1-20.説明会議
まずは安否報告も兼ねてギルドへ向かう。
昨日時点で俺はシェーン審議官からのお墨付き。重要人物だ。
そして今日は更に・・・。
まだ仲間以外、ドラゴンゾンビ討伐は知らないが。
ゼファ、ヤリマ、バンティがいなけれは野垂れ死んだかもしれない俺が。
地球へ戻るために、という言い訳を自分自身にしつつ仲間に入れたユイ。
利用する代わり・・・居場所は作ってやろう。
居場所か。
会って数時間であり何も知らないが、好きになったのは本当だ。
結婚相手となるとまだ分からないが。
もし可能なら・・・可能ならだが、一緒に連れて帰ってもいい。
混沌となるはずの地球、ドラゴンなんて関係無いはず。
やっぱり俺にもユイは・・・。
そういえば、「前の世界」を地球って呼んでしまっている。
ホログラムで宇宙全体を見てから、俺達共通でそうなったな。
「なあ、俺ってそんなに前と変わって見えたか?」
道すがら、帰って来た時の皆の反応を思い出す。
「ああ、外見は変わらないのに別人にしか思えなかったよ」
「凄く凛々しくて、とてもあのコウとは思えなかったです」
「うん前と全然違ってかっこよかった! 体の芯にじんときちゃった」
ヤリマとバンティの言い方が引っ掛かるが・・・。
あれだけレベルアップすればそんなに変わるって事か。
ゼファの表現では、外見よりも雰囲気のようなものらしいが。
女2人の話を聞き、ユイが腕にぎゅっとしがみついてきた。
ちょ、腕が折れ・・・ないな、平気だ。
5時はもう過ぎたが日没には早い。
ギルドの扉をくぐるとガランとした中、いつものヤツがいた。
新人潰しのダゴワ、もう話は知っている。
そうだ、試しに。
ギロリと睨んでみた。
伸ばしていた足を引っ込め、通そうとしてくれたのかも。
ヤツのズボンの色がまたたく間に濃くなり、立ち上がれず崩れ落ちた。
小便か・・・一面水浸し、トイレくらい行っとけよ。
まあ、これだけまともに効果があるとかわいそうにも思えた。
睨んだから、だよな?
「ヤリマ、キレイにしてやって」
「いいのです?」
「実は俺のせいだ。しょうがないからな、これから人も増えるし」
清浄、立ち上がれないのでおまけのヒールもくれてやるよう言う。
「ダゴワ、魔法の事は誰にも言うなよ。
もう弱い者いじめもやめろよ、いいな?」
機械のようにコクコク頷き逃げていった。
ちょっと失敗したかも。
一時的には効いただろうが、人の性根が簡単に変わるもんじゃない。
まあ今の俺たちなら、清浄バレされても何でもないが。
一段落、受付へ行くがやはり一騒動だ。
「あれ、確か・・・カロルさんお久し・・・。
えーと、えーと、コウさんですね? 何があったんですか!」
仲間全員が俺を見てくるので仕方ない。
エルは消えているが視線だけ感じる。
「えー、こいつは元「カロルの娘」だったはずです。
俺がユイって名付けたんで今日からそれでお願いします」
「おめでとうございます! 何があったか今は聞かないでおきますね!」
「待ってください、とりあえず名前を付けただけで・・・。
ラミアさんってこいつの事どこまで?」
小声で話してくれたがラミアさんはユイの素性まで知っていた。
いや、最初信じられずシェーン審議官から事実だと聞いたようだが。
いつかギルド長の面会を期待していたが彼女の方が何でも知ってるんじゃ?
シェーン審議官も、だな。
ゼファが袋からゴロゴロとオーガーの魔石を出す。
予想通りラミアさんは焦っているが、隠す必要もない。
“デーモンスパイダー”討伐の恩恵からするとこうなるのも当然だ。
まあ、転生者スキルとおかしな魔道具あっての事だが。
さすがのラミアさんもここではオーガーの魔石鑑定など未経験。
最初はロライナ支部などに照会して買取額を決めるそうだ。
ユイの名前変更が終わり、「今日のところは」と帰途につく。
混乱したか、ぐったりしているラミアさんは放置。
金曜だしこれから多忙だろうに・・・。
宿に帰るとまたも問題、部屋割だ。
ユイは絶対俺と同部屋だと譲らない。
これだけ意固地だと「母親のとこへ帰れ」と言いそうになる。
だが名前まで付け、俺が「ふさわしいか」様子を見るという話だからな。
いやいや、少女と同室で寝るんだぞ・・・。
「連れてきた責任を果たさないのは卑怯です!」
「ユイさんかわいそう、コウの鬼、人でなし!」
鬼ってこっちでも使うのか、単なる翻訳の都合か、いやどうでもいい。
女子2名の理不尽な援護射撃により、俺とユイは同室になった。
ユイは宿にも慣れたものだ。
ドレスは全く汚れず、洗濯も何もする事は無かったようだが。
持っている古着にストレージ経由で着替えさせる。
喜んでるが・・・あ、次は自分で着替えさせよう。
とりあえず全員が装備を外し、俺とユイの部屋に集まっている。
エルが輪の中央に現れる。
「とりあえずは今日コウが体験した事を話すね。
コウのメモの質問は食後にでもまたね」
「メモに追加で、パーティー名の事もな」
「ですよね、ユイさんに失礼ですし」
「さっそくユイさんへの思いが、うらやましいわ」
この2人に構うと面倒くさい・・・。
どうしてそうなる?
あ、『竜の撃墜王』って確かにひどいな。
「じゃあ今日の森の奥での出来事を話す。
エル、ドラゴンゾンビとの戦いは映像を交えてな。
ユイへもちゃんと伝えておきたいからな」
まずは奥地で濃い魔素を大量に取り込んだ事から。
解析が加速的に進んだ結果、動力を町中でも補給できるようになった。
「それで帰りからは酒無しだったか」
ここでユイにも話しておく。
飛行、ブレスへの透明盾、速い動きは腕の魔道具の力だったと。
ガジェットと呼んでいる事も。
ネタバレだが、父親にはこれらは全く効かなかった事も。
話を進める。
ドラゴンの姿のユイと母親の映像が現れ、エルが大きさなどを解説。
守護者としての攻撃をガジェットの力のみで回避。
その後エルという妖精の存在を知られることで畏怖された。
更に信頼と可能性を見いだされてしまったのだ。
「だが妖精を使えるのは俺の力じゃない」
「でも、使用者に選ばれたのはコウ様だったからでしょう?」
ユイが鋭い指摘をする。
「その通り、私達が選んだの。
その上、コウは□□□□□□□□□□□□□□□□□□・・・。
ごめん、秘密を守る魔法なの。余計なこと言っちゃった」
自分で禁句消されてたら世話ないな・・・。
俺が□□□□□□□□□って事か・・・ややこしい。
「とにかく進めよう」
「私が生物レベルに実体化したのは、“炭鉱のカナリア”ね」
簡単に説明するが、こちらでは魔石でも感知できるらしい。
「今更だがエル、お前の体じゃなくても分析できたんじゃ?」
「機械的に計測できない危険があるからなの。
精神汚染・催眠とか含む全てね。
それに応じて対策したり離脱を促せるから。
自分自身はリセットで問題無いし」
話は進み、画像には超巨大なドラゴンゾンビ。
闇の集まりでありながら、肉を持つかのように俺の斬撃を弾く。
加速しての視点なので、以前の波のような動きだ。
「この『うねり』を通常速度で再生」
エルに頼むより俺自身操作するのが簡単だと気づく。
うねりは瞬間の鞭のようなしなりだ。
それを全身で連続しておこなっていた。
60%加速の俺に対して決して楽に防御したわけではなかったのだ。
「コウの言ったのはこれか。
目で捉えられなくもないが、やるのは・・・」
「ヤツは自分自身の動きで俺に伝えてくれた」
それから一方的に飛ばされまくる俺。
画像だけでは俺視点なので加速度Gなどが伝わらない。
全体の俯瞰像へ変換、ピンポン球のように飛ばされまくるのが分かる。
タイム表示して早送り、約20分だった。
口頭で伝えたのでこの世界の時間で伝わったはず。
「ガジェットで死にはしなかったが・・・死は覚悟した。
問題はここからだ。
体の回転が止った直後だったな」
バリアごとドラゴンゾンビに噛みつかれている俺。
徐々に瘴気が内部に満ちていくのが分かる。
“俺視点”に切り替えるとエルが実体化している。
言い争い、エルは仕組みを伝えようとしているようだが。
そして・・・
瘴気で生きたまま腐り、崩れていくエル。
一度骨だけになって更に粉々になるのは怖すぎる。
エルはここにいるので何とも無かったのは分かってるはずだが。
「きゃあ」「ひぃぃ」「そんな・・・」
ゼファまでが声を漏らす。
ユイは顔を背けている。
「大丈夫、エルはちゃんと生きてるし。ほら、ちゃんと見て」
この後の全て、ユイには見ておいて欲しい。
うなずき、画像にしっかり向き直るユイ。
「あの時俺は・・・憎しみに我を忘れた。
そしてガジェットの全機能が停止したんだ。
同時に本物の剣技が発動したらしい、剣技『全発動』と出てた」
「もう止めるべきじゃないと思ってこっそり見てたの。
詳細不明だけど、瘴気耐性も完璧だったし」
「エルありがとう、あのときにはもう確信してたんだ。
肉体強化は限界を超えて・・・剣まで覆ってた。
瘴気なんて問題外だった。
圧倒的な力だった、技はほぼ皆無だったが」
勝負は決する。
というより、ドラゴン父の自決だ。
自らゾンビの体を完全消去したのだ。
闇の巨大な塊は世界へ四散・消失した。
俯瞰映像を俺自身で自由に再生していた。
暇そうなエル。
ユイは、胸の前で手を組み祈るように見ていた。
そして、俺の目を見つめ、顔も耳もピンクに染めている。
少し愛おしく感じた。
本当に強かったのは父親だけどな・・・。
父の最後に心を打たれただけかもしれない。
「そろそろ晩飯にしようか」
「はい」
他の皆も無言でうなずいた。
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