1-3.焼け野原
俺は小学生の頃から親戚全員に「頭がいい」と誉められていた。
実際授業を聞いているだけで全部覚えた。
中学ではさすがに教科の好き嫌いもあり、上の中くらいになった。
その時思っていたのは、「本気でやればいつでもできる」だった。
高校では・・・普通より少しマシ、くらいになった。
家で一切勉強しなくて、「いつでもできる」とずっと思っていた。
いつやるのかはわからない。
好きなこと以外、努力する気にならないから。
何かの用事で職員室に行った時教師に言われた。
「君の能力はこのくらい、なのに使ってるのはこのくらいだね」
まず大きな棒グラフを書いたが、その隣には数分の一の高さ。
クラスメートには逆の者もいるという、努力しているということだろう。
入学時の『適性』テストで分かるらしい・・・。
頑張れという励ましだったのだろうな。
日本で飛び級が無い事を逆恨みしても仕方ない。
打ち込めるような課題を見いだせなかったのは俺自身。
そういえば、最近ネットで聞いた話が印象に残った。
「天才秀才だと思っているヤツも、実は大人では既に普通人」だとか。
俺はそうではないと思っている。
まだまだ伸びていると自分で感じる、脳を使い切っていない。
増えているのは学校で使えない雑学ばかりだが。
中学の図書室で「メンサ」の本を読んだ。
高知能の人の集まるグループだ。
入会資格用の例題は全て制限時間半分で解けた。
試験を受けてみようかとも思ったが。
こんなモノを有難がって公言する、それこそ究極のバカではないか。
どうでもよくなってやめた。
なんでこんな事を考えていたんだろう。
とにかく頭が回らず、論理的思考ができない気がしていた。
いや、間違いなくそうだ。
だから、というかなぜか自分の思考能力を振り返っていた。
眼下に広がる景色を見れば・・・
そんな場合では無いのだが。
俺は何度か失敗しつつ、数キロ? はっきりしないが上空に昇っていた。
練習のようにゆっくり飛んでは狙撃される可能性もあると思った。
かなりの速度で上昇している。
地図で見たのと同じ形に海岸線が見える。
既にはるか遠くまで見渡す限り一面が焼け野原、ガレキになっている。
違和感。
降りよう。
あえて下方向に加速、速度をつける。
緩衝の安全機能で激突死は無いが、可能な限り地表近くでブレーキ。
なんとかゆっくり着地。
今の俺がいる状況、その“からくり”はおそらく解った。
理解できた途端、思考の霧がすべて晴れた。
だが、本当に確定できるまで行動はすべて慎重にしておこう。
俺のわからない何かがまだあるかも、念の為だ。
今までを整理する。
俺はエルさんのいた宇宙連邦地球支部から帰るところだった。
背中には携帯食料の詰まったリュック。
一応ほっぺをつねってみるが、夢ではない。
こんなのでは分からないか・・・ちょっと笑える。
赤光点はずっと動かない、明らかに不審。ありえない。
それが“鍵”だ。
だが思考阻害のようなもののせいで気づかなかったのだ。
ん? 2つの青い光点が近づいてくる。
感覚を澄ます・・・味方のよう。
全ては現実と同じに動いていて、それには沿って動くぺき。
ガジェットの存在、もとより宇宙連邦の存在、それ自体“この中”での物だ。
それらが事実である確信は無いはずだが・・・
ここまで起こったことは夢とは違う。
・・・ここで無意味な勘ぐりは止めよう。
なにか試されている、それは事実。
淡々とこなすべきだ。
こういう半強制の場なら、俺は頑張れる。
逆もまた真であるが・・・。
20代と40代位の男性2人、ゆっくり飛んできた。
スーツだ、上司と部下?
間違いなく“ガジェット”持ちで、俺より訓練している。
先輩たちだろう。
状況は2人とも分からないらしい。
ここの赤光点と仲間を目指したという。
40代の人とリンク登録、これでリンクした他全員と通話出来るそうだ。
「あと2人こっちに来る、それまで敵には近づかないほうがいいかな?」
彼が言い、もう1人と俺は頷く。
人数が集まってから動く、想定通りだ。
「君に付いているアバターはどこ?」
エルを忘れてた、いや、この状況なら出てこなくて正解だ・・・。
「すぐ近くの支部は跡形も無くなっていますから」
2人とも首をかしげる。が、それで答えは合ってるはず。
いちおう話は合わせたが。
「いや、彼らなら地下施設くらい作ってそうだと思ったんだ。
全滅か・・・」
納得したようだ。
まだ着かない2人との同じような交信を聞く。
5分程で着いたのは30代に見える男性2名。
スーツともうひとり、カジュアルな服装のガラの良くないおじさん。
作戦?というか敵への対応は続く。
俺は俯瞰して出来事全てを見ているが・・・。
「一番歳上の私がある程度近づき視覚を中継録画します。
そのあとどうするか決めましょう」
最初にリンクした男性が切り出した。
やはり訓練経験があるのか、なるほど。
まだまだ知らない機能もあるようだ。
中継映像が空中に映っている。
例のカニのような巨大な姿だ。
敵の武器は目の部分からのレーザー光、首が回転し背後にも来る。
レーザーだけならとりあえずは命の危険は無いということだ。
弱点の光点は正にその目のすぐ後ろ、首だ。
一旦反対方向に逃げても敵は彼を追いかけては来なかった。
彼は大回りで戻ったがやはり来ない。
やはり思った通り。
「レーザーがある限りこちらから攻撃は不可能」
4人はそんな感じで同意している。
バリアは一人で複数使えず、中から体を出して攻撃の必要がある。
レーザーバリア兼用の球状では攻撃出来ない。
相手に取り付くこともできないな。
もし体表ぴったりに使えば熱で体が焦げてしまう。
訓練して素早く切り替えれば可能だろうが、とりあえずあの手か。
「皆さんは危険の無いように敵を撹乱してください。
俺がバリアを縮め、丸まって一気に跳び弱点をやります」
全員少し考えていた。
「なるほど」
「意味は分かったが危険だぞ」
「やらせてください」
全員積極的に策や行動を示さず、俺の意思表示を待っている。
俺の予想は確定だ。
俺の意思決定を見ているのだ。
あれ?風景が消えた・・・?
~~~~~~~~~~~~
病院のような天井、近づき見下ろしてきた顔はエルさん。
「ごめんなさい、ずっと思考シンクロしてました。
まさか途中で気づくとは・・・初のケースです。
あと、心配させて本当にごめんなさい。
改めて説明すると、あれはすべて地球で言うVR、仮想現実体験です」
エルさんがヘルメットのようなものを外してくれ、起き上がる。
テレビモニター画面には、屋上かららしいさっきの見覚えのある町が。
現在日付と時刻もある。
あれ? 時間経過が変?
バタバタ足音がして扉が開き、4人の制服の男が。
「支部長なにしてたんですか! 支障はなかったですが・・・」
「双川さん帰ったんで安心してログアウトしちゃって」
勝手に色々騒いでいる5人に、俺はたまらず言う。
「訳がわかりません、順番に教えてください」
「今はあなたをここに連れてきて20分経っていません。
家でお会いして40分程ですが。
4倍強の時間を、VR内で凝縮して体験したわけです。
VR内の体験は全て実際の訓練として役立ちますから大丈夫」
俺は腕時計・・・いやガジェットに触った、確かに事実のようだ。
建物内の体験は確定事項だったようだ。
エルさんがうなずく。
というか、あんなSFじみたVRを体験したのがまだ半信半疑だ。
4倍強ということは・・・
ああ、実際には20分しか経ってないだけのことか。
「建物を出て以降は、更に踏み込んだ適正チエックでした。
起こった事や敵の生態などは、あくまでパニック演出や予想です。
実際起こりうる事とは全くの別物と思ってください。
あと、偽物と疑われないように自動で思考阻害があったはずです。
すみません」
あ、多分中で出てきた最年長の人だ。
「で、途中でやめてしまったわけですか・・・。
アバターが出ないとか聞いた時はたまげましたよ」
「また入ってもタイミングが分からないんで、結果待ちしてました。
コウさん、現実ではVR内と違いアバターは自立でも動きますからね。
再接続時に記憶は共有しますので起こったことも分かります。
詳しくは帰りにでもテレパシーで話しましょうね」
テレパシーで話すと言うが・・・。
ここにいるエルさんとアバターのエル、同じだよな。
もうわけがわからない。
しかし・・・支部長か・・・宇宙連邦大丈夫?
本気で心配してしまう。
またも電車賃を貰い、手製の地図。
食料入りリュックも。
一瞬またVRかと疑わないほうがおかしいよな。
はっきりとした思考で状況を見ているとその疑惑は解けたが。
制服の人は5人以外にも結構いた。
俺たちがいたのは地下だった・・・なるほど。
暗証扉を出て、外ではスーツのお姉さんが案内してくれる。
出入口は偽装され、普通の事務所に見えた。
前のは明らかにおかしかった、建物にエルさんしかいなかった。
というか、無理やり連れてきて、タクシー代くらい出せよな。
儲けが無くて貧乏なんだろうか?
(ごめんね、上に言っとくね)
エル?
(そうでーす)
・・・。
正面玄関を出て振り返ると有名企業のロゴが見えた。
まあ色々あるのか。
(次来る時は、受付に名前だけ言えば案内が来るからね)
駅まで遠いな。
電車内でブツブツ喋ってSNSに上げられないよう気をつけないと。
声出してると、どう見ても独り言だからな。
「キャー!」
遠くの悲鳴に振り返った時には、既に目の前に大型トラックが迫っていた。
正確には真後ろ、避けられない。
だが・・・、今日の出来事が夢で無けれは大丈夫だ、死にはしない。
メニューに「バリア起動」の文字。
周囲、前方には誰もいなかったはず。
目撃されたら何と思われるか・・・。
あ、運転手は・・・俺が今気にする事じゃないな。
時間がゆっくりになっている、まるで走馬灯だ・・・・・・
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ぐぐっと背中を押される感覚。
神々しく光る空間に来ていた。
またVR?
こんなに次々と・・・
何かの受付?
とてもキレイな金髪おねえさんが座っている。
羽は無いけど白いドレスが天使のようだ。
しかし、表情がとてもへんだ。
睨まれてる?
■「読みました」の一言でいいのでツイッター感覚で感想くださいw
とりあえず ブックマーク してもらえれば無上の喜びです!
いくつでもいいので★よろしく
↓ ↓ ↓




