1-7.なんちゃって竜の撃墜王
納品がやっと終わり、昼食は宿へ戻る。
100メートル程の距離か。
確認していなかったが宿の名前は“美食亭”、食堂かよ。
どおりで食事重視なわけだ、貴族向け高級宿でもあるまいし。
冒険者とか肉体労働じゃなきゃ太りそう。
宿泊料金は安いと言うより、「普通」なわけだ。
食事代御500円と思っていたのがおそらく1000円くらい。
つまり、一泊2シルバー = 2000円でなく4000円程度という事。
料理に満足し、ちょっと休憩。
エルも俺の感覚を通じて味を楽しんでいるようだ・・・。
再び朝と同じ狩場へ、あえてゆっくり歩く。
(いまさらだけど。
適格者だからっていきなり攫ってごめんね・・・)
マジ今更だが・・・言うチャンスをうかがっていたに違いない。
いや、仕方なかったのは分かるし、逆に感謝すべきかもしれない。
こんな所に飛ばされなかったらもっと良かったんだがな。
(ありがとう・・・)
(午後からはまず、バリアの本格的な使い方からね)
大まかに言えば、
バリアより小さく体を縮める「丸まり」は良いアイデアではある。
だが実際には、バリアの方を切り替えながら戦うらしい。
切り替えはかなり大変だろうが、考えれば当然だ。
非常に困難な重力制御の訓練、その際の「丸まり」は画期的だそう。
バリアの扱いは生命の安全に直結する、最初にやるべきだな。
敵や魔物の攻撃や魔法を次々に防御!
異世界物のアニメを思い出しつつイメージする。
(・・・に切り替えます)
・・・・・・
何か言ったか?
答えが無い。
何か合成音が聞こえたような・・・。
そして、感じていた感情、存在感が消えた。
というより、居るべきヤツが居ない。
あるべきものが無い。
いきなりだ。
俺は足を止めた。
空虚感。
視界の裏側に存在するはずのものが消えてしまった。
加速も消失している?
メニュー画面が無い。
「メニュー」
口に出して言うが画面は目の前にも脳内にも現れない。
ふと気づいて周りを見回す、狩場に近づいているので誰も居ない。
まるでいきなり周囲が見えなくなったような。
いや目には見えているが、あるべき情報が消失した。
全てが。
この先、走っている方向に何があるのか全く分からない。
まずい。
慌てて町の方向を目指して戻る。
走る。
とんでもなく遅く感じる。
とにかく何も情報が無い。
魔物がどのくらい近いのかも分からない。
バリア設定画面も無いということは・・・バリアも無い?
恐らく、無いよな。
走った、こんなに走ったのは久し振りだ。
さっきまで走っていたのとはまるで違った。
加速の心地良い風を受けつつ、画面上の光点を目指すだけだったのだ。
そしてなにより、今は一人きりだ。
ずっと一緒だった意識の温もりが消えてしまっている。
喋らずとも、ずっといた大事な存在。
まだ、3日とちょっと一緒にいるだけなのに・・・。
もうここは野菜などの露天の出ている大通り。
はあはあと肩で息をする。
安心できる場所まで戻らずにはいられなかった。
どれだけ俺はガジェットに頼り切っていたのか。
もう分かった。
分かったから元に戻してくれ!
ガジェットを見ると、真っ白になっていた。
宿の部屋に入ろうとすると、掃除の女の子と入れ替わりだった。
素朴な感じ、15歳くらいか。
こんな時にと思うが、つい見てしまう。
「清掃終わりました、ごゆっくり」
整えられたばかりのベッドに倒れ込む。
何が起こっているのか。
確かめねば。
何を?
自分の中に残っている物はすぐ分かった。
『インベントリ』はある。
念の為、携帯食料の小さなパックを一つだけ取り出す。
「1食分」と印刷されている。
一目で食料だと分かるのはいいが、飢えた状態で一つで済むのか疑問だ。
慣れれば十分だと分かるが、小型化も考えものだ。
何を考えているんだっけか。
そうだ、『インベントリ』はあった。
つまり『剣技』もそのままのはず、きっと。
消えたのはエルとガジェットの力、技術というべきか。
回線の切断?
分からない。
誰にも相談出来ない。
いつの間にかウトウトしていた。
手に持った携帯食をついつい食べた。
なにせ一口だ。
2度目の満腹感とともに寝てしまっていた。
目覚め、真っ白なガジェットを見て現実が一気に戻ってきた。
窓からの日の傾きが夕方に近いことを教えてくれる。
そういえばギルドの受付の人、確かラミアさん、が言ってた。
安否確認のため、夕方には顔を見せろって。
「そうですか、魔道具が・・・」
もちろん最初からこんな話をするつもりは無かった。
だが、午前中は余裕で18匹もの魔物を狩っている。
同じ人間が獲物ゼロで落ち込んでいれば理由を聞かない訳がない。
今は奥の解体所手前の小部屋の一つにいる。
個人の能力や魔道具について、特別な理由でも無ければ追求は厳禁。
だが冒険者本人から相談するのなら例外だ。
プライバシーのための個室相談だ。
宇宙連邦の技術がここの人に理解できる筈がない。
だが待て。
『十分に発達した科学は、魔法と見分けがつかない』
偉いSF作家の人は言った。
魔法道具としての視点からヒント、糸口が見つかるかも。
この町で念の為買った紙とペンでメモを取りつつ話を聞く。
「では一つ一つ可能性を挙げますね。
とっくに調べたでしょうけど、まず最初の可能性は、魔力切れ」
なんてこった、ネットのような回線切れだけ考え他の可能性を忘れていた。
自分が馬鹿になっていたような。
例の「思考阻害」?
違う、これはパニックというやつだ。
そう分かった瞬間、多くの可能性が浮かぶ。
今までの思考停滞が嘘のように。
例えば(現代の)電話での詐欺。
俺は高校生だが、自分は大丈夫などと思わずに対応する。
大事そうな話は家族に伝え、こちらから相手にかけ直す。
番号は言われた通りではなく自分で調べて。
よく聞くのは、身内が危機だと聞いた時にパニックになるという話。
恐らく今の俺のように、思考がまったく働かなくなるのだ。
身を持って体験しないと分からない事はあるものだ。
まさに、俺はパニック状態だった。
「大丈夫ですか?」
「いえ、気が動転しててそんな簡単な事さえ忘れて・・・。
とにかく可能性を挙げてもらえますか。
分からない事は聞きますから」
「いきなり使用者の魔力が消えるのはほぼ有り得ませんね。
普通は媒体の特殊な魔石や、魔力貯蔵の仕組みの劣化です」
実際は電力か、いやエネルギーの種類さえ不明だな。
それが何らかの理由で無くなってしまったとしたら?
考えたくはないが。
故障の可能性、これならお手上げだが。
当然この世界の魔道具技師には無理だ。
自己修復機能だったか、あれは武器である棒に限った話なのか。
可能性に賭け、あることを聞いてみる。
「他とのつながりを持つ魔道具について知りません?」
「精霊を宿した魔道具は聞いたことが、都市伝説ですが」
「信じるかどうかは俺次第ってことですね・・・
何でも無いです」
ちょっと違う気がするが精霊ならぬニセ妖精がいるのは確かだ。
どうでもいいな。
「それら、というか彼らは一族や使用者との絆や誓約で動きます。
あっそうです!
危機や何か進化の手がかりを得た時、思索のため停止するそうですよ。
色々な本や言い伝えからの総合ですが」
まさかのピンポイントの可能性、「停止状態」?
いや、エネルギー喪失のほうが有り得るが。
どちらにしても今はどうしようもない。
もっとガジェットについてエルに聞いていれば。
そういえば最後に・・・『切り替えます』とか聞こえたな。
妄想に気を取られていなければ・・・。
スマホは充電できず、早々に諦め収納してある。
携帯やスマホの“省電力モード”のようなもの?
ありうる。
なら、やはりエネルギー切れか?
だがそれならますますどうしようもない。
狩りで今まで稼いだ恐らく20万円弱の貯蓄は有る。
それが尽きるまでに、まずこの地で死なずに稼げる程度にならなければ。
スキルと呼べばいいか、『剣技』と『インベントリ』を使って。
『帰還方法』探しはそれからだ。
「納得できました。
ラミアさんありがとうございます、気持ちが整理できました」
「いえ、落ち着かれたようで良かったです」
受付のある広間に戻ると、帰ってきた冒険者が少しずつ増えている。
もう日没が近いはず。
ラミアさんが声を張った。
「丁度よかったです! 撃墜王さんたち、この人です」
この人って、俺?
3人の冒険者が近づく。
剣士と魔法使い(?)2人の計3人。
剣士は長めで細い剣、金属と要所のガードを組み合わせた和洋折衷鎧。
ここではありふれた、形は和式、材質は金属のものだ。
あと2人はでかい杖にローブ、それぞれいかにも魔法使いだ。
3人とも20歳行かないか、金髪外人。
大事なことなので書くが、剣士だけ男だ。
「俺たちがCランクパーティー『目指せ、竜の撃墜王』だ、よろしく」
アニメのサブタイトルみたいな名前だ、だが・・・Cランク?
「Cランクのパーティーが何の用で?」
ラミアさんからのフォローが入る。
「彼らからのたっての希望で、メンバーを探してるんです」
「俺、昨日入った初心者なのに?」
「ああ、あんたみたいなヤツを捜してた」
後ろの2人もうんうんと頷く。
「その格好で1時間掛けずゴブ・・・」
「あっその話は奥で!」
ラミアさんだ、再び全員さっきの部屋へ戻る。
「今日の午前中は18匹でしたよ」
口をあんぐり開ける3人。
「待って。魔道具頼りだし、それは今動かないし」
「21匹全て急所一撃って、魔道具だけで出来ませんよ」
それが、ほぼガジェットのおかげなんだよなあ。
残念ながら『剣技』の効果は不明だ。
「特製なんです、宇宙の力が魔道具に・・・」
余計な事を言ったが、この程度の名目はありそうだ。
女性たちはポカンとしている。
剣士の男にいきなり胸ぐらを掴まれた。
「ゼファさん!」
ラミアさんには止められる筈もない。
部屋の隅に押し込まれ、顔が近づく。
野性的なイケメンだ、優しくして欲しい。
小声でゼファがつぶやく。
「宇宙って概念、それに言葉もこの世界には無いんだよ。
何が狙いだ?」
どういう事?
こいつも転生者・・・?
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