1-12.栄養源?
剣技再起動?
不審な事が多過ぎるが今は・・・
「氷壁を!」
加速状態で言葉が通じるかとは思ったが。
とにかく出来ることを。
あとは・・・逃げるのは無理、重力と加速で・・・なんとか。
氷壁が出来た、伝わったのか。
『棒』を取り出し伸ばす。
「みんな、これ握って」
3人共一瞬ためらい、握った。
『スタン』オン、倒れる3人。
「コ、ウ、お、まえ・・・」
氷壁がドーンと大きな音を立て、ヒビが入った。
よし、もってくれた。
レーダーで激突は見えていた、問題はこれからだ。
「剣技!」
剣技有効
加速:試験オート40%
驚いてる時間が惜しい、重力を・・・。
思っただけで空中に上昇した。
数字と方向が目まぐるしく変化しているが無視だ。
バリアも、脳内3D映像で思う通り・・・ブレスが来た!
避けつつ背後へ飛ぶ。
そうだ、思うままに飛べている。
瞬時に敵はこちらへ回転・・・
はっきり見えるのは加速だけで無く、剣技の感覚強化もあるか。
噛みつきをなんとか避けたが、それでもこいつ速い、速過ぎ。
それなら。
敢えて正面斜め上に浮く。
「光点」が見えている、後頭部だ。
来た、ブレス。
まだだ。
あえて、一瞬待ってから突っ込む。
炎から出るまでコイツには俺が見えないはず。
抜けると、ヤツの首?の光点は目前だった。
足と前面バリアを体表に変更、軽く蹴り反転。
重力を下向き、足で首をガッシリ掴んだ。
剣を突き立てる!
剣が一瞬でボロボロに砕けた、硬い。
ストレージには木剣しか・・・
『棒』だ、忘れてた、引っこ抜く。
やはり硬いが・・・何度も突き立てる、折れはしない。
クモが暴れまくっても下向きの重力で何とも無い。
『棒』を突き立てていると、いい具合の長さに調整された。
突き刺さった!
グリグリと差し込む、奥に。
更に。
ズン、と音がして動きが止まった。
終わった。
グググッと「恩恵」が流れ込んでくる、今までで初めての強さだ。
残りは?
周囲には仲間3人の光点だけだ。
ザコはブレスで共倒れ壊滅。
氷壁は崩れているが、3人とも元気だ・・・
・・・・・・
気がつくと目の前にはゼファの顔が。
「気がついたか!」
ヤリマとバンティもちゃんといる。
体がだるい。
ふらふらと立ち上がると周囲に大勢冒険者がいた。
『竜騎士』の4人もいる。
チル、がいればとりあえず索敵は大丈夫だな。
ギルド職員は解体職人と間もなく来るそうだ。
「コウ、なんで無茶を・・・なんか理由があるんだろ」
「ひどいです!自分だけ危ない事を」
「もし死んだら・・・よかった、よかった」
バンティの言葉の繋がりがおかしいが、言いたいことは分かった。
女の子だな・・・。
「みんな、後でちゃんと話すよ。あれが最善だったんだ」
ギルドの一団が到着。
解体、というか足などバラすだけで冷凍している。
ラミアさんの指揮だ。
「怪我人はここでは皆無だったんですね。
倒したのは『目指せ、竜の撃墜王』の・・・」
「デーモンスパイダーを倒したのはここにいる彼、コウだ」
ゼファの言葉におおーっと全員から声が上がる。
「あのっ、調べないとデーモンスパイダーと決まったわけじゃないんで。
私も実在するかどうかも知らなかったくらいで。
10日位で調査団が来ると思いますが」
胴体はそのまま冷却のようだ。
ラミアさんが俺たちを呼び、小声で話す。
「胴体だけ例の袋使えますか、ギルドのでは無理なんで。
人払いした後ですし、バレてもコウさんを襲う命知らずはいませんし。
あっ、Cランクは確定だと思います。調査終了後ですが」
「さっきは助けてくれてありがとなゼファ」
「いや、チルこそ素速い連絡感謝だ」
ゼファが答えたが『竜騎士』のチルはこっちばかりチラチラ見る。
「間に合わなかったけどね」
「いや、誰が来ても全滅してた。倒したあとで良かったさ」
チルが俺を見る。
「お、おまえってほんとに強いんだな」
顔が赤い、おかしな流れだ。
「いや、あれは」
ゼファが肩をいきなり掴み耳打ちしてきた。
「余計な事は仲間以外絶対言うなよ」
まあ分かってるが間を取れて助かった。
「ああ、運が良かった、紙一重で急所を突けたんだ」
まあ実際そうだからな。
後で聞くと、彼女が『竜騎士』のリーダーだそうだ。
ギルドに胴体を納め、帰りに討伐報奨の金貨10枚受け取る。
暫定報酬ということらしい。
3人は俺のと言うが、当然共同積立へ。
どうせ丈夫な剣が明日からまた必要だしな。
モンスター部位もギルド買取か自分で引き取れて収入になる。
更に討伐したクラスによっては特別報奨も出るらしい。
調査終了後だろうが。
なぜブレスが来るとわかったのか聞くと「物語の通り」だそう。
それにしても、情報未確認の魔物には注意だな。
けだるさに悩みつつ美食亭へ戻る。
宿の名前だからな。
疲れ切った様子を見かねて、ヤリマがヒールと清浄をかけてくれた。
そのまま部屋へ。
鎧は一瞬で収納できるが。
ガジェットは現場で目覚めた時からまたもや真っ白だ。
寒気がするのに汗が出ている、風邪か?
「大丈夫? 高いの頼んだけど食べられる?」
料理の事だ、やけにバンティが優しい。
「ああ多分、目が覚めてから変に空腹なんだ」
空きっ腹だが、3人が乾杯したがっているようで、乗ってしまう。
1杯飲み干した。
( あれ? )
ん、もう酔ったかな?
もう聞こえない、幻聴か・・・?
食べても満腹感がこない。
肥満の兆候?
まあ、今日だけで太る訳ではない。
うまい肉を楽しもう。
間違って二杯目を飲んでしまう。
余計な気遣い・・・また飲ませようとしてる気がする。
ほわっとした酩酊感が全く無い。
こっちも依存症の兆候?
いや、今晩は感覚がおかしい。
関係あるとしたら・・・ガジェットが起動したことか?
実はあの時死んでて幻、って事は無いよな。
ちゃんと味がする。
肉のおかわりをもらう。
ふと気づくと、3人が俺を見ている。
「いや、今日は無言でよく食うなと思って」
「男の人がモリモリ食べるのいいですね」
「先に言われたー、もう。見飽きないー」
ん? ゼファを睨む。
「おい! 俺は穴にしか興味ないぞ」
俺にも穴はある、がそんな事は言うはずもない。
ゼファの不適切な発言で一悶着、その間に食った。
全く酔わないのは食う量の関係か?
気をつけながら流れのまま発泡酒をおかわりする。
後半一気に満腹を感じ、全く酔わないまま3人を俺の部屋へ。
少し眠いが大丈夫だ。
話すにしてもガジェットの機能のみか、その他はどこまで話すべきか。
聞かせる相手側も、この世界の2人と転生者であるゼファとでは内容が違うだろう。
「どこから話そうか」
「ユー、全部はなしちゃおうよ!」
妖精が向かい合う4人の中央を飛んでいた。
目を丸くする3人。
「おかえり」
俺はうつむいてジャージの袖で目を拭った。
「この世界で私みたいな可愛い妖精っていたりする?」
余計な形容詞が入ってるが怒れない。
顔が上げられない。
「童話で色々出ますよね」
本題に入って欲しいんだが。
「エル、いなかった間の記憶はあるか?」
「うん、全部詳細には無理だけど支障はないはず。
でもその前にまず、大事な大事なおはなしがあるのです!」
全員を見廻すエル。
「溜めるな、早く言え」
「なぜ機能停止してたか分かる?」
「『中断します』が再開の合図だったな。
この世界とか色々のシステム解析か・・・リソース、力の全て使ってたのか。
それと機能の進化もだろうな」
『剣技』も組み込まれてたからな。
「あらら、鋭すぎ。もうちょっと引っ張りたかったのに」
「しすてむってなんです?」
「仕組みとか構造だな、ここも誰かが作った、とか・・・?
信じたくないが」
代わりにゼファが答えてしまう。
「あんた達理解速すぎ! それは明かしてはいけないので秘密です!」
あちゃー、宇宙連邦は完全に人選ミスったな・・・。
「あなたたちは忘れるぅ~忘れるぅ~」
もしかしたら、さり気なく明かすのも計画なのか。
「そのとおり、かもね」
呆れるやら意味不明やらでゼファと俺は頭を抱える。
女性陣は気にせず頷いている、なんでだ。
仕方ないので進めさせよう。
「で、機能停止して解析したのがなんなんだ?」
「栄養不足だったのね」
「今も機能停止しかけてるのはその栄養が不足って事か」
「うん、もっと食べないと」
ふざけてるのか。
栄養って電力とか、ガジェットの動力源の例えじゃ?
いや、ガジェットは俺とリンクしているから、つまり・・・。
俺からの栄養なのか。
ゼファには補足が必要だな。
いや、整理しつつみんなに説明しよう。
「このニセ…疑似妖精、それと巨大スパイダーに使った技の元はこれだ」
ガジェットをみんなに見せる。
いつのまにか時計機能が復活していた。
「真っ白だったのが復活したな。メイン機能はまだ・・・」
メニューと心で唱えるが、やはりまだだ。
「完全復活はしてないな。
これは俺とつながってる高度な機械、魔道具だ。
俺の栄養摂取が必要なわけか」
「今日はあれから体調おかしかったでしょ。
低血糖症状、んー栄養不足みたいな感じだったの、一時的だけど。
これを続けると体が保たないから、特に解析中はね。
で、で、アルコール摂ったよね、あれがかなりいいの!」
「全然酔わなかったのはそのせいか」
「他の栄養は30分程度で体内に入ったけど、起動までは無理。
経口摂取、飲み食いで摂れる物はこれからも探すけど。
“魔素”とかも有望かもね。
でも、今身近にあって簡単に摂れる最高の物がお酒なの」
なんて皮肉だ。
あの、家庭的・社会的に自滅する依存症を見て忌み嫌っていたアレが。
強制入院させて一時的に治ったように見えても、また絶望させられるのだ。
たが、ここ数日は拘りから開放されていた。
少しは心が強くなれたのか。
「深刻そうね、でもだいしょうぶ。私達がついてる」
「私もですよ」
「俺もだ」
初日に乾杯を強く拒否したからな。察してくれている。
「私もいるからね」
エルがちょっとだけ寂しそうだ。
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