう特殊能力は持ってないよな、聞くくらいだからな」
転生・転移者だからというのも変だ。
「今まで誰もちゃんと確かめなかっただけとかでしょうか。
一部の人は知ってても言わない可能性もあるかもですね。
わたしも相当攻撃忘れてますが、バンティと同じに魔力上がってますし」
「おまえもかっ」「あんたもっ」「おいっ」
あ、そうか・・・。
「弱い仲間を初めから強くするっていう例が無かったからでは?」
「確かに」「そうですね」「うんうん」
「だが、誰もかれもから恩恵が入ったら変なことになるな」
「パーティーだから?」
「ギルドにそんな力、あるわけないです」
ならば・・・
「つまり、繋がりのある仲間だから?」
結局曖昧だが、俺の仲間説で落ち着いた。
いや、みんな同じことを考えたに違いないけど。
その後は恩恵狙いの小細工なし、数をこなす事に集中。
最初より弱くなりつつあるが“恩恵酔い”はまだ感じた。
ゼファの剣と動きは明らかに速い。
「それ系」のスキル持ちで間違いなさそう。
加速とは違ってずっと継続はせず、瞬間瞬間で速くなる。
俺は無理せず、魔法攻撃に気を取られたオークの足を狙う。
昼の宿屋製のローストイノシシ弁当は冷めてもうまいと人気の品。
俺のだけはまだ温かかったが。
初日だし、今日のところは余裕を持たせて3時前くらいで狩り終了。
他から目立たない岩石地帯の窪地、俺は解体を見学しつつ見張り。
ゼファの気配感知でも周囲の魔物のみならず人の目も避ける。
6体のオークを並べての血抜きは壮観だが、見られるわけにはいかない。
これが一気に済むことで、大幅に時間短縮できた。
血抜き出来たものから処理開始と再収納。
常識的な大きさにオーク肉を切り出す。
ゴブリンは魔石のみ回収、荷物は可能な限り減らす。
俺は構わないが、ギルド職員の目や常識があるからな。
肉は野生動物などが食べてくれるらしい。
ここまでで、4時にならないくらいだ。
ここで暮せば、腹時計や日の傾きで大体の時間が分かるようだ。
曇っていると早めに帰るようで、雨なら普通は休む。
大概土日が雨になるというが、意味が分からん・・・。
農耕地域はもっと降るが元々そういう地域に農業が集中したからか。
やはり詳しくは不明だ。
ああ、時間は時計での目盛りだけ違うが、曜日や暦は同じそうだ。
「お楽しみの対練だが、6匹目で“恩恵酔い”はどうだった?」
「もう感じなかった、と思う」
「いきなり西洋式の剣でゴブリンを一刀両断にはビビったが・・・。
もうオークは卒業か?
いや、力を見て慎重にしないと命が懸かってるからな」
荷物になると思っていたらしく模擬刀というか木剣はまだ買ってない。
ギルドに納品が先だ。
ギルドの扉をくぐると初日の男がいたが、逃げるように出ていった。
例の「悪意」のヤツだ。
「あいつ、飽きずにいるんだな。
ラミアさん、そろそろどうにかできないのか」
ゼファも知っているよう。
「あっちも慣れたもので巧妙で。手が出せないんです、ごめんなさい」
「コウは大丈夫だったの?」
「触らぬ神に・・・魔道具で避けたから」
ことわざなんかも誤解の元だ、触らぬ悪党に、とでも言うべきかな。
能力バレの事は現実逃避で考えないようにし、無事納品終了。
改めてスタンダードな木剣を買い、割合安全な岩石エリアへ。
ゼファは自分の剣と同じ形状のオーダーメイド木剣だ。
あくまで“秘密訓練”という事になっている・・・。
「岩の起伏や障害物があるが、それを加味しての練習だ。
慣れるまで大変だが、気張ってくれよ」
お互い構える。
ゼファは動かない。
まず、俺がどの程度動けるのか見る必要があるからだろう。
剣なんて初めてだ。
正確には突きのようなもので魔物を倒したし、今日も剣で斬ったか。
仕方なく、それっぽく一気に近づき思い切り斜めに振り下ろす。
剣で受けられたがまだ様子を見ているようだ。
次々打つが全て受けられ、やがて体捌きとステップでの回避に。
ゼファは一気にバックステップ、俺も構え直す。
反撃にどれだけ耐えられるか。
来た!
思ったとおりスキルは使ってこない、勝負にならないからな。
体の動くまま、というか痛いのは嫌なので必死だ。
なんとかゼファを真似て受けたり避けたり。
絶妙に合わせてくれる、きついがいい訓練だ!
だんだん慣れてきて体も動く、いい感じ。
剣の立ち会いと言うより、反射神経ゲームの感覚だが。
もう少し速く動けれ・・・
ゼファが消え目の前、振り下ろされる剣をギリで受けた。
ちょ、まって。
こっちからも踏み込む、使いやがったな。
連続で打ち込む、が。
何の前触れも無く腹に痛みを感じ、俺は吹っ飛ばされていた。
「ゼファなにやってんの!」「ヒール!」
ゼファが額を手で覆いつつ言う。
「まったく『剣技』、シャレになんねえ。
俺だって痛いのはイヤだからな、すまん。
仕方なかったんだ・・・」
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