1-19.帰還
ユイだが、例の人間との混血だそう。
母親のカロルは純粋なドラゴンであり、色々疑問はある・・・。
だが、ユイがいることもあって立ち入ったことは聞けない。
いなくても聞けない。
いまここにユイが人の姿で存在している。
それが現実だ。
問題は、確か「押しかけ女房」とかいうやつ?
ちょっと違う気もするが、とにかくハメられたらしい。
《無理強いする気はありません、お願いする立場ですから》
「連れて行ってください! 妻にふさわしいかはゆっくり見てください」
ずるいとは思いつつ、俺にとってもチャンスだと考えてしまう。
連れて行くなら「戦力」として俺の帰還計画の助力にしよう。
恐らく困る事はないだろう、条件を満たせば。
そのために聞いたのは、
1、人の姿での戦闘力
2、ずっと人の姿でいられるか
3、人間を殺すことにためらいはないか
最後の質問はカマをかけた、カロルにはバレていたようだが。
実はドレスをストレージ収納した時、ギルドカードが表示されていた。
縫い付けた数個の宝石と、小袋の金貨や小銭も。
一応聞くとCランク、このランクまでは自称名OKだからな。
登録名は「カロルの娘」だそう。
ドレスは細身だが一応「防御」付き、使った事はないだそうだが。
普段は素手で殴るか魔法としてのブレス、ドラゴンと実質同じだそう。
実質って、力も同じらしい。
ほんまかいな?
ハンマーを使ったこともあるが、かさばるのでここに置いたままだ。
そのハンマーは俺が収納して持っておく、練習させよう。
人の姿でいる事については、数年そのままでいた事があるそうだ。
ずっと人里にいる場合、普通にこのまま暮らすという。
金は狩りで稼いだが、もしものために宝石を隠し持っている。
普通に宿屋に泊まり過ごしたようだ。
ほぼギルド関係者とはいえ、知り合いもいる。
この世界でなら、人間としても俺より遥かに先輩だな・・・。
「人を殺せるか」という意味の最後の質問。
よく考えれば、俺の行動からもおかしな質問だと気づくよな。
「『守護』の役割でも無ければむりだけど、頑張るから!」
あの時、最初出会った時は本気で攻撃してきた。
魔素がいきなり大量に消えたのを感じ、この地の守りとして見逃せず来たそうだ。
すると幼少の頃見た「あの人間」のような者がいて混乱したのだ。
相手が獣や魔物などなら威嚇し倒す。
だが俺が人間だったので噛み噛みになってしまった。
知的な者には詳しく言う必要があるので慌てたらしい。
あれは「守護者」としてのセリフだ。
変な質問で誤解させてもダメだな。
健気に答えるユイがかわいそうだ、謝る。
「ごめんな、意地悪な質問だった。
どうしても必要じゃなきゃ、人を殺しちゃダメだからな」
人の姿のままのユイを抱いて、仲間のいる方向目指し飛んでいく。
少し年下、中3くらいの女子だ。
胸がくっついているが・・・ほとんど膨らみは感じない。
まあ、こんなものなのだろう・・・。
「わたし自分で飛ばなくていいんです?」
「ああ、仲間には一通り話すけど、今からは出来る限り人間でいてくれ」
「わかりました」
(素直ねー)
まあ、同行を『お願い』するぐらいだしな。
しばらくは知らんふりでパーティーメンバーとして仕上げるか。
(ちょっとかわいそう)
うーん・・・。
思考ブロックって徐々に解けるかな?
そのうち本音も知らせようと思うんだ。
そもそも乗り気でないことはちゃんと言ってるし。
(うん、オンオフ出来るから。徐々にね、りょうかい!)
飛べる速度が速い、俺自身驚いた。
ガジェットが以前と同じように調整しているはずだが?
ドラゴンの最高速程度にセーブしつつ、仲間をレーダーに捉えた。
左手がユイを抱いて塞がっているが・・・。
メニュー画面に時間表示してみる、敢えて好みのアナログ時計だ。
まだ5時前か。
いよいよ元の付近に近付き、レーダー内の動きを見る。
視覚でも捉えた。
魔法の2人にオーガーを狙わせて、打ち漏らしをゼファが処理している。
恐らく魔法士2人も普通に避けつつ戦えてるのか。
いい感じ・・・。
ゼファの感知ではほぼ目視だろう。
オーガーはあっという間に来るからな、見通しのいい岩山ならではだ。
倒すのを見届け、すぐ近くに敵のいないのを確認し降りる。
「俺の仲間、『目指せ、竜の撃墜王』の3人だ」
相変わらず恥ずかしい名前だ・・・。
並んだユイが一礼する、ドラゴンは日本式礼儀か?
「その鎧の下のジャージは、・・・コウだよな?」
「本物ですよね?」
「その人は?」
何だこの反応は。いきなり連れてきたユイの事は不思議で当然だが。
「この子はユイと言う、良ければ仲間にしたいんだ」
「バイオレットドラゴン混血のユイです。コウさんに嫁いできました。
よろしくお願いしますね」
すこし棒読みだが・・・バイオレットドラゴンだったのか。
いやそんな事より、口をあんぐり開けた3人だ。
「まだ嫁と決まったわけじゃないだろ!
次から名乗る時は名前だけ、絶対だぞ!」
「いや、それはいいが」
ゼファがこんらんしているようだ。
いいわけが無いんだが。
「コウ、お前・・・何があった。
出かける前と・・・何というか、変わり過ぎだ」
いみがわからない。
「レベルアップ効果ナリ!」
にせようせいがあらわれた!
これで納得したとは思えないが、俺だと認めてさえくれればいい。
「ドラゴンゾンビになったパパを倒してくれたの。
ママも認めてくれたし、好きになったし・・・。
名前も、もうつけてもらったの」
名付けがドラゴンの婚姻に関係してるのか?
まあ、後で問い質す事にして・・・。
レーダーに反応だ、うまい具合にユイの方から来る。
「あちらから1匹来るはず、ユイ以外手を出さず見ててくれ。
ユイ、ハンマーを渡すぞ」
「いらない、すばしっこいだけのザコ」
反応からすると、やはり種族特有の感知か?
もう相手を見定めているようだ。
後の3人は反対側へ動く。
自己紹介で彼女の素性は分かっている。
オーガーが現れたが、あんなに遅かったっけ。
ガジェット機能は万が一に備えて待機、通常モードに戻ってる。
ユイは棒立ちから張り手というか引っ叩きというか、一撃した。
ダメージは不明だが、敵は倒れたまま痙攣している。
ブレスも見せるために手を抜いたな・・・。
「ユイ、力はもう分かった。とどめは任せろ」
ブレスは俺から説明しよう、3人に恩恵をあげたい。
しゃべるほどの時間が経ち、敵は飽きずにまた動こうとしている。
魔法士を狙うかもしれないが、不思議と焦りは無い。
ガジェットはすべてオフにした、俺のこれからの“決め事”だ。
こいつらが俺の敵ではないのは一番最初戦う前に試験済み。
敵が一歩踏み出すかどうかの瞬間。
俺自身、時間が欠落したかと思った。
いつの間にかすぐ側へ移動、斬っていた。
まるで居合のような、・・・あまり知っているわけではないが。
剣を回し振り、血を飛ばし納刀。
「血振り」って言ったか。
意味があるかは知らないがなぜか体が自然に動く。
メニューに『剣技』が見えていた。
普通に使えたな。
ドラゴンパパと比べてザコ過ぎて使った実感もない。
いやあの時は確か『全発動』って出てたな・・・。
「今の動きは? 俺のような『迅速』でも加速でもないと思うが」
「コウ、ですよね。間違いなく」
「カッコよくなり過ぎ!」
「じゃじゃーん、発表するけどいい?」
「別にいいけど何だ、エル」
「コウのレベルは125になりましたー!」
ちょ、おま、そういう事は本人に先に言っとけ。
(あ、ごめん。忘れてた)
「待って、そんなに流れ込んできた覚えは無いけど・・・。
倒して、・・・記憶が抜けてた時?」
もしかしたら余りに膨大な『恩恵』に俺が耐えられなかった?
単に意識の無い瞬間に入ってきた・・・どうでもいいな。
昼までは73だった。
あのデカグモでさえ余りに強すぎたんだが・・・。
更にそこから52も増えるとは滅茶苦茶だ。
余程ドラゴンパパが強かった? もちろんそうだろうが。
後で皆やユイに状況説明して、聞いてみよう。
「1時間くらい前か、恩恵は届かなかった?」
「ああ、少し『来た』のは感じたが大したことは無かった」
「少しでした」
「ビビッと来たね」
離れても伝わるのか、いや普通は離れたら減って意味無しでは?
それほどまで大きかったのか。
一旦全員引き上げだ。
ユイは、もちろん俺が手をつないで連れて行く。
うーん、母子の思い通り流されてしまってるような気も・・・。
少し遅くなったが約束を果たす。
一昨日の場所付近でゼファとの対練だ。
そういや、デカグモを倒した後はグロッキーでやってなかった。
俺が収納している木剣をゼファに投げる。
もちろんガジェット全オフ、レーダー以外。
メニューが少し変化して「緊急以外ロック可能」になっているな。
ゼファから打ち込んで来るが・・・、瞬間で意味が無いと分かった。
全て最小で躱せ、恐らく受ければ折るか吹っ飛ばしてしまう。
避けながら話す。
「ゼファ、自分のタイミングで全力でやってもらえるか?」
言葉の途中でゼファは打ち込みを止めた。
「・・・分かった」
一旦離れ、恐らく言いたい意味は察したようだ、『迅速』で来た。
少なくとも「瞬間移動」とは感じない。
剣同士で受け、力で弾き飛ばしそうになるがそれでは中断してしまう。
あの回転、螺旋運動と言うべきか、真似たいのだが。
やはり『迅速』は凄い、この速さに対しては難しい。
俺があの『全発動』に達することができないのも一因だな。
一旦離れ、更に全力の『迅速』が来た。
やはりあれを意識するが、力でゼファの木剣を弾き飛ばしてしまった。
「くそっダメだ」
「これが125レベルの剣技か!」
ゼファは驚いているが。
そういや詠唱してないが、普通に集中出来てきている。
「ダメってどういう意味だ? コウ」
「ああ、別にバカにしてるんじゃなくて。
俺自身、さっき体験した動きには全然足りない、できないんだ。
帰って話そう、色々あり過ぎた」
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