1-14.レベル
覚えている限り、そして途中見つけた全部の酒屋に入る。
わざとらしく「酒盛りだ―」と叫びつつ4~5本づつ買う。
横道へ運び次々ストレージへ収納、10軒近く回った。
身近な娯楽だから店も多いよな。
瓶を返却できるよう店別に分けたが、これ合成材料にできないかな。
やり方がまだ全く分らないが。
やっと狩場へ。
トラウマっぽいが、普通にラージスパイダー狙いだ。
道すがら大事な疑問を。
「剣の“自動再生”ってどうなの?」
みんながどのくらい知っているのか不安だが、せっかく貰ったし。
以外な答えがゼファから返った。
「俺の刀にも付いてるよ。
冒険者デビューに親が鎧と一緒に数十ゴールドはたいて買ってくれた。
数百万円のなんてとんでもないと思ったが・・・。
俺が死ねば元も子も無いんだ、育てた意味さえ無くなるって」
俺のために円換算してくれるのはまあありがたい。
「確かにそうだな」
「おかげで今はかなり返せてるしな。
あっ、肝心の使い方だな。
昨日は砕けたらしいが、普通は折れるものだがな」
(加速中の衝撃は通常と違って物を脆くするの)
「加速のせいらしい、エルが言ってる」
「普通の場合だが、自動再生付きは限界で敢えて自ら折れる。
そうすれば最低のダメージで済むらしい。
折れた部分と一緒に鞘に戻せば数十分で治るんだ」
「おお!」
「もちろん最低限程度の手入れは必要だ。
欠けも修復されるが、そのままだとだんだん痩せ細ってしまう。
多くのものは柄頭、つまり一番根本の小箱に地鉄がセットされてる。
欠けた分はそれで補われる。
買った時に聞いたが、砕けても集めて柄に巻いていれば時間はかかるが治るという話だ」
「さすがだな! ありがとう」
確かに根本に箱のようなものが付いてる、ただの飾りと思ってた。
丈夫さは使い方次第かもしれない、シェーンさんも言ってた。
ガンガン突き立てるんじゃなく、まだ難しそうだがちゃんと斬れれば。
刃を見ると以前の“打撃切り用”ではなく、鋭利だったし。
使いこなせれば凄そうだが・・・。
あ、それと・・・。
「味方ってシェーンさんが言ってたけどどういう事だろう」
「凄い人ですから味方も何も」
「雲の上、天上の人よ」
「ギルドのSランクだ、敵も味方も無いさ」
Sランク? 初耳だ。脳内メニューにメモってそのうち聞こう。
(彼は信用していいよ、説明できないけど分かったよ)
意味不明だが・・・ガジェットからの感覚か?
俺自身も同じことを感じたような・・・。
数キロ離れて20程度スパイダーがいる。
進行方向がズレているが他の冒険者もおらず問題なし。
もちろん、あのトラウマ級のようなのもいない。
全員に告げると、バンティが張り切っている。
「見えるとこまで行って一発ぶちこむよー」
実際は一発というより、ファイアアローの少し細かいの多数だった。
自分で驚いている。
「さすがわたし、本気なら全滅ね」
俺たちの場所へ誘導するためのアローは狙い通り。
目前に近付き突撃。
次々瞬間移動するゼファを見ながら・・・
あれ、全滅した。
確かに俺も軽く走って剣も振るには振ったが。
ガジェットは使っていない。
「クモもういない?」
「何も出来ませんでした、二人とも消えてたような」
「あ、そういえば昨日アレ倒したあと・・・みんなも感じたか?」
俺だけじゃないはず。
「ああ、スタンガン・・・棒のショックのあとで確か」
「覚えてないけど、そうみたいね」
「わたしも試したいです、誰か怪我してください」
「おいっ」「ちょ」
「うそです、風魔法撃ってみます、えいっ」
少し離れた場所の木が数十本倒れた。
「今は誰もいなかったけど、気をつけてくれよ」
「そのくらい分かってます!」
(レベル72だね)
え? レベルが分かる?
(存在確認済みシステムの解析はほぼできたよ。
既存の機能調整はデータが取れたことで間もなく終わり。
この世界のシステムは場当たりでずっと調べることになる)
間もなく機能復活?
(以前の機能は戻るよ。
試験機能は更にデータ取って改良するから、緊急時のみね)
ここなら声を出していいはずだが、ガジェット関係は俺だけに話すのは正解かも。
「おい、コウ?」
「あっ、色々解析が進んで以前の機能は戻るって。
自由に飛んだりはできないやつね。
で、今レベル72だと」
「うーん、えっと、それってどのくらいなんだ?」
「あーエル、巨大クモを倒す前は?」
(アルコールでの回復前は解析できてないから)
「分からないそうだ」
俺はなにげに数字に感心したが、ゼファの言うとおりだ。
比較対象が無いとレベル72の位置づけが分かるはずもない。
もしかして、「恩恵」の量は数値として分かるんだろうか。
(うん、量は分かるから数値化もできるね)
なら、次のレベルに上がったら・・・
あ、これは駄目だ、72の途中からになってしまう。
73に上がって74までの「恩恵」必要量が分かれば、これまでの上がり方が推測できるはず。
恐らくゲーム知識でいけばレベルが上がるほど必要量も増える。
正比例ならそれはそれでいいが、無いだろう。
とにかくそれで行ける。
(りょうかい)
ゼファに説明するとすぐに理解した。
残り2人も上がり方については「経験則」と同じと感じているようだ。
今日かなりクモを倒してもほぼ上がらず、俺の経験とも合致する。
しかし、これからそれだけ「恩恵」を得られる魔物は・・・。
忘れないよう、蒸留酒入りのグラスを飲み干す。
(酔えば酔うほど強くなるー)
酔拳じゃないし、酔ってもない。
(ふっかつー!)
何だ、と思うとメニュー画面だ。
ついさっき言ったのに早過ぎ。
待ちに待った復活のはずだが・・・。
今は4人全員で戦わなければ意味が無い。
一人だけ強くなることも可能だが、そんなしょうもない事はしたくない。
皆には大きな恩がある。
「エル」
(なに?)
「こういう場所ではややこしい話以外声出そうよ?
要するにめんどくさいんだが」
『たしかにー』
空中から声がする、姿を投影していないだけか。
『というわけで、機能復活です』
「結講飲んだしな」
「おめでとう」「よかったです」「やったね」
「ありがとうみんな」
「取り敢えず通常使うのはレーダーだけだな。
夜寝る時は宿の、そうだな、百メートル以内になんか来たら教えて」
なんかっていうのはもちろん赤光点だ。
それから少し考え、俺は決断した。
そんな大した事でもないが。
「皆に聞くがオーガーの特徴って分かれば教えてもらえるか?」
「まさか?」
3人とも同じ反応だ。
「デカグモを倒した時だけど、俺も皆も相当上がったはず。
少なくとも全員レベル72以上は間違い無い。
今勝てるかはともかく、今後いずれは戦う相手だと思わないか?」
皆考えている、相当強くなった事は感じているからな。
「死んだら終わりなのです」「うんうん」
「・・・一気にBランクの『炎魔剣』を超えた可能性か」
「俺がここへ来た初日の話だ。
もうすぐ日が暮れて宿に泊まる金も無かった。
さっそくゴブリンやコボルトを探した、レベル1の状態でだ。
バリアがあったからだ、加速も使ったが。
3匹狩れたが、死ぬことが無いと確信してたからできた。
今日も同じ事だ」
オーガーは人間より少し大きいの灰色の猿で、姿は小型のオークっぽい。
とにかくスピードとパワーがシャレにならないという。
ぶつかられたり、腕の一振りで人間は千切れ飛ぶ。
その上、知能が有るらしくずる賢い。
そんなところらしい。
細かな作戦を考え話すと全員納得してくれた。
要するに、安全にオーガーが相手できるか確かめるだけの事。
大丈夫なら次の段階へ進む。
念の為もう一杯飲んでおく。
加速は念の為25%まで確認済み。
「じゃあ行ってくる」
「無理するなよ」
他の2人は黙っている、なんだかんだで心配そう。
斜め上に重力調整、ある程度上がったら水平移動に調整。
速さは大して必要無い。
オーガーエリアへ入る冒険者はこの辺にいないのて見られはしない。
仲間もレーダー範囲に入れつつ、オーガーらしい光点を探す。
強さで見当はつくはず、一度確認すれば次は完全に分かる。
まどろっこしいのでレーダー範囲を一気に広げる。
いた、ほぼ等距離で点在するようだ。
最も近い一匹に軌道修正、マップはそいつの場所より若干広めに。
見えた。
「剣技!」
加速25%、バリアは安全重視の縦の楕円形で様子見だ。
着地、突進してきたがバリアにも触れさせず避ける。
あ、加速があるからな、徐々に下げよう。
「おーい!」
帰ってきた、お客さんと一緒に。
「ほ、ほ、本当に言った通りでしたね」
「よし、気を抜くなよ!」
「いけどりー」
「弱点はいつも通りだから!」
光点が見えている。
俺はオーガーを後ろから羽交い締めにして一緒に連れてきた。
問題ないという判断だが、気は抜けない。
魔法使いは体当たりでやられかねない。
バンティの前にはゼファ、俺はヤリマの前に着地。
「剣技」を再度無言詠唱、ゼファと俺の中央にオーガーを突き飛ばす。
上からの炎矢と聖電撃がヤツを掠める。
避けたが逃げる気はないようだ、さっき追いかけっこで勝っているし。
魔物のくせに覚悟は決めてるのか、何か狙ってるかも。
ゼファが瞬間移動し斬りつけた、反応できない。
それだけで充分だったようだ。
「ありがとう、最後は任せる」
オーガーは屈みつつ俺の横を抜けようとする。
やはりな、後衛狙い。
加速無しでオーガーが「普通の」速度になった。
剣を居合のように抜いた。
オーガーの首が飛んだ。
※酔拳:「酔八仙拳」などに代表される中国武術。
実際は酒に酔って使うことは無く、あたかも酔う形態を模したもの。
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