1-16.魔法剣士?
2匹のドラゴンに脅されて拉致された。
はさまれて並び気味に飛ぶ。
逃げれば町などを襲うと言ってるから仕方ない。
加速しつつ、大回りで飛べば町の方向はばれないか?
いや、それはそれでどこかよそが襲われる・・・。
(最初なぜか見つかったよね。
解析中だけど、未知の感知能力を持ってる可能性もある。
自然界の異変も感じ取れるような)
エルが別リンクで思念を飛ばしてくれている。
(2匹の感じ、害意はそうでもないんだよね。
まず話を聞いてからでもいいような気もするけど)
確かに、娘の方は最初敵意と恐怖と・・・今思い出せば怖がられてた。
親の方は恐喝してきたが感情は落ち着いている。
それに・・・懐かしげな感情?
思い切って大声で聞いてみた。
「なあ、いや、あの。
昔会ったっていう人間って、いったいどんな・・・」
しまった、戦ってたら恨みを持ってるかも・・・いや懐かしがってる。
悪い思い出ではなさそう。
《凄い魔法使いだったわ。
お前のように我々より早く飛び、あらゆる攻撃を防いだの。
そして雷撃一発で私達さえ戦闘不能にしたのよ》
雷撃って、もちろん魚雷じゃなくて雷だよな。
いかん、某ゲームのやりすぎだ。
「そのあと仲が良くなったんです?」
《そ、そうなのよ》
《やだー、ママのえっち!》
こいつらドラゴンだよな・・・。
色々な疑問はあるが・・・聞くのも怖いしやめておこう。
こいつら今は全速力で飛んでる?
徐々に速度を上げていたが、俺の場合加速との併用でまだ余裕がある。
30分程の場所で、ゆっくりと停止。
だんだん何かが濃くなる?魔素とはまた違う。
そこは・・・
昼なのに薄暗い。
霧が立ち込めている、黒い霧だ。
《近づけばもっと瘴気が濃いわよ》
(体大丈夫? あ、ほぼ影響無し、ステータスと『剣技』の耐性ね)
ドラゴン母とエルが続けざまにしゃべってくる。
バリアは・・・そういえば風を通してるな、瘴気ってどんなもんだ?
(毒性がありそう、これより濃いとなると・・・)
《お前さん、精霊と会話してるでしょ?
なんかぼそぼそ聞こえてるわ》
《せ、精霊使い?》
「バレちゃーしょーがない。じゃじゃーん、妖精のエルでーす」
エルが出た。
《なんか出た》
《伝説のアレ? 妖精使いっているんだ?》
こっちも混乱するが、妖精を知っているのは娘の方だ。
《精霊とは違うわね、瘴気も平気なの?》
「実体化したら瘴気が、げふっ。
密閉してエアコントロールを・・・ふぅ」
分からないことが山積みだ。
以前実体化して触われるのは分かってたが、なぜ瘴気に影響される?
エアコントロール? 空気清浄、じゃなくて浄化か。
飛行で風を感じてたからバリアが空気を通すのは分かってた。
「瘴気ってヤバい。
で、おほん。精霊レベルと一緒にされちゃ困るわね。
こっちは実体あるんだから」
分かるような分からないような。
しかし、姿見せてそんなに一気に強気で大丈夫なのか?
(『昔会った人間』のおかげで、精霊の辺から見る目が変わったよ。
分かりにくいけど、畏怖の感情があるみたい。
やっぱりこういう反社って大見得を切ると惚れ込んだりするのよ)
マンガの読みすぎだ、現実ならすぐドラム缶に詰められ・・・。
人間のエルの趣味か・・・。
しかし確かにレーダーでの感情も、思念も変わったような。
「お前」が「お前さん」に昇格したしな。
「瘴気、密閉バリアと耐性でまだ平気だけど、一応対策するね」
「ちょっと待て、まだこれから何を頼まれるのか聞いてない。
まあ大体想像はついたが、ええと、母ドラゴンさん・・・?」
《カロルと呼んで。愛する人にもらった名よ。
この子はまだ名前は無いわ》
名無し?
というか、愛する『人』?
(実体化やエアコントロールは帰れたらまた説明するね)
お、おう。
聞かずとも娘が語りだす。
《パパはね、この地に君臨した強い強いドラゴンだったの。
ママの心が「あの人」にまだあっても、それを許して・・・》
《その話はやめましょう》
《えーとそれで、瘴気に侵されてゾンビ化した同胞を次々土に還したの。
そのせいか、数十年前にパパ自身も体内から腐り始めて・・・。
それでもパパはこのエリアから出ず無闇に暴れたりしない、凄いのよ》
《最近瘴気で『森の主』を追い立てたけどね。
あの人理性はあるけど、強いのにはめっぽう対抗意識があるみたいで。
人間の里の方に行っちゃったけどね、速過ぎ、アイツ。
大惨事でしょうね》
《パパのせいでごめん》
謝ってる?!
何だ。さっきまでとえらい違いだ・・・。
「あのエルダーだかデーモンだかのスパイダーの事か?
そいつの事なら、俺が倒したけど」
ウンウンと、エルが偉そうに頷いている。
脳内でアイツのブレスを抜け、俺が足で組み付くシーンが。
そして棒を突き刺されたスパイダーが息絶える。
エルがカロル親子に映像を送ったようだ、都合のいい編集だ。
《お前さん・・・いや、あなたのような人を探してた》
《近づこうとするとパパ自身に止められるの。
体は完全にゾンビ化して心の「一部」だけ残ってるって。
絶対にお前たちは近づくな、「あの人間」を探して俺を殺せ、って》
その人間は・・・もちろん探したし、探してもいるんだろう。
しかし、もし何十年・何百年前の話なら・・・。
「バリアの改良だけど」
エルだ、腹をくくったな。
戦いを想定しているのは分かるが、バリアとか用語がそのまま。
「そんな事気にしてる場合じゃないし。
ちょっと忘れてたけど・・・この勢いでいこーよ!」
テレパシーと会話の区別無視だな。
改良ポイントは瘴気など有害物質対策か。
これまでの体表モードだと当然窒息してしまう。
呼吸可能な空気調整、なるほど、それがエアコントロールか。
そして遮断防護しつつ自由に動ける余裕があるバリアだな。
今までそれが無かったのは不思議だが。
有害物質中や宇宙空間での行動を想定してないはずがない。
前の現代世界なら、動力源もあるし解析は可能では。
ガジェットにはおかしな事があるな・・・。
□□□□□とエルは言っていた、つまりこの□□□□□□□□□□?
なんだ、意味は分かってるのに音声化できない。
思考の中なのにだ。
「ごめん、そこは機密だからロックされるの、思考でさえ。
あのVRの『白い部屋』で唱えたコマンドのせいなの」
ドラゴンの存在には構わず、俺の思考とエルの返答も含め話が続く。
傍で聞けばチンプンカンプンだろう・・・。
俺とエルの会話は一段落、バリア改良により瘴気は防げ戦える。
また問題があれば適宜対応するしか無い。
カロルが今までの事を話してくれた。
一度、かなり近付き「神聖魔法」を使ったと言う。
だが、ごく一部しか消せず、混乱状態になり襲われたそうだ。
しっぽの一部などが腐ったが、慎重に魔法で治したらしい。
同じになっては元も子もない。
今まで忘れてたが、ヤリマが治癒魔法を使える。
改めて確認すると、治癒魔法はほぼ神聖魔法と同じだそう。
ヤリマ本人もゾンビ退治に使えると言っていたが。
カロルも失敗している、よほどでないと無理なのだろう。
レベルアップした魔法を試すにしても、失敗すれば一旦逃げる事になる。
逃走を助けてくれるとしても、また瘴気を受けさせるわけには行かない。
それこそ、家族を守ろうとしている父ドラゴンへの裏切りだ。
いや、反社だからな。
いざとなれば鉄砲玉として切り捨てられ・・・。
もしくはマンガの流れなら、非凡さを見せて気に入られたり。
利害無視の組員の加勢とか、いきなり1億円援助というパターンもある。
(それそれ!)
いかん、俺も結講そういうの読んで毒されてる。
覚悟を決めた。
もちろん死ぬつもりなどない。
ある程度近き、もう一度瘴気防御を確認しつつ敵の力を見る。
最悪でも一旦撤退するつもりだ。
もし万が一だが、俺が死んだ時はラフィーナのギルドに伝えるよう頼む。
《時たま人の姿で里に行くから》
娘が言う。
それで「妖精伝説」とか知ってたわけか。
最後にカロルからアドバイスが。
《雷撃は効かないと思うわ、体は実体が無いようなもののはず。
魔核に大きなダメージを与えないと魔法だけでは難しいわ》
飛行している事や『昔会った人間』のイメージで俺を魔法士と思っている。
「俺は魔法士じゃない、俺の武器はこれだ」
安物鎧の腰に下げた、唯一立派な剣を手で示す。
《魔法剣士!?》
2匹同時に驚く。
まあ、そういう事にしておこう・・・。
※「魔法士」という表記について。
職業により異なりますが、現在看護師の場合男性なら看護士、男女問わないなら看護師など書き分けされます。
作中では「魔法士」は職業総称として扱っており、男女区別はしない設定です。
■ブックマーク と ★で応援 お願いします
★はいくつでも感覚でいいのでよろしく
↓ ↓ ↓