1-2.魔王
エルさんが戻ってきた。
最初に会った人間の方だ。
「えー、あー・・・改めましてようこそ、宇宙連邦臨時支部へ!」
「あ、はい、こちらこそ」
何か言いたかったんだが・・・やはり思い出せない。
それより俺がここへ来て、「エージェント」にされた意味、そっちだ。
すぐ横には妖精のエルがいて思考は筒抜けのはず。
という事は、本人にも伝わっているな。
あ、一瞬裸のおしりを思い出し、踏みとどまった。
危ない危ない。
人間のエルさんが顔を逸した、耳が真っ赤だ。
これは間違いなく同時に伝わってるな・・・。
改めて見ると、彼女は普通に日本の美人OLさん?という感じ。
20歳くらいか、少し明るく染めた感じの髪。
背は俺とほぼ同じ、少し低いか。
おっと、聞くべき事は・・・。
大きな立体映像が現れた、宇宙の映像っぽい。
綺麗で思わず見入る。
いつのまにか体育館とかで使う折りたたみ椅子が真後ろにある。
「どうぞ」と言われ座る、彼女もだ。
妖精だけはずっと空中だ。
数メートルの映像、宇宙全図か。
正確な宇宙全図があるのかは俺も知らないが、多分そうだ。
全体も銀河と似た楕円形。
徐々に速度を上げつつどこか一部へズームインしていく。
最後に拡大されたのは地球だった。
「結構宇宙の知識はお持ちでしたね。
質問があればご遠慮無くどうぞ。
では本題、今の現実を説明します」
最初の映像に戻った。
今度は見やすいようにか、画像が小さくなった。
赤い粒子が地球のある銀河の反対側に広がっている。
「この赤い点は ∇∇∇ と呼ばれる集団です。
魔王軍とでも呼べばいいかと思います。
説明は、まずは大きな視点での我々と彼らの立ち位置からです」
最初の呼び名は聴き取れなかった。
『ウジャラピチュ』に細かいノイズが入った感じだが、まあいい。
恐らく順を追って説明すべきややこしい事情がありそうだ。
「・・・宇宙の外から来ているように見えますが?」
「後にも説明しますが、地球で未観測の情報は教えられません。
存在を明かすことだけが許可されたのでご勘弁を」
「じゃあ最後にまとめて訊くので。メモがあります?」
スマホは見当たらないし、手書きが早いだろう。
「てのひらを前に出してください」
何のためか分からず思い切り手を突き出す。
メモ帳とペンがいきなり現れ、ペンを落としかけ掴む。
まず話を聞くだけ聞こう。
何らかの異常事態、・・・らしいな。
「我々宇宙連邦は原則全て、法による秩序に従います。
まだ未熟な文明、惑星には干渉しません、というかできません。
助けることはできないということです」
ん、話がおかしくないか?
いや、確認はとりあえず最後まで聞いてからまとめて、だ。
「ですが、例外的措置もあります。
法を外れないよう配慮しなければならず限界がありますが。
ある方々、種族の判断です。
それがあれば秘密裏に動く事もあるのです。
私達連邦の重要な判断はその方々が行います。
その方々は無私・・・利益を一切求めません。
全ての思考を明かしてくださり、我々の意見も受け止めて納得出来るまで話し合ってくださいます。
ですから、今にも滅びそうなあの方々を我々は援助し、守っています」
俺はメモに書きかけた『ある種族』への疑問を横線で消した。
まずは信じておこう。
「重要な判断とは地球の連邦加盟も含まれます。
言った通り、まだ機は熟していません。
これからのあなた方次第であり、期待しています。
それで、他の判断は当然ながら法に基づくわけです。
連邦加盟なら正式に援軍を派遣しますが、地球には無理です」
でも現時点で情報を教えてくれて。
放置はせず、何かの方法でこっそり援助するつもりなのか。
メモに書き込む。
「下手に兵器を貸し与えるのは愚の骨頂なのです。
加勢したとして、地力が低いとバレれば際限なく攻められます。
逆に怖いのは援助の影響です。
異文化により、未成熟な地球が、地球で無くなってしまう事です。
残念ながらそれを狙う者もいます、だからこその法遵守です」
矛盾だ。
メモの「放置しないのは?」の部分に丸をつける。
「敵の『魔王軍』ですが。
母星の『王』の欲望のみが侵攻理由と思われます。
占領後の資源採取、更に占領の際の陵辱・虐殺も同じ欲望です。
彼らの意識は『王』の一部あるいは同一と考えられています。
戦って利が無いか、疲弊するばかりと分かればもう来ません。
こんなところでしょうか」
一通り終わったようだ。
先に、メモしていないが単純なことを訊く。
「価値無しか占領不能と分かった時点で星ごと消されたりは?」
「さすがですね、想定通りの質問です」
想定通りなのにさすがってどういう事だ・・・。
「そんな事をすれば、こちらも遠慮なくぶっ放せますから」
なるほど、核兵器のような、多分それ以上のものがあるのか。
「敵の本星に攻撃は無理なんですか?」
「守備が厚く困難なのもありますが・・・。
あの方々から止められています、何をもたらすか予想不能なのです。
『王』自体が未だに不明なのですから」
「やつらはいつ頃来るんです?」
「現時点では不明ですが数十年以内には・・・今日かもしれませんし」
最後に、メモした最も不思議な事を尋ねる。
「これが最大の疑問です。
助けられないはずの地球をなぜ放置せず、何をするんでしょう?」
女性がボソボソ呟くと周囲が白い壁に包まれた。
隠蔽?
「最大の理由は・・・あなただから話すんですよ。
ここに奴らが来るのは、味方のある種族の兵器誤作動が原因です。
我々にも責任の一端があるんです。
誰もが予想しなかった時間軸・・・あっ、今のは無しで。
あなたは忘れるぅ~忘れるぅ~」
何だ今のは。
はっきり覚えてるし、ギャグか?
「・・・
そして最大の理由は、あの方々からの秘密裏の司令です。
あなたは特別の存在だそうです。
これは絶対に口外しないでください。」
さっきより長めに、再び女性がボソボソ呟き、壁は消えた。
『手は出せないがあくまで自力で(?)戦えるように』
というのが説明最後の質問の「答え」でいいのか。
「特別の存在」って?
いや、もう答えてはくれないか。
「えーと。
突然拉致されたことについてはそれどころじゃなさそうなんで。
変な組織じゃないみたいで良かったです」
やっと言えた、なぜか一番に言うべきこの事が言い出せなかった。
心無しか、さっきまでと変わっていつも通りの思考ができている気が。
何かがクリアになった。
「あ、その件では大変ご迷惑を」
「最初の感じでいきません? 妖精の感じで」
「あ、あれは妖精になりきりませんと・・・交代しますね。
ずっと一緒になるのでよろしくお願いします」
いや、多分こういうプレイ(ゲームの話ね)が好きそうだ。
最初の様子でバレバレだ。
「君の正式名称は何なの?」
「妖精型チュートリアルアバターだよー!」
一転してノリノリじゃないか・・・。
「忘れてた。
敵の事だけど。
実は、細胞や金属の組成や基礎科学が地球と驚くほど似てるの。
多くの星や文明が出会えばいつかは起こりうる事だけどね」
「まさか同族?」
「それは有り得ないはず。
生命体の形態は全く違うし、向こうが文明も遥かに進んでるし。
数百億光年以上を移動してる事でも分かるよね、双川さんなら」
「コウでいいよ、エル。めんどいだろ」
「これが敵だよ」
最後に敵生命体の実物大ホログラムを見せてくれた。
貴重なデータらしいが、特別だからか。
幅5メーター位のカニ(タラバ?)に頭が更に付いている。
ただし全体が黒っぽい。
「同形のロボットや別型のもいるから」
それじゃ何でもありだろ・・・。
時刻を見るとまだ夕方4時半か。
電車賃を支給され、駅までの手書きの下手くそな地図を貰う。
ナニコレ、宇宙連邦との落差がひどい・・・。
ちょっと安心した気はするが。
この建物は本当に人が居ない、まさかエルさんだけか?
建物を出る。
5時前だからか外のオフィス街に人は歩いていない。
また違和感。
意識が狭まったような。
建物を出る前くらいからだ、時計――ガジェットのせいか。
まだ馴染んでない?
誰も居ない公園を横切る。
何気なくレーダーを見る。
人が密集しているのは駅か。
ん、逆側に赤い光点が移動してる、何か悪意のある存在だ。
なんとなく分かるが強さも半端ない。
レーダーが突然意識でき、確認してしまったのはこのせいか。
公園の向こう側!
更にそっちの空から何かたくさん落ちてくる。
連続して爆発音と光が。
爆風。
やっと足が動いた。
あそこに飛び込んでも大丈夫なはずだ。
走る。
せめて、一人でも救助を。出来ることを。
走りながら思った。
まだ早い、早すぎるよ。
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