2-5.脱力
食後はいつもどおり、俺の部屋に集まったが。
話をまとめようにも、皆話すことが思いつかないようだ。
今の俺達は、流れに任せるしか無いということなのだろう。
ガジェットの通信疑惑についてもまだどうこう言える段階じゃない。
俺からは、一つだけ夕方の話を補足しておく。
『管理者は世界をゲームサーバーのように』・・・、と表現したくだりだ。
“ゲーム管理者”の例えより、管理者の力が限定的、だと言う方がいいか。
「わざわざSランクに世界の動きを調べさせ、危機の期限もすぐ分からなかった。
それなのに無敵の魔法使いになってドラゴンと暮らしてみたり。
自分に分かる範囲なら神のように何でもできるが、分かることは限定的で人任せ。
神というより、世界の変更権限に限っての担当者だと思ってるんだ」
こんな感じで、ゼファにはゲーム管理者に例える意味が分かっただろうか。
だからどう、という訳ではない。
管理者が世界を維持や改良するための役割分担の一つ、ということだけだ。
俺の言う“ゲーム管理者”にはもっと深い意味がある。
今日はその話だけでお開き、めいめいの部屋でお休みだ。
目が覚めた。
朝だ、明るい陽が・・・。
ん、まただ。
ユイが抱きついていた。
俺が体を起こすとやはり目を覚ます。
毎日こうするつもりか・・・
魂胆とかそういうのは無いらしい、直接伝わってきて分かる。
「よこにねるだけ・・・だめ?」
不思議なものだ。
なぜかもう、添い寝程度で何も感じない。
中学生くらいの子と結婚なんて、というのは今でも同じだが。
こんなの以前は、天地がひっくり返るくらい想像外だったのにな・・・。
「まあ、仕方ないか。それだけなら・・・」
ユイの“寂しさを埋めたい”というのが痛いほど伝わってくる。
だからついついあまやかしてしまう。
しかし、これではベッドが余るわけで。
1台は引き上げてもらって・・・
いやいやいやいや、とんでもない。
女2人組にどう思われ、色々言われるやら、めんどくさすぎる。
ベッドはそのまま、ユイには寝る前に必ず「寝た痕跡」作りさせるようにする。
最初は不思議そうにしていたユイだが、自然と察してくれたよう。
意思疎通のテレパシー、便利だ。
エルはいるはずだが、今は全く気配がない。
ああ、そういうモードなのか。
「そういう時」覗き見るのはまずいからな。
あるいは我慢して黙っているのかも?
無いか。
後で聞くと「まだ寝てた」らしかった。
朝食を済ませ、俺たちがギルドに着くととざわめきが起こった。
声は上がったようだが近づいては来ず、皆遠巻きに見ている。
ここで俺たちに気安く声を掛けるのって、『竜騎士』のチル達くらいだし。
彼らは昼にならないと来ないし。
「おめでとうございます」
受付越し、ラミアさんだ。
「今朝突然知らせが来たんで驚いたんですよ!」
手で示す掲示板の最上段に俺たちについて、大きな紙に大文字で貼り出してある。
内容は簡潔だ。
・4名の名前と『特例』Aランク昇進
・パーティー名 “蒼きドラゴン”
・エルダー変異(デーモン)スパイターとドラゴンゾンビの討伐
報奨金については何もなし。
討伐報酬さえ書かれていない、言外に秘密扱いらしい。
「昨日はシェーン審議官といつものように会ってたそうですが。
もう決まってたんですね、驚いてないようですし」
「もしラミアさんがいれば一声掛けてたんですけどね」
「ありがとうございます」
お礼を言われるような事は言っていないが、何となく意味は分かる。
まだ細かい事情までは話せないが、大事な人の一人だ。
今日もやはりオーガーを狩る。
シェーンさんからの連絡は無い。
ガジェットのリンク、というか連絡先登録はもちろん済ませた。
余程のことが無ければこれを使うことは無いだろうが。
昨日言われたこと以外はいつもどおり、何も変わっていない。
「オーガーって単調だよな」
俺のレベルが上がりすぎたせいか、ついつい口に出てしまう。
意外にもゼファも同じことを考えていたようだった。
「確かにな、これじゃ恩恵は入っても技量向上は見込めないな。
他の3人もそんな感じじゃないか?」
ああ、そういえば。
何となくは見ていたが魔法士2人は以前と同じ中級魔法しか使わない。
ユイも、あっけなさすぎてつまらなそうだ。
ほぼ、ひっぱたくだけだからな・・・。
俺たち剣士は対練できるからいいが、他3人は?
魔法士2人に聞くと、例の威力を抑える練習がしたいらしい。
ユイは・・・イメトレみたいなことをやりたいと言う。
昔からやってるらしいが、パーティーでの戦闘を想定するのは初めてだそう。
意外だが、ドラゴンだけあって結構戦闘マニアっぽい。
単調なオーガーに早くも飽きてたらしい・・・。
『瞑想戦』というそうだが、仮想敵も凄そうだ・・・ドラゴンかも?
「うん、よかった。そのほうがいい」
軽く頭を下げるユイ。
帰って聞いたのだが、頭を下げるのは日本式とかでは無いようだ。
ドラゴンにとっては“服従”の意味を持つ、頭を下げる仕草だそう・・・。
午前中に狩ったのは5匹のみ。
一般的には十分過ぎるのかもしれないが、レーダーであっという間だ。
『竜騎士』チル達のような生活も余裕だな、絶対しないが。
レーダーで魔物の出ない「緩衝地帯」を見つける。
かなり戻っての、オークエリアの端っこだ。
傾斜も少なく木も生えていない、見通しが良く絶好の場所だな。
ああ、こういう場所は魔物も避けるのだろうな。
何か来れば俺が声を掛けるが、邪魔が入らないに越したことはない。
スローモーションの様に木剣を振る。
そういう訓練だ。
ゼファの動きはなめらか、全身一体だ。
俺に見せるためにあえて、ほぼ型どおりやってくれている。
俺はといえば・・・『螺旋の動き』は意識しているものの、おそらくばらばら。
手足の動きが揃ってないのが自分で分かる。
次は普通の速さに近づけてみる。
昨日まで2段階、2つ目は全力にしていたが、今日は通常の速度をはさむ。
常人並み程度だが、レベルの上がった俺たちにはまだまだ余裕ありありだ。
俺の動き・・・やっぱりダメだ。
『剣技』があるといっても、何も運動していなった俺には剣という運動がムズい。
オーガーなどとやっている時は、傍から見ればまるで瞬間移動しているそうだが。
今のようにはっきり全身を意識するとまるで出来ていない。
“運動神経”という言葉をよく使う。
誤解に満ちた言葉だ、正確に当てはまるものは無いと思う。
“神経”などといえば脳の働きだが、これは小脳の役目だろう。
全ての運動の基礎となるのは“調整力”だ。
例えばキャッチボールするにしても、何度かやれば動き方のコツが掴める。
全ての動き、運動において上手さはこの動き、つまり“調整力”による。
もちろん動きの連携をつかさどるのは小脳だが、個人の性能差はわずかだ。
俺の知る限りだが、間違ってはいないはず。
まず「体で覚える」それに尽きる、そこから個人差が生まれる。
あとは、筋力も大きな問題だ。
俺は『剣技』や『レベル』の恩恵を受けていても、慣れない動きは普通に難しい。
ゼファはスポーツ万能だったらしいが、比べて俺は・・・。
ゆっくり目の対練、自分ながらはっきり差が分かってしまい情けなく感じる。
「うお」
ゼファだ。
バランスを崩し、俺の右斜め前につんのめっている。
「コウ、今何をした?」
「何をって・・・見てたんだよな」
「いや、いつもどおりなのにこう、グイッと引っ張られたような」
「考え事をしてただけだが・・・」
「コウ、もう一度やってみてくれ。
そうだな、また同じに『考え事』だ!」
吹き出しそうになったが・・・確かに再現するにはそれが一番だろうな。
「あ、ああ。変な感じだが、やってみる」
ええと・・・。
今俺が剣での調整力を鍛えるとしたら・・・うん、反復練習だな。
こんなふうに何も考えなくても・・・
「今のだ!」
一発成功か・・・ゼファ本人が言ってるからにはそうなのだろう。
『剣技』のサポートがあったのかもしれない。
「コウ、どうやった?」
「色々考えてると、剣は動かしてても注意がお留守になってた。
待って、要するに・・・力を入れてなかっただけ、・・・だな」
余りに感覚的な説明に分かってもらえるか不安だったが。
「今度は俺にやらせてみてくれ。
できるまで続けていいか?」
「分かった」
ゼファへ軽く打ち込む。
10回目程で吸い付けられるように木剣が下へ引っ張られた。
続けて数回同じ事が起きるが、最後は以前に戻った。
「やっとコツが分かったよ。
合気道で力を抜くとか聞いたことはあるが、こんなに違うとはな・・・。
最後のはわざと力を入れてみた」
そのままお互い真似、繰り返す。
全力モードは後回しだ。
出来ないことが出来るのが面白くて仕方がない。
最初に俺がなんとなくできてしまったのも、『剣技』や『レベル』のせいだろう。
素は明らかに下手くそなのにな・・・。
魔法の2人も明らかに上達したようで、人一人分の大きさの竜巻や火炎を作っている。
ユイはじっと座っているが、激しい動きのイメージがなんとなく見える。
今のうちにできることを。
俺の動きがまともになるのが当面の目標だな。
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