1-15.異世界版反社
「恩恵」を感じる。
実際にはレベルアップだ。
恩恵はどの魔物でも常に入っていて、レベルアップ時にだけ体感する。
だが、ここでは転生者でさえその言葉は使わない。
具体的な数が分からないからだ。
『レベル73でーす』
しまった、よく考えればオーガーの恩恵がどのくらい多いのか不明だ。
相当半端が出て計算が狂うかもしれない。
『上がった瞬間からの増加量を確認してるよ。
後は次までの総計を計るね』
なるほど。
他の3人はレベルアッブしなかったようだと言う。
俺がたまたま上がったのか、皆より必要量が少ないのか。
両方かな。
オーガーは魔石のみ取り出し、肉は捨てるようだ。
獲れ高が少ないのでほぼ流通しないらしい。
好き者が買うそうだがこんな田舎で需要は無く、都会でも裏物扱いだそう。
バカでかい魔石で充分稼げるし、オーガーが狩れるだけで選ばれた存在だ。
オーガーの場合死体はここに放置するわけにもいかない。
『はぐれ』が出たかと騒ぎになりかねない。
おまけにそれを倒した他の魔物の存在さえ疑われる。
刀傷をよく見れば冒険者と気づくだろうがこの辺では前例が少なすぎ。
「土魔法」が使えれば地中に埋めるそうだが2人は使えない。
この前のオーク6匹の血抜きの時も男2人で溝を掘ったのだ。
半端に埋めて匂いにつられた獣が掘ってしまうとまた面倒。
要するに、わざわざ連れてきたのが余計だったわけだ。
死体はまた俺がオーガーエリア奥に捨て戻しに行く事になった。
その前にエルからのご注文が。
『明日土曜日だけどどうする?』
俺の知識を通じエルも「この世界のお天気事情」を知ったようだ。
「普通に、雨なら仕事休みかな?」
自分で言って気づいたが、高校生のくせになし崩し的に労働者だ。
今更だな。
『じゃあついでにもっと奥まで入ってみて、空中でいいから。
魔素のエネルギー変換できそうだけど試行錯誤が足りないの』
「望みありか?」
『分からない、けど多少できたらそれを元手に分析が加速するかも』
「だそうだ。しばらく行ってみるからその間にオーガー狩ったら?」
「大丈夫と思うが、それじゃあコウに更に差がつくんじゃ」
「ガジェットの機能復活したからその程度いいよ。
あいつらいきなり後衛狙ってくるから、それだけ気をつけて」
もし「魔素」が活用できれば一気にエネルギー問題解消かもしれない。
時間がかかるかもしれず、日が暮れる前に戻らなければ帰るよう言った。
ガジェットの機能があれば問題無い。
オーガーの死体を小脇に抱え斜め上昇する。
重さ何キロか不明だが、改めて筋力、というかとにかく力が強くなっている。
食事とか、日常生活で全く違和感がないから余計に不思議に感じる。
エリアの最奥辺りで投げ落とす。
魔物とは言え、遺体を粗末に扱うのは気が引けて、思わず手を合わせる。
おっと、重力方向一定でどんどん奥地だ、この辺で・・・。
『待って、このまんまで。「魔素」がだんだん濃くなってる。
濃ければ濃いほど助かるし。
体への影響は無し、心理的には・・・きつい?』
少し不気味さみたいなのは感じる。
なんか「心霊スポット」みたいな?
あれは思い込みや夜の暗さへの恐怖が大きいだろう。
それらと違い今は明確に、そうだ圧迫感、を感じるな。
もちろんレーダーはクリアだ、野生動物らしいのは結講いる。
「剣技」を心で詠唱、平気になった。
耐性が恐らくステータスやその強化で変わるんだろう。
『いいねいいね、濃い―ね。この辺でいーよ』
急ブレーキをかけ、なるべく停止状態に重力調整。
まだ結講動いているが、まあ落ちなければいい。
ずっと空中だ。
シュー、と蒸気機関車っぽい音が。
『おおー』
どうした?
『総量の半分いった』
なにぃ、必死でちょこまか飲酒したのは何だったんだ。
『いや、この辺の大気、何万リットル単位でごっそり吸ったから。
すぐ回復してるみたいで生態系なんかへの影響・・・多分無し。
でもこの効率じゃ実用にならないから、変換パターン、フル試行するね。
最大解析でやるからしばらく待って』
すぐに『おおー』と言ったり『更に効率向上!』とかあれこれ言いつつ。
『もう恐らく町中レベルで行ける。エネルギー問題解消!!』
マジか、今日買った40本の酒は・・・。
まあいい、帰るか。
意外と早く決着して一安心だ。
恐ろしい勢いで光点が近づく。
でかい。
強い。
仲間方向に飛ぼうとして思いとどまった。
こんなのを引き連れて行けない。
《飛行の魔法を見るのはあれ以来かしら!》
しゃべった?
伝わってくる、エルと同じに。
まず、見てビビった。
本物の西洋型ドラゴン!
蛇みたいじゃないやつだ。
ついに本物のドラゴンを見れた。
紺色で艶消し気味に鈍く光る体表、数十メートルのでかさだ。
ボソボソっとエルが教えてくれる。
『全長約38.5メートルね』
0.5メートルまで分かって『約』はいらないと思う。
ついに、ってまだ月曜に来て金曜だ。
いきなりだ。
パニクって自分で何考えてるのか分からん。
《こ、高貴なる我が地を荒らす者よ》
またしゃべった。
《消え去れ!》
さっきと全然違う。
最初は、凄いとしか言えない外見と比べ意外と人間っぽいかと。
実は神聖で偉い?みたいだ。
信仰対象になるくらいだから当然か。
消えろと言われたので、来た方角へ重力の数値を上げ・・・
《に、逃げるか!》
いや、消えろって・・・。
《わ、我が炎で き、消え去るのだ。
逃げれば一族、郎党に わ、災いが及ぶと知れ》
なんだろう、セリフ覚えてない?
最初の可愛い感じが素なのか?
《余を侮辱するかー》
『意識読まれてる、自発意識以外ブロックするよ』
自発意識って、こっちから呼びかけるみたいな?
『そう』
いきなり、いや予告通りブレスが来た。
逃げるとやはり追いかけて来るだろう。
高貴で神聖なくせに、関係無い人まで殺すみたいな事を言ってた。
ひどいもんだ。
ここは・・・耐えて様子を見るしかないか。
倒そうにも恐らく攻撃力が圧倒的に足りない。
デカグモの時は無理して何とか棒が突き刺せたが、異世界常識でいくと、ドラゴンの場合物理防御とかで攻撃が効かないはず。
『剣技』があってもいきなりは無理だろうな。
俺が何ともないのでめっちゃ驚いてるな。
ブレスはバリアで無問題だがこのままでいるわけにもいかない。
必死で考える。
《なめないでっ》
最初の口調に戻った? これが素か。
その瞬間体当たりで吹っ飛ばされた。
バリアで緩衝されていても意識が飛びそうになる。
クモよりは遅いはずだが、重量のせいか。
再度の「剣技」無言詠唱で意識はしっかりした。
激突と引っかき、噛みつき、そしてブレスで山火事だ。
そしてなんと・・・もう1匹来た・・・、マジですか。
流石にヤバい、更にでっかいんじゃないのか?
明るめで青っぽい色は似てる。親子?
「エル、試験機能だったっけ、起動出来るか?」
『エル・マックス起動、レディ』
「レディ」は合成音声の真似のようだ、意味不明。
とにかくオーケーってことか、脳内画面で分かった。
加速《自動》60%?
出しすぎ、50%に修正。
今度はササッと回避する、自動重力制御は楽過ぎ。
避けるの自体相当速いが・・・さっきは加速少しだから衝撃が大きかったのか。
これなら2匹相手でも、避けるだけならイケる。
《お前本気じゃなかったの!? や、やっぱり・・・》
《もうやめときなさい》
どっちが言ってるのか・・・あ、方向で分かる。
《こいつを一目見てあんたビビってたでしょ、あとはヤケクソで。
恐らくあんたも私も敵う相手じゃない気がするよ》
なんという過大評価・・・あっ聞かれて、は無いのか。
ブロックしたって言ってた。
しかし、今来た方は物分りが良さそうで助かった。
《結構前から何となく見えてたけど。
お前、明らかに手抜いてたわね》
「滅相もございませんです、どうしようもありませんで」
《ドラゴン一匹とはいえ、殺したら後々面倒くさいからねえ・・・》
なんか、過大評価には理由でもあるのか。
何か、しょっぱなに昔の事を思い出したような事を言ってたな。
というか、・・・手を出すと面倒?
暴・・・反社?
《ねえ、お前の家族とか里とか手出さないからさあ、取引しない?》
でかいほうだ。
《こ、こいつに例のことを? ムリムリ》
《ママはあんたの知らないことも知ってるのよ。
あの人間もあんたの知ってる力はほんの一部だったから》
なんか、普通に親子っぽいな。
で、あの人間? 最初に言った「飛行魔法」の話か?
《じ、じゃあ頼めるかな。パパを殺してほしいの!》
親殺し?
いや内ゲバ、は違うか。
跡目争いとかか!?
パトロンの線も・・・あるのか?
《お前、もし逃げたら家族とか里とか皆殺しだからね。
変な気起こすんじゃないよ!》
更に脅してくる、この母親もっとひでえ。
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