1-8.仲間
剣士ゼファと二人きりだ。
「そうか、こちらでは師匠以外の人には会った事が無いのか。
その師匠はもう・・・?」
想定外の質問だったので返事に詰まってしまった。
死んじゃったことにしていいのかな?
「すまん、悪いことを聞いたな・・・そうか」
あ、そう解釈するよな、間が空けば。
いいヤツみたいだな。
転生者は生まれた瞬間からこの世界にいる、つまりこの世界の人間である。
宇宙というのは、一般には存在しない概念だ。
普通、転生者ならそのくらいの常識はある。
このような言葉を使うのは、故意に何かを探る目的も有り得る。
ゼファは違和感を感じ、一旦二人きりにさせたのだろう。
しかし・・・
俺が登録早々に、弱い魔物とはいえ完璧に狩っていること。
これは異常であり嫌でも目立つのに。
また、普通ありえない「ジャージ」としか見えない服装。
腕時計にしか見えない何か。
転生者のくせに、不用心に『剣技』持ちだとバラしてしまった事。
これらは山奥?で師匠と暮らしていた故のとんでもない無知によるもの。
結局全て考えると、俺の無知による天然発言だと納得したようだ。
これ以上意味のない疑念は持たないことにしたらしい。
全員部屋に戻して話を続ける。
メンバー2人もラミアさんも「ゼファの事」は周知だと言う。
もちろんギルド職員は本人が明かすまでは守秘義務を守る。
「つまりだ、資質をもった新人が出ても多くは便利に利用されるだけだ。
たまにリーダーとなれる者が出ても、多くは仲間を庇って死んだり。
生き残った中の一つが俺たちだ」
ラミアさんに頼んで、目立つ新人を探していたらしい。
身勝手な冒険者に使い捨てられないように。
そこへ「破格」の活躍を見せたのが俺だった。
しかも『剣技』持ちだという。
本当にそうなら普通は公言などしない。
大概は少しでも強いパーティーに入りたいための嘘だ。
道場で習ったりある程度練習して繕うが、そのうちバレる。
言葉の件といい、“常識に欠ける”ための天然の行動。
それが解った時点でゼファは決断したようだ。
その他の細かいことは保留してくれた。
「魔道具がダメになったらしいが、『剣技』持ちだけで十分だ。
これを選ぶ奴はレア・・・稀だ」
「もしかして、あんたもあそこで?」
女神っぽいガイジンを思い起こす。
今やガイジンだらけだが。
「ああ。
それよりだ、『目指せ、竜の撃墜王』に入ってくれるか?
当分基礎練習や、恩恵上げになるが」
「恩恵上げ?」
「女神の恩恵で強くなるためだ、まあ・・・レベル上げみたいな」
彼の言葉を信じるなら、願ったり叶ったりだ。
ガジェットの力を失った今、強くなりつつ生き残るため。
そのレベル上げ、で強くなれるということなのか?
ラミアさんを見ると、すぐ答えが返った。
「堅実で信用出来る人たちだと保証します、名前はアレですが」
「じゃあ、俺なんかで良ければお願いします」
「よっしゃあ!
あ、こっちの赤いのが魔法士のバンティ、最初の音は濁音だから注意な。
あっちの青いのは治癒士のヤリマ、・・・ノーコメント」
色は衣装の事だ、職業はそのままで分かりやすい。
紹介に気になる部分が。
「今の紹介って、元の現代風?
しかも、最後の感じ・・・日本人?」
答えはイエスだった。
あの名前はまずいよな・・・。
彼らが俺に関して知っている情報は、天然で変わっているのと狩りの成果。
完璧に信用したわけではないはずだ。
ゼファは『気配感知』だけは所持を教えてくれた。
お互い認め合い、信用出来るようになれば他の事も分かるはず。
俺の特技、『剣技』はギルドの書類からは削除された。
知るのは一部の職員と『竜の撃墜王』メンバーだけになった。
「まずはなるべく「常識」ぽい事中心に教えてよ」
「いいとも、いいともー。
さっきはいきなりだったな、許せ」
どう見ても『ゲッツ』ぽいポーズだ。
いや、もっと昔のお下劣少年漫画・・・は無いか。
いいともは放置で。
『転生者』に会え、しかも仲間に出来た事が嬉しくて堪らないようだ。
既に3人とも多少酔っているよう。
歓迎パーティーというやつだ。
泊っている宿屋の食堂だ。
宴会用の豪華メニューだが、Cランクなら余裕か。
ここなら間違い無い、うまいものが食えそうだ。
俺は身内の昔の話を簡単にし、飲まないと酒には手を付けず。
ここでも似たような事があるのか、全員解ってくれた。
「常識に関してはヤリマをつけるから、存分に教わりなさい。
わたしはそれ以外教えてあげる、お姉さんとお呼び!」
「お、教えますけど・・・バンティ、それ以外ってなんですか」
バンティは酒に弱そうだ。
新人らしくお願いしておく。
「よ、よろしくおねがいします」
「だからそれ以外って?」
ちょっと気になったので小声でゼファに尋ねる、何気に大事だ。
「3人はどういう関係?」
酒を吹きそうになったゼファはなんとか耐え、答えた。
「メンバーで結構長いが、それ以外はちっとも少しも全く関係無い」
答えがしつこいが、気持ちは分かる、気がする。
事実だろう。
「だがこれから2対2だ。チャンスはある!」
確定だ。
勘違いというか、泡立つ飲み物を飲むとシャンパンのような物だった。
ふわっとした感覚になった、アルコール入りか。
バンティの仕業っぽいな。
気分は悪くはないが、こんなもので人生を駄目にはしたくない。
その後もどうでもいい話は続く。
他の冒険者の誰が格好いい、美人だという話に終始した。
意外と役立ったのはその彼らの魔法の話だ。
定番というか、ファイアアローなど魔法の矢が実用的らしい。
氷柱とか、魔法は呼びやすい名前になっている。
アイスシールド、つまり氷盾が有用でこれが速く正確だと凄いらしい。
普通の剣技や剣全般の話はほぼ出なかった。
部屋に戻り体を拭き肌着を着替える。
体拭きセット返却は扉横に置けばいいらしい。
さっきゼファに聞いたとおりだ。
思ったとおり同じ宿。
転生者であるゼファのアドバイスは的を射ていてマジ助かる。
横になって、エルのことを思い出すがどうしようもない。
明日からどうなるのか、遠足に行く前夜の気分でもある。
複雑だ。
~~~~~~~~~~~~
「朝だぞ―、起きてるか―」
ドアが叩かれる音と声で目が覚める。
残念ながら男の声、ゼファだ。
食堂に4人揃った、昨日より遅いくらいか。
サンドイッチを頼む、皆似たような軽食だ。
「先に話さないとな。
コウの待遇は決めてあるが、気に入らなければ遠慮なく言ってくれ。
まず稼ぎは4等分。」
「ちょっと待って」
「最後まで聞け、位置はバンティと同じ中堅または安全圏だ。
コウが危険な獲物は避ける、とりあえずは。
狩りは早めに切り上げ、技術向上の対練に付き合うことも条件だ」
「しかし、稼ぎ4等分は多すぎじゃ」
ゼファはニヤッと笑う。
「8分の一とか出来高とか、考えたらきりが無い。
俺たちがお前を強くする、お前はただ生き残ってずっとメンバーでいる。
単なる取引、先行投資なんだ」
「・・・分かった」
「今まで倒した魔物は?」
「昨日ラミアさんが言っただけ」
「うん、ほぼ最初・・・いや脱初心者レベルだな」
「魔道具が壊れてまた初心者スタートだから、忘れないでくれよ」
「コウの装備だが、色々おかしいな」
外で俺の装備を確認するが、それ以前の問題だ。
「自覚してる、魔道具の盾のおかげだったから」
「それ、防御の付いたローブなのかと思ってたよ」
バンティだ。
「剣は・・・」
同時に俺は『棒』を取り出してみる、ずっと忘れてた。
取れない。
「魔道具の棒が使えない、ほんとは伸びるんだけど」
「レイピアの突きと聞いてたが、棒だったか」
「突きも出来るよう、先が尖ってたからな」
武具屋で買ったのは・・・。
最低限だが、流れ弾(魔法?)やまれに乱入する雑魚で死なない装備。
扱える重さの剣と、和式っぽい全身鎧をジャージの上に着る。
ジャージの下はほぼ地肌なので仕方ないが、密着しないし暑くもない。
2ゴールド(40万円?)いかないが、手持ちでは足りない。
パーティーの積立、というか共同の金からだ。
メンバーになった以上異論は認めない、と全員に迫られた。
いいやつらだ。
「もう確認事項は無いよな」
「なんか起これば分かるっしょ」
ゼファは意外と細かいが、バンティは適当そうだ・・・。
ヤリマはおとなしい。
「対練が楽しみだが今は我慢だな」
「期待しないでくれ」
ゼファを先頭に、バンティと俺、ヤリマの順に狩場らしき方向へ。
さて、何が出るのか。
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