1-4.異世界転生・・・もどき
「ここはどこですか?」
キレイなおねえさんは顔を引き攣らせ、俺の質問を無視だ。
外人みたいだから言葉が通じない?
慌てて立ち上がり、机ごしにプロポーションがわかった。
金髪、白ドレスにはフリフリがついてて腰がキュッと締まっている。
左耳に二本指を当て、誰かと話している。
「異常事態、生体のまま来てます。
ここで殺し・・・分離させますか?」
天使というか女神っぽく見えるが・・・悪魔か?
言ってる事が物騒だ。
ん? ガジェットで最初に出した画面と似たのを出して見てる。
空中ノートPCみたいなやつ。
やはり宇宙連邦関連?
いや、半透明ではなく俺にも見える。
分からない、違う気もする。
「はい、フ タ ガ ワ コ ウ ですね、間違いなく」
金髪ねえちゃんが画面とこっちと見比べているみたいだ。
「分かりました、さっさと済ませます」
済ませる、って。何を!? 各設定チェック!
一瞬身構えたが・・・。
「女神です、コウさん、あなたは死にま…生きてますね。
と、とにかくこの世界へようこそ!」
引き攣りながらも笑顔になったおねえさん。
「こちらで生き抜くための能力を与えます。
強力なほど容量が多いので注意して選んでください」
大きな画面が右に現れ、能力名らしきものがずらりと並ぶ。
またVRかと疑ってしまう、あんな出来事の直後だし。
思考阻害は無い、ようだな。
疑心暗鬼・・・とにかくできるだけこの人から情報を。
「ここは何なのですか?
幻想、のようなもの?
天国でないのはわかってますが、帰りたいんです。
お願いします」
ちょっと矢継ぎ早に聞き過ぎた気もするが、とにかく戻りたい。
「異世界転生です。
小説、ラノベで特に日本では知られていると思いますが。
あなたは選ばれてこの世界で生まれ替わり・・・
ああ、ちょっと違うけどとにかく言われたとおりに!
そのうち分かりますから」
回答がひどいな。
というか、彼女も俺同様に混乱しているのでは?
「転生」と言っているがそのテンプレ通り進まないからか、恐らく。
夢でないのは確かなようだが、VRの可能性はまだ消えていない。
しかし、いたずらでもなければこんな事を仕掛ける意味は?
とりあえず流れに任せてみるしかないのか・・・。
で、確か「生き抜くための能力」、か。
今は仕方ない、言われた通りに。
容量がでかいと貰える数が減るという事か?
説明が少なすぎる。
詳しく尋ねようにも、マニュアルに無い来客におねえさんも壊れ気味だし。
もしかして生きたままだから意思疎通できない?
死んで、霊とか意識だけならよく分かるのかも。
確認しようにも無理だな。
画面に並ぶ「能力」はとにかく多い。
魔法系と物理系に分かれてはいるが、多すぎて見るのも疲れそう。
火属性とか魔法の種類のようなの、『魔力倍増』とかチートっぽいのもある。
物理系も数え切れない。
女神の言う【この世界】の実情も分からないのにヒントも無しに選べと。
ざっと見て、ガジェットと重複するのはレーダーと『気配感知』くらいか。
魔法でバリアも作れるかもしれないが。
『自己治癒』などは代謝制御でどうにかなるか?
・・・きりが無さ過ぎ!
そうだ、VR戦闘訓練で感じたのは攻撃力の決定的な不足。
守っていれば死なないとは思うが、逃げ回るだけになりかねない。
一応、ガジェットの弱点を補うように考えよう。
ゲームの設定を選ぶような変な感じだ。
『インベントリ』というのがあった。
まさかこれって、アイテム収納か。
思わず文字に触れると、何かがが流れ込んで来た。
詳細情報だ、これは!
親切設計・・・いや、腕のガジェットが反応している?
これは「買い」だ、選択を押す。
『剛力』や『剣技』、『剛体』などなど物理強化に関する物をなぞっていく。
ほぼ全てが何かに特化して、「面白人間」っぽいのも多い・・・。
『剣技』?
詳細情報は・・・複雑で解析不能、総合的なもののよう。
総合力・バランスに期待しこれを選んだ。
ゲームならこんなものだろうな、なんとかやっていけそうだ。
ゲームならな・・・。
「ぴったり容量いっぱいです、良いですか?」
やはり『インベントリ』は容量が多いのか。
仕方ない、うなずく。
「では、良い人生を。
・・・ちゃんと下に送れるかな」
あとの方は独り言か?
転生で送り出すセリフっぽかったな。
思い起こすと、トラック激突はこういうのに向いているかな?
狙った人間をピンポイントで送れそうだ。
確実だし、場所を選べば巻き添えも出ない。
運転手をどう手配して、後どうするのかは考えないでおこう。
階段から落ちるとかの方がいいかな?
キリが無い、やめておこう。
またガジェットが反応した?
一時体が取り残された気もしたが、また背中を押された感じで移動できた。
大丈夫のようだ。
~~~~~~~~~~~~
ここは・・・
周囲は一面の野っ原、というか草ぼうぼう。
木もあちこちにあって、普通に荒れ地といった感じか。
山も見えるが遠い、この辺りは僅かに起伏のある平地だ。
何気にここは街道のようだ。
でこぼこの土だが、草が無くてずっと真っ直ぐに伸びている。
レーダー画面が縮み、沢山の光点が見えた。
これで町までの道のりが分かるな。
「ただいまー、自律モードだよ」
出た、エル。
「霊じゃないから」
「本人は?」
「繋がらない。圏外か遮断されたかとかは不明ね。
でも安心して!
いっぱい遊んだから、思考パターンは完璧に再現できるよ」
完璧に再現って、不安しか無い。
何を遊んだんだろう・・・。
色々妄想してみる。
何故か下着姿で2人とも着替えている妄想が。
着替えるのは普通だよな。
「アーッ」
「妄想もできないとは、俺の人生は終わった」
「だからそれは任意で切れるから・・・」
「任意の意味がわからん」
一悶着あったがまあどうでもいい。
勝手に人の頭を覗くからだ。
聞くと、様々な過去データ等はしっかりあるようで安心した。
町へ軽く走りつつ、思い出して10%加速してみる。
「上げれば上げるほど体に負荷がかかるからね。
完全に慣れてから1%ずつ上げてね。
一気に上げ過ぎると体がバラバラになりかねないよ、安全装置はあるけど」
多分5分かからず町に着き、エルは姿を隠した。
門番は一人いたが、じろじろ見るだけだった。
というか、壁とか無いからどこからでも入れるのか・・・。
あ、恐らく税など徴収する係だ。
一本道だから馬車はここから入るしかない。
一応騎士っぽいな・・・西洋顔で中世風の装備だ。
町では言葉が分かるか試すまでもなく、店のやりとりが普通に理解できた。
言葉は自動変換されている?
そこは今はいいか。
周囲よりかなり立派な建物に近づく。
ビンゴ!
看板の変な文字が読める。
「冒険者ギルド」と書いてあるのがわかった。
というか、俺自身で“異世界転移”のテンプレしてるな。
なんでこの異世界に来る羽目になったのかは分かりようもないけど。
たとえ何であろうとVRであろうと、今は現実的に行くしかない。
中に入ると、まさに俺の想像通りのギルドだった。
左には受付と事務、奥にはもっとスペースがありそう。
右には地味だが食堂兼バー。
やるべき事も想像通りな事を祈る。
学校が終わって1時間は経つ、ガジェットの時計では4時半近い。
ちゃっちゃと進めないと一文無しで日が暮れる。
というか、ここでの時間とか全く不明だった。
まがりなりにも“異世界”なんだ。
「冒険者登録したいんですけど」
普通はこれでいいはず。
受付はスレンダー美人の金髪、20代かな。
巨乳設定では無いな。
(・・・)
ニセ妖精、じゃなくてエルか。
(・・・)
うるさいぞ、何も言ってないけど。
・・・早く済ませよう。
名前は自称で良く、後は得意分野のみの申請で済むようだ。
コウだけでなく、ファミリーネームのフタガワもつけておく。
同名が居そうだからで、貴族では無いと伝える。
先にこっちから言ってしまったが、思った通り貴族もいるようだ。
得意分野はパーティー募集などで役立つそうだ。
『剣技』持ちを伝えると疑わしい様子。
レア過ぎたか?
「その若さで・・・まあ嘘ならそのうちバレるでしょう。
剣技持ちは生き残れば大成するそうで。
期待せず見ています」
ギルドについての形式通りの説明を聞く。
業務依頼や獲物部位の換金、各地ギルドが連携し連絡や預金も扱う。
職員は信用で動く。
情報漏洩や着服は厳罰、死刑も有り得るそうだ。
職員の側の話ね。
もちろん登録冒険者は普通に法や慣習に従う。
例を挙げてもらうと『相手の能力を詮索しない』とからしい。
ここの法律は知らないが。
他に聞いておく事は・・・そうだ。
「大容量の鞄とか、こっちでも知られてますか?」
「魔法鞄持ちはレアですね。
持ってるとしても、上位ランカーや裕福な商人くらいでしょう」
「うちの田舎の師匠が魔法武器や魔法道具とか普通に使ってたんで。
こっちの事は何も知らないんです」
嘘も方便だ、ガジェット関係もこれでなんとかしよう。
魔法鞄は無いが『インベントリ』を知られないように利用できる。
「ではFランクからになります」
ギルド証はペラペラの紙、こちらの文字で名前とランクが書いてある。
「見習い扱いです、普通にやっていれば正式登録出来ますよ」
そうだ、大事な事を忘れてた。
「まだ狩りの時間はありますかね?」
俺の時計でもう4時35分、ヤバめだ。
「6時頃日没なのでもう多少は。
日が暮れたら混みますんで注意してくださいね。
あと、最初は薬草採りにしないと死にますよ!」
まだ間に合うか?
地図や資料が無いかと聞くと、食堂兼バーの奥の隅っこらしい。
行くと数冊の本にでかい穴が空いていて鎖で繋がっている、厳重だ。
目的は薬草の種類でなく、弱い魔物の生態や特徴、狩りだ。
バリアと加速があるので、最悪討伐は無理でも怪我は無いだろう。
その時は目立たぬよう『バリアで野宿』になるな。
食い物は携帯食料がある。
初級の獲物、コボルトやゴブリンの絵があった。
小説通りの異世界どおり。
なんか不思議、というか助かる。
それにしても、そもそもガジェットの時間は合っているのか。
ここが一日24時間のはずが無いよな。
(太陽の動きの解析で同じと判明したよ。
文字盤は映像だから、違えば自動修正されるの)
なんでそんな機能が?
あ、よく考えれば様々な星に対応するためか、当然だ。
(でも6時って言ってたのはこっちの時刻なんじゃ?)
いや、聞いたときに直感的に思ったんだが。
言葉が変換されると時刻とかも普通に変換されて伝わるんじゃないか。
壁掛けの区切りが分からず読めない時計があった。
行きがけに現在時刻を聞いて確認しよう。
「今は、4時45分ですよ」
ぴったり同じだ。
「ありがとうございます」
走って出ていく。
「慌てて怪我しないでくださいねー」
一旦路地を抜け、魔物のいるらしい方向、人のいない場所を目指す。
弱めの魔物・・・レーダーが広範囲になり、赤光点(弱)を示す。
弱いが3つも固まって・・・大丈夫かな。
この町中央からは山が近くなっている。
町を広げたら山に近づいたのかな。
バリアを確認しつつ、加速に切り替え走る。
初めての本当の狩り。
あれ、俺って宇宙連邦剣士じゃなかったっけ?
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